『日々のかけら』(クレガロ同人誌)
- 700 JPY
B6サイズ 104ページ 平綴じの「コピー本」です。 (家庭用プリンターで印刷・手作業での製本) ツイッターやピクシブでUPしていた 300~3000字位のSSを、38話詰め込みました。 内2話は初出となります。 ※比較的長めのものは、クレガロワンドロワンライ企画への参加投稿分がほとんどです。 長らく楽しませていただきましたこと、企画主催者様には心よりお礼申し上げます。 甘いいちゃいちゃから、殺伐シリアス系。 のほほん日常から、死ネタまで。 いろいろなクレガロを、ざっくり季節の順に並べてみました。 文頭にテーマを簡単に記載していますので、気になったものから読んでいただいたり、ぱっと開いたページから読み始めるといった楽しみ方もいいかもしれません♪ 【試し読みとして。比較的短めのもの】 灯りを落としたままの部屋の中。お手をどうぞと差し出す腕はないから、クレイはただガロを緩く抱き寄せた。 窓から射し込む月明かりだけを頼りに、遠い車の走り行く音と風に揺れる木々の音とを聴きながら。 「いち、にぃ、さん」 ワルツのテンポは、覚えたばかりの極東の言葉で。 正しいステップもスタイルも、然程解ってはいないけれど。 触れる暖かさと、同じ早さの呼吸。それから、見詰め合う瞳の優しさで事足りる。 「いち、に、さん?」 口移しにガロの聞き慣れないカウントを真似たクレイに、きゅうっと抱き付く腕に力を込めて。 二人きりの舞踏会を、もう少しだけ。 【試し読みとして。比較的長めのもの】 例えば、美味しい料理に。 例えば、晴れた空に。 例えば、笑ってみせたクレイに。 ガロは裏表のない笑顔で、幸せだと言う。 「お前の『幸せ』は随分と安上がりだな」 呆れた声には少しこれ見よがしなため息を混ぜる。 テーブルの向かいでは、ピザのチーズが伸びるのを楽しげに手繰って頬張ったガロが、これが幸せだと言って笑っていた。 「安いなら良いじゃねぇか。手軽にたくさん」 もぐ、と頬張ったピザを、ちゃんと飲み込んでから、ガロは不思議そうに首を傾げる。 動作が大きいことでがさつに感じられがちだが、ガロはマナーに外れる事はしない。 細かい所で揚げ足を取るような者は何処にでもいるものだから、と過去に諭したのはクレイだった。ガロ自身を気遣うふりで、自分にまで悪評が回ってこないようにと、先手を打つ気持ちで告げた記憶があるが。ガロはどうやらクレイの真意を理解した上でその言葉に従っていたようだった。 「その程度で『幸せ』であるなら、そうだろうな」 トースターで温め直しただけのピザ。 お湯で粉を溶かしただけのスープ。 ドレッシングをかけただけのサラダ。 セット価格に閉店間際の割引で、半額以下に収まった。 「んー? 温め直せばチーズもトロトロで、お湯は沸かしたばっかだからスープは熱々だし。サラダなんてドレッシングか塩か位しか変わらなくねぇか?」 クレイが並べ立てた安上がりな部分に、けれどガロはやはり納得がいかないらしい。 ちゃんと美味しいではないか、と。 「あえて『幸せ』と言うくらいの食事なら、もっと良いものを指すべきだと思うんだが」 高級な食材。 腕の良い料理人。 静かで綺麗な店。 クレイはプロメポリスの中だけでも幾つか思い浮かんだ有名店の名を並べてみた。 「あぁ。うん……そういう料理も良いよな」 ガロはクレイに連れて行かれた店を思いだし、ふにゃりと笑みを浮かばせた。 ただ、笑んだのは料理の味を思い返したからではなかった。 「クレイと二人っきりでゆっくり食べれて、嬉しかったなぁ」 多忙なクレイに、誕生日やら学校の昇級祝いやらと折に触れて会うことはあったが。落ち着いて食事や会話が出来たかと言えば、半々といったところだった。 「子供に味を解れと言うのが無謀だったか」 ため息をもう一度吐き出して、クレイはピザの一切れを手に取った。 極東の島国発祥、との煽り文句にガロが食べたがったテリヤキ味とやらは、いつしかクレイの舌にも馴染んだ。 ゴロゴロと乗せられていた一口サイズの鶏肉が、転がり落ちそうになるのを器用に拾うように食べていく。 「旨いよな、これ」 クレイの先の嫌味は聞かなかったことにするらしいガロは、少し前のめりにクレイに向かう。 「あぁ。少し濃い目の味が厚いピザ生地に合うな」 否定する必要のない問い掛けに頷いてやれば、ガロはそれこそ幸せそうに笑った。 「な。安くって良いんだよ。旨いってことは、幸せってことだ」 話をくるりと元に戻し、ガロは空色の瞳を細めて笑う。 「安くたって高くたって、良い。旨けりゃアンタは今みたいに笑うだろ。アンタが笑ってるってことは」 今、俺は、クレイと一緒に『幸せ』であるってことだ。