さよならバグ・チルドレン
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About Gift

山田航の第一歌集です。北海道新聞短歌賞及び現代歌人協会賞受賞作。角川短歌賞受賞作「夏の曲馬団」収録。 2012年8月17日刊 ふらんす堂 解説:穂村弘 ISBN:9784781404035 ◆夏の曲馬団 うろこ雲いろづくまでを見届けて私服の君を改札で待つ 麦揺れて風はからだをもたざれど鳥類であることをみとめる やや距離をおいて笑へば「君」といふ二人称から青葉のかをり 僕らには未だ見えざる五つ目の季節が窓の向うに揺れる 積乱雲に呼ばれたやうな感覚を残して夏の曲馬団去る 掌のうへに熟れざる林檎投げ上げてまた掌にもどす木漏れ日のなか ◆初恋 デッサンをとるときの強い横顔に栞代はりの絵筆を落とす 放課後の窓の茜の中にゐてとろいめらいとまどろむきみは 吐く息がミルク色へと変はるときダッフルコートに刺さりゆく歌 もう二度と上塗りされることのないカンバスに僕の好きだつた木 ◆ペットボトル・ウォーズ たぶん親の収入超せない僕たちがペットボトルを補充してゆく 風に夜に都市に光に怯えてる僕の背中を登りゆく蟻 正月しかみたことのない漫才師みたいに生きてゆけたらと思ふ いつも遺書みたいな喋り方をする友人が遺書を残さず死んだ 打ち切りの漫画のやうに前向きな言葉を交はし終電に乗る ◆ランブルフィッシュ いまひどい嘘をきいたよ秒針のふるへのさきが未来だなんて 夏をのぼる雲のかたちに動かざる紐栞あり新刊本に おろしたてのボーダーシャツをふくらませ午後の気球は操舵手を待つ 紙飛行機すこし開けば角ばつたハートとなりて飛べずにゐたり ぼくたちは尾びれをリボンでつながれたランブルフィッシュひどくさみしい ◆老狼 老狼はしろがねの毛を逆巻きて北走るゆゑに北に死すべし 北からの向かひ風受けなびきゆくあざみのごとき剛毛を見たか 山脈のうねりは龍に擬せられて老狼はただ王位を憎む 北方と呼ばれて永き地をひとり老狼はゆく無冠者として ◆秋の誘蛾灯 誘蛾灯、はるかな港。指させばそこに痛みのなき死はあふれ 世界といふ巨鳥の嘴(はし)を恐れつつぼくらは蜜を吸つては笑ふ 虫のやうな暮らしとおもふアパートの一室灯し身を寄せあへば ただ羽化を信じてゐたりカンテラを掲げて都市といふ巨樹を見る 翼なきふたりそれでも一対の薄き翼でありたし永遠(とは)に ベランダに二色のタオル揺れてゐる蛹のごとき同棲の部屋 ◆フタリダイアリー 曇天の夕映えが照らす僕たちが暮らしたかつた小さな街を 鉢植のゆふがほたちを洗ひゆくにはか雨にも似た日々だつた 連れ去りたい想ひを今朝も置き去りに君が膝抱く部屋を出てゆく ブックエンドくらゐの距離をおいたままふたりは日々に赦(ゆる)されてゐた こんなふうに背中合はせのまま君は君の夜明けを眺めればいい 送電線の向うの雲がちぎれたら適度な距離ではじめよう、また

