混成5重奏曲「忘却の途」楽譜
- 0 JPY
楽譜および参考音源です。 無料配布していますが、無断転載や再頒布は禁止とさせていただきます。 ------------------------------------------------- 混成5重奏と未来ある若者たちのための 忘却の途 -群像と独白(毒吐く)に寄す The Way of Oblivion -for mixed quintet & promising youth 作曲:冨田 悠暉(トイドラ) Ⅰ. Tener Saxophone in B♭ Ⅱ. Trombone in C Ⅲ.Euphonium in C Ⅳ. Tuba in C Ⅴ. Percussion 1. Sleigh Bells 2. Maracas 3. Chain 4. Liquor Bottles 5. Sticks 6. Organette (33 note type)
《楽曲解説》
現代は世代間格差の拡大が目に余る時代と言えよう。技術革新が絶えず起こり、それに合わせて時代の潮流も凄まじい勢いで盛衰してゆく。私は幼少の頃、母親に絵本を読んで貰うのを毎晩楽しみにしていた記憶があるが、ほんの 10 数年生まれる時代が遅れていれば、ディスプレイ上に蠢く動画と機械音声とで演じられる“絵本”に馴染んでいたかも知れない。そんな状況で、現代に生きる「老人」と「若者」とは、もはや異次元の住民かとすら思えるほどに構造の異なった精神を持っている。構造原理の一切を異にする別世界に生きる住民と言っても良い位だ。戦時の国民主義の流れを汲んだ昭和初期から、グローバル社会や個人主義もありふれた平成の末期まで、100 年にも満たない僅かな期間で日本の社会は極めてラディカルな変遷を遂げた。現代の老人と若者とは、現実に全く異なった社会的背景の下で生まれ、育ってきたと言って差し支えないのである。 こういった社会の激変の中、老人と若者とはお互いの間に聳える「壁」に甘んじ、お互いを敢えて見ることなく過ごしている。この楽曲の中には若者と老人が登場するが、若者は老人に言われることには耳を傾けたがらず、いつも自分の好きなようにしたいと思っている。老人は、そんな様子の若者に敢えて構うこともなく、仲間たちで集うては古き良き時代に思いを馳せている。 ところで、人間とりわけ大人の人間は、いつ「自分もかつては子供だった」ということを忘れ去ってしまうのだろうか。浴槽の中で小便したり、訳もなく教師の言うことに刃向かって廊下を転げ回ったり、恋人に失言したり、また恋人の失言を許さなかったり、人生の選択肢をまさにその手で誤った経験が自分にもあるという事実を、どうして人間は(そんなことあったナァ、といった漠然ではなく)はっきり覚えておくのを止めてしまうのだろうか。そして同時に人間は、今の自分も「まだ子供」であるということを意識しなくなるのだろうか。老人が若者を避けるのはこれが所以か。彼らの瑞々しい(それと同様に傍ら痛い)青々さを直視するには、その目は乾き過ぎてしまったのだろうか。そんなことを考えながらこの曲を書いた。愛知県立横須賀高校吹奏楽部1、2年生の男子諸君より委嘱を受け、彼らと関わり、自分はまさに瑞々しい若さを見た気分であった。 未だ青く若き吹奏楽部男子の諸氏に、この楽曲を捧げたい。 2019/02/13 名大作曲同好会 会長 冨田 悠暉