みつばちマーチ
Physical (worldwide shipping)
- 総集編①Vol.01-Vol.05500 JPY
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- 総集編①Vol.01-Vol.05500 JPY
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- 番外編 ブルーノート0 JPY
総集編①Vol.01-Vol.05 +番外編2編 P60/500円/文庫 第一話「ヒート」 第二話「チョーカー」 第三話「屋形越え」 番外編「パフューム」 番外編「ブルーノート」 第四話「斑目貘」 第五話「ラット」 ---------- あんしんBOOTHパックでの発送です(\370) ※内容サンプルはこの記事の下方にあります。
紹介文
本作品は「オメガ優位社会のオメガバース」という独自設定です。 繁殖力の強さと希少性から「裏社会の権力者はオメガ性が多い」という世界観です。悪徳者達のリーダーたちも概ねそうです。また、切間一族の歴代頭首は全員オメガ性です。 というような設定もそこそこに貘ハルです。 ※本文中に撻器×絵子夫婦のなれそめエピソードがあります。
01.ヒート
---------- 僕は自分の第三次性徴を、つまり、オメガとして成熟を迎えた日のことをまるで覚えていない。 たしかなのはそれが十三才の秋だということ、そしてこの世界のどこかに、僕のそばでラットを経験したアルファがいるらしいということだ。 二週間あまりのあいだ、僕は完全に行方しれずだった。ようやく保護され、医師から「ヒートの痕跡がある」と診断されたとき傳役の棟耶将輝は怒りのあまり卒倒したと聞く。 相手はまったくわからない。手がかりはそのとき身に付けていた護身具のチョーカーだけで、それは今でも僕の手元にある。 チョーカーにはいくつかの歯型が残されていたが、かろうじて検出された唾液から「B型の男性」と判明したのがせいぜいだった。 渾身の力をこめて噛んだのだろう。チョーカーのベルト部分にくっきりと、「彼」の切実な無念が刻まれている。 頑丈な革のベルトにみごと阻まれ、僕たちはつがいになれなかったのだ。 「惜しかったなあ、創一」 うなじを噛まれずにすんだこと、また、繁殖に至る交配でなかったことを安堵する大人たちの中で、ただひとり父だけが「うちの息子がしくじった」と言って笑った。 「なにせ、お前がヒートするほどの相手だ。とびきり上等のアルファに決まっているからなァ」 そう父に頭を撫でられて、僕は冒険から戻って以来はじめて泣いた。まさか中学生にもなって泣くとは思わなかった。 「僕は失恋したのかな」 家に帰って来てしまった以上、「彼」のほうが僕を見つけるのはほとんど不可能に近い。 父は肩をすくめ「お前なら諦めるか?」と僕に尋ねた。 なにしろ、顔も名前も思い出せない。彼のほうも大変だろうけど、僕のほうも至難のわざだ。わかっているのはB型で、男で、アルファ性だということ。そして、僕をどうしようもなくヒートさせたということだけだ。 「充分じゃないか? 謎は多いほうが面白いぞ」 「途方もなさすぎるよ」 泣いたら頭がすっきりして、さびしさよりも怒りと闘志がわいてきた。 すでに勝負は始まっているのだ。多くのものを犠牲にしても、必ず見つけ出さなければならない。 ぼろぼろのチョーカーを握りしめて、僕は運命について考えた。たとえどんなに頼りなく、かぼそい糸だろうと、その先が誰かに繋がっていると考えるのは気分がよかった。 僕が自分の生と性について考えるとき、決まって思い浮かぶのはミツバチの群れだ。交配期の女王バチに挑んだオスバチは、そのほとんどが目的を果たせないまま命を落とす。思いを遂げられるのはたった一匹。ただひとりのオス、ただひとりの相手、ただひとりの伴侶だ。 つまりこれは僕と、僕のつがいについての物語だ。 そして、ラブストーリーはかならずハッピーエンドと決まっている。