銀河鉄道最終便
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About Gift

とあるサラリーマンと大学生が「イーハトーブ」という星を男ふたりでゆるっと旅する話です。 一次小説で本を出すのがはじめてなので、いろいろお見苦しいと思いますが、よろしければどうぞ~
冒頭2ページちょっと(サンプル)
指定席に腰掛け窓の外をぼんやりと眺めていると、蝶が飛んでいくのが見えた。ここは銀河鉄道の寝台車。これから俺は、持て余した有給休暇を使って一人旅に出かける。 銀河鉄道の廃線が決まったのは、半年ほど前のことだった。格安小型宇宙船の普及やワープシステムの安全面が声高に叫ばれるようになり、移動に時間の掛かる銀河鉄道はゆるやかに廃れていった。 鉄道ファンの声も虚しく、老朽化を理由に決まった廃線だったが、同時に、最終便イベントの発表があった。そのイベントは各星へ行く最終便に乗車し、目的地の星で観光ができる一泊二日のツアーだ。別れを惜しむべく鉄道ファンがこぞって応募したために倍率も高かったらしい。 と言っても、俺はチケットを自分で手に入れたわけではない。職場の鉄道ファンの先輩が、急遽妹の結婚式が決まって行けなくなったために譲ってくれたのだ。おまえは休みの日になにもせず寝ているだけだろう、と余計な一言がついてきたが、まったくもってその通りなのでなにも言い返せなかった。 ありがたくチケットをもらったものの、俺には行き先である「イーハトーブ」に特別な思い出はなかった。子どもの頃に一度だけ、父に連れられて行った記憶が薄っすらとあるだけで、どこへ行ったのかもなにをしに行ったのかもまるで思い出せない。 迷子にならないように、と持たされた観光マップも、来る前に一度開いただけだ。まあ、最悪、寝台車でごろごろしていてもいいわけだから、どうにでもなるだろう。 「あの、すいません」 個室のドアが開き、青年が顔を覗かせた。 「『こぐま座』ってこの部屋ですか?」 キョロキョロと部屋の中を見渡す青年に、俺は頷いて答えた。 「そうですよ」 「あ、よかった。お邪魔しまーす」 「どうぞ」 まだ学生だろうか。パーカーにジーパンというラフな格好がさわやかだ。使い古したリュックを胸に抱えて猫背気味だが随分背が高い。 端正な横顔を目で追っていると、青年は向かいのベッドに腰掛けた。 「はじめまして。俺は相良 虹って言います。虹って書いて『コウ』って読みます。コウでいいです。多分、年下なんで」 青年がぺこりと頭を下げるので、つられて俺も頭を下げた。顔を上げると、彼は俺を見ていた。 最近の若い人――とは言え俺もまだ若いほうではあるけれど、学生くらいの子はみんな、こんなふうに初対面でも下の名前で呼び合うものなんだろうか。 俺が学生の頃は、名字で呼び合っていた気がする。 「大和 真実です。真実と書いて『マコト』と読みます」 「へぇ! かっこいいっすね。真実かぁ」 「虹もかっこいいですよ」 「ははっ。ですよね。気に入ってます」 彼が朗らかに笑っている。俺は自分の名前を気に入ったことなんてないから、彼のことを少し羨ましく思った。 子どもの頃から「マミ」と呼ばれてからかわれた。べつに「マミ」が女の子だけの名前だということはない。ただ、自分の名前を呼ばれることに抵抗があった。だからずっと『大和』と呼ばれている。「マコト」と呼ぶのは家族くらいだ。 「マコトさん、サラリーマンっすか?」 「え?」 唐突に名前で呼ばれた挙句、職業を訊かれた。さっきから、自分にない距離感で戸惑ってしまう。 彼はなにかに気づいたような顔をして、しまった、と呟いた。 「こういうとこがあかんのか」 「あかん……?」 「ああ、つい、訛りが」 彼は小さく息を吐いて項垂れた。 「訛ると笑われるんすよね。恥ずかしくないの、って。俺、自分が生まれ育った土地の言葉を恥ずかしいと思ったことないから……」 言い終わると彼はつまらなそうに唇を尖らせた。その仕草がひどく幼くて思わず笑ってしまった。 遥か昔。まだ地球がひとつの惑星として生きていた頃。かつて「日本」という国に「方言」という概念があった。 日本と言う国になる前に、さらに小さな国があり、その国ごとに言葉があったのだと聞いたことがある。日本という国になったとき「共通語」という概念が生まれ、その言葉は地球が様々な星として生まれ変わっても変わらず残っている。 彼の言う「訛り」とは、ひとつの星として生まれた、元は日本のどこかの地域の「方言」を指す。方言は、もはや歴史の産物。これが現代の認識だ。 思わぬところで聞き馴染みのある言葉を聞き、なんだかうれしくなった。偶然、同じ車両の同じ部屋に居合わせただけの旅人が、ふるさとの言葉を話しているのだから。 「べつにええと思いますけどね。訛っても」 「え?」 「俺も『なにわ』出身なんでね。ちなみに、ご想像通りしがないサラリーマンです」

