しろがね人生
- ¥ 2,100
題名:「しろがね人生」 サイズ:A5 ページ数:300ページ+表紙 値段:2100円+送料 通販方法:boothにて自家通販、ネコポス使用 内容:支部にて公開していた「灰崎祥吾のしろがね人生」の本編を加筆修正したもの 書き下ろしの番外編(全6話35ページ) 備考:オンデマンド印刷のため多少の波打ち、モノによっては表紙に梱包前からあった傷がある場合があります 傷に関しては黒色の表紙の為、少しだけ目立ちますがご了承ください。申し訳ございません 配送準備は1~3日、どんなに長くても7日までには致します。 ~書き下ろし番外編・冒頭抜粋~ ①【本当は嫌いではないんだ】 「ところで、足は大丈夫なのかい」 「あ、はい。繋げた時は歩くのに苦労したけどもう自分の足のように使えます」 練習が終わり、これから後片付けだと皆が動き出そうとしている中、中谷は皆の練習と試合風景を隅の方で眺めていた灰崎に話しかけた。話題としては今更な気もするが、デリケートな話題でもあったので躊躇していた中谷だが、意外にも灰崎は全く気にすることなくその問いに答えた。 中谷、そして他の者達がその目で見た灰崎の最後は両足を無くした彼が赤司人形隊に運ばれていく姿だった。 今は長ズボンをはいているのでその下がどうなっているかは分らないが歩く事が出来ているので安心をしていた。 皆、安心した。元気そうだったことに、心から。 ②【シオン】 「福田総合っすか…、まぁ、もう会うことはないだろうなって事だけは……」 二日間という短期間のみの合宿参加一日目の夜、灰崎は監督勢のテーブルにお邪魔させてもらっていた。 洛山の監督である白金が、かつて灰崎が所属していた学校の事を口に出した。 「……何て言うか、悪い事をした自覚はあります。その、俺は最初からやる気がなかったから。バスケなんてもうしないって思いながら任務にすがりついて福田総合に通っていたし」 中谷相手には砕けた言葉遣いや微妙な敬語を使っていたが、その他の監督勢には敬語を使って壁を作っている。 中身がどうであれ、見た目からすると監督勢の方が年上なので灰崎なりに気を使った結果だ。 「なら何故君はバスケを?」 「福田総合のバスケ部に声をかけられたんですよね。しつこく声を掛けられて、それで面倒くさくなって……」 強い者に部へ入ってほしいという気持ちは分らなくないだろう、そして灰崎の存在を持ってバスケ部を変えようとしていた石田の気持ちも。 ③【ゆめうつつ】 気がついたら洋館にいた。 ふと目を開けるとそこ日本の雰囲気を全く感じない何処かの綺麗な洋館で、進行方向先には長く続く廊下がある。 「……こ、こは」 人攫いにあったのだろうか、と考えたがこんなおじさんを攫っても意味が無いのでその線は消えた。そもそも攫われた覚えは全く無い。 此処に立っていても仕方が無いと目の前に広がる一本道へと一歩踏み出す。背後を振り向いたがそこには何もなかった。 洋館の長い廊下、明かりは全てろうそくだ。 知る限り電気を使った明かりが主流だが、このレンガなどが積まれて出来た一昔前の洋館では電気の明かりよりろうそくの方が似合っているかもしれない、と観察しながら特に中身のない考察を行った。 「……綺麗だ」 少し進むと左右に絵画の様なものが現れた。 油絵だろうか。 ④【大切なお月様】 「とても、長い旅をしていた様に思えます」 病室に設置されているベッドに横たわる女性はそう言った。 ベッドの横に椅子を付け、そこに座る灰崎は力無く放り出された手を握りしめながら言った。 「……人生は旅の様なものだと誰かが言っていたな」 「ふふ……言い得て妙ですね」 力無く微笑む女性に、灰崎の眉間の皺が深くなった。 「そう、悲しそうな顔をしないでください」 「してねーよ」 「本当に貴方って強がりなお方」 ⑤【深淵を覗く者】※追加した番外編 虹村修造という男は自身にも他者にも厳しい男だ。 少々抜けているところや真っ直ぐに物事を考えてしまい暴走してしまう事もあるが、基本的には冷静である。 勘が鋭く他者の気持ちに敏感なので、大概の事柄で上手く立ち回る事が出来ていたが、たった一人だけ上手く関わる事が出来なかった人物がいる。 ――灰崎祥吾。 後輩であったが後輩ではなかった男。 何も知らぬ中学時代、虹村は灰崎を見て、自分とは交わらぬ道を進む男だと何処かで勘づいていた。 それが「何」であるかは分からなかったし、二人の生き方そのものが全く違ったのでそう思ったのは無理もなく、そして中学で別れてからはその後一生会わない可能性の方が高いとも思っていた。 虹村にとって出来が悪く、どうしようもない後輩だと思っていたその男は、誰よりも強く、そして悲しい運命の中で生きていた。 あの合宿で別れて以降、会ってはいない。 嫌いなわけではない、ただ本当に心から「理由」と「機会」がなかっただけで――。 ⑥【歯車の様に、】 「才賀にとって「赤司」という存在は、目の上のたんこぶだったんだよ」 最終決戦前夜、ギイはフウの元を訪ねていた。 誰にも話が聞かれない様に人払いを行い、フウが作り出した自動人形達が何人たりとも近づかせまいと部屋周辺に待機をしている。 「……目の上の、たんこぶ」 「あぁ。……君だって一度は思ったんじゃないのかい? 赤司グループが邪魔だと」 「…………」 壁一面に広がるいくつもの画面の中で、赤司グループの人形使い達の顔写真がうつった。その中央には先代赤司家の当主とその妻が寄り添いながら微笑みを浮かべている。 「赤司人形隊、それは灰崎祥吾、またの名をしろがね・アルジェントの私兵の様なもの。正二と共に計画をたてて実行にうつしていた君は、一度は思った筈だ」 「……否定はしないさ」 フウの何を考えているのか分からないその目はジッとギイを見つめている。ギイは肩を竦めながら何でも無い様にため息を吐いた。