
異世界に落ちて皇帝直江の后になって早1年バタバタしながらも高耶は、甘~い生活を送っていた。だがある日宮廷内で高耶が誘拐されてしまった。高耶の無事を祈りつつと行方を追う直江。高耶はその頃意外な現実に直面していた。赤鯨衆登場!シリアスなよーなコメディなよーな、でも甘ッ! この前出した「皇帝陛下の夏休み」のその後の話 前の本読んでなくても分かるよーになってます 異世界トリップした高耶が皇帝直江の后になって早1年 赤鯨衆登場!なのです 異世界トリップファンタジー第2弾 「お后さまは大慌て」収録 フルカラー 196 P 完売済み第二弾はこちら https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7728530 「昼食が終わった後、高耶様は義明様三郎様と共に中庭の散策に向かわれました」 「中庭だな」 「はい、昼食を摂ったのが中庭の中心にある大きなレムの樹です。食事中の中座は無く、終わるまで3方とも席に着いたままでした」 「……」 直江は黙って聞いている。 「間も無く食事が終わって高耶様は、右手に三郎様、左手を義明様と繋ぎながら歩き……茂みに兎を見付けられました」 高耶の後に付けていた小太郎も、間違いなく目撃した、白い兎の姿を。 「皇子お2人がまず兎を追いました。兎は数歩離れた低い……高耶様の腰程の茂みの中に消え、高耶様も同じように茂みの中へ入りました」 「……」 小太郎の他の者達は皆黙って聞き入っている。 「そして」 そこで不意に、声が途切れる。と同時に謁見の間に騒がしい声が近付いてきた。 お待ちくださいッ! 三郎様義明様ッ! 懸命な制止の声、と同時に、 「父上ッ」 飛び込んできたのは、甲高い子供の声。 「父上ッ!」 「お待ちくださいッ!」 皇子達を止め切れなかった教育係の声が、空しく広間に響いた。 「父上ッ!高耶が消えたんだッ!」 「しゃがんた時、消えてしまったんですッ!」 「……」 興奮で頬が高潮している2人の我が子を、皇帝は醒めた眸で見下ろす。 「……言ってみろ」 凍った声に、子供達の躯が震えた。だが今はそれよりも高耶が、義母が心配だった。 「何があった」 「はい」 「はい」 赦しを得たと決めて2人は、小さい膝を片方床に着ける。 「おれ達が兎を追って走ったんです」 何時もは落ちている三郎が、興奮気味に言った。 「小さくて白い兎で、庭の向こうから」 と言いながら義明は、左手を上げ円を描くように右に寄せた。 「こう来て……木の中に入ったんです」 そこまでは小太郎から聞いている。 小太郎の話せるのは、実はそこまでだった。走る高耶を追って茂みにはいった時には既に、王妃の姿は消えていたのだから。 「……」 無言の直江に促され、目を合わせて頷き合った兄弟は同時に口を開いた。 『消えたんですッ』 「……消えた……」 「義母上はッ、義母上は兎を見ようとして……見ようとして木の中でしゃがんで……」 「高耶はしゃんがんでそれから、それから兎の方に手を伸ばしたんだッ」 先に茂みに入った兄弟達は、止まった兎に触りたくてしょうがなかった。 ふわふわで可愛い兎。触ったらきっと毛がモコモコして柔らかくて、心地好いに違いない。 急に動いたらまた逃げてしまう、だからどそっとそっと手を伸ばしてみる。そこへ後からやってきた高耶が、茂みに入って来た。 「……高耶が入って来て……兎がビックリしてまた葉っぱがいっぱいある中に逃げようとして……」 「義母上が逃げてく兎のお尻に手を伸ばして……それでぼくたち兎を見てたんです」 兄弟の視界の中には、懐っこい兎らしくキョドキョドしているが、完全には逃げない兎の白いお尻と、そこに伸びた義母の指先で。 「……直ぐ葉っぱの中に兎が逃げて……見たら高耶はもういなかった……」 「……うん……」 三郎の言葉に義明もこっくり頷く、涙を堪えながら。 「……」 5才と6才ながら、言葉のそれは幼いが、それでも意味不明な点も無く簡潔できちんと要点を外さず話している。 「そうか」 直江は頷いた。 小太郎の説明と子供達の言葉に、高耶が消えてしまった前後の状況はその場にいた者皆が把握した。だが、謎は残ったままで。 「小太郎」 「は」 軽い調子の千秋の声だが、目はそれを裏切り真剣だ。 「茂みの高さは高耶の腰程度、って言ったな……なあ高耶はどんな格好してたんだ?」 前半を小太郎、最後の問いは2人の皇子に向けたものだ。 「高耶は馬の格好をしていた」 「ふーん、四つん這いになってた訳だ」 立っていれば茂みから上半身が見えている筈なのだから、その言葉には頷ける。 「で、消えた、と」 「……」 「……」 「……」 千秋の締め括りに、再び沈黙が落ちる。 「どう思う?」 千秋が訊くと、直江は少しだけ表情を動かした。 「兎は罠だ」 直江の端的な言葉に、千秋は頷く。 「だな、俺もそう思う……小太郎」 「……」 小太郎は頷くと、背後に控える七郎に目配せした。そのまま足音無く広間を後にした。 「お前達は部屋へ戻れ」 「え?」 「父上?」 てっきり何か罰があると思っていた子供達は、父皇帝の言葉に顔を見合わせる。 「当分大人しくしているように」 「……」 「……」 それだけ言うと、直江は腰を上げカツカツ、と高い靴音を響かせながら広間を後にしたのだった。 カツカツカツ 分かっている、直ぐに手を打たなければならない、と。 「……」 カツカツカツ 回廊を歩く靴音のリズムは、徐々に早くなっていった。 自分が何処へ向かっているのか、直江の頭には分かっていない。ただ慣れた足が進むままにしているだけだ。 高耶が連れ攫われた 報を聞いたのは、丁度エチゴの大貴族の1人との謁見が終わった時だった。 小太郎がやって来た。その姿を見た瞬間、高耶の身に何か 起こったのだと、良くない何かが降り掛かったのだと直江は悟った。小太郎は緊急事態が起きない限り、直江に直に何かを報告する事はない。緊急事態の、それも余程のトラブル以外に。 直江は王座に座ったまま、小太郎の報告を聞いたのだ。 高耶が連れ攫われた それを聞いた瞬間の精神状態を何と言って説明すればいいのか。 目の前が白くなって、それでも不思議な程クリアに意味を理解してしまった。そして、 「……」 叫び出していた、声無き叫びを。 声も、出なかったのだ。 俺のものが何故俺の元を離れる――――? 殺してやる 彼に触れたもの全て 直江の思考には〟殺戮〝しか存在しなかった。 人払いした小太郎は、それから告げた。 直江の顔からは、完全に感情と人の持つ温度が消え去っていた。 淡々と八海と千秋を呼び、直江本人は王座から指一つ動かさなかったのだ。それから報告を聞き、そして皇子達が駆け込んできた。 どんどん意識が冷えていくのが分かる。それを何処か遠くで、人事のように感じていた。 俺のものが 「……」 カツカツカツ 俺の、ものが――― もし、この件が国絡みのものなら、草の根一本も生えない程に焼き尽くしてやる。この先何世紀、生命一つ生まれない程に。 もしも、もしも高耶に何かあったら、 「……」 既にこの時点で高耶は…… ふと、直江は自分の手が震えている事に気付いた。 「……」 ギュ、とこぶしを握り締めた。そこに強い決意の色を浮かべながら。
