まえがき（本文より）

初めまして。坂口貴行です。 この本をお手に取ってくださったということは、 競泳水着に興味がおありということですね？ 競泳水着が好き、もしくは、競泳水着はよく分からないけれど どんなものか知りたい気持ちがある、という人のために この本は作られました。 おかげさまで、弊サークルの発行物はこの本で4冊目になります。 記念すべき1冊目は、競泳水着と類似の水着との違いについて書いた 「競泳水着鑑賞のいろは～競泳水着の分類～」でした。 続いて、競泳水着を着用することにフォーカスした 「競泳水着鑑賞のいろは～競泳水着の着る～」を発行。 さらに、実際に競泳水着を着用することを楽しみとする二人による 対談本「ボクが競泳水着を着た理由」と、刊を重ねるごとに 「次第に業が深くなっていく」とご好評をいただいております。 そして今回は、競泳水着そのものの機能に焦点を当てていきます。 灯台下暗し、ではありませんが、競泳水着という「物」について、 私たちはどれほどの知識を持っているでしょうか。 水着である、泳ぐ時に着る、デザインがかっこいい、そうではなく、 そもそも競泳水着はどんな素材でできているのか、さらには 何のためにその素材が使われるようになったのか、説明することはできますか？ なぜ人が競泳水着を着るのかと言えば、少しでも速く泳ぐためです。 （「着るのが楽しいから」という筆者のような人間が少数派なのは存じております） では、速く泳ぐことを実現させるために、必要なこととはなんでしょうか。 どんな要素を盛り込めば、速く泳げる水着になるのでしょうか。 競泳水着の素材について調べていくと、 自然と競泳水着の歴史について調べることになりました。 第1回の東京オリンピック（1964年）頃からの競泳水着の歴史を紐解いていくと、 20世紀のうちには、例えば「2方向に伸縮する素材」や 「水の抵抗を減らす工夫」などが発見されています。 2000年代には、科学技術の発展とともに水着素材開発にバイオメカニクスが導入され、 かの有名なレーザーレーサー騒動とその後の水着規定の大幅な変更という 競泳の世界における大きなニュースがありました。 今現在でも、競泳水着について語るとなると、レーザーレーサー騒動は 決して避けては通れない重要な出来事なのです。では、それはなぜなのか？ そして2019年の今、競泳水着開発におけるトレンドはどうなっているのか？ この本では、まず競泳水着の大まかな歴史とともに 「競泳水着には何が求められてきたのか」を明らかにしていきます。 続いては現在の競泳水着に使われている素材や技術について、さらに 素材の面から見たレース用水着と練習用水着の違いについてもお伝えしていきます。 タイトルは簡潔に「競泳水着の素材」としましたが、素材だけでなく水着開発にまつわる情報を なるべく分かりやすく、見た目にも楽しくなるようにまとめてみたつもりです。 この本が、競泳水着をより深く知り、 競泳水着を好きになるきっかけになれば幸いです。