文芸同人誌「クリライズ」
- 500 JPY
クリエイティブライティング、略してクリライ。 テーマや制限を定め、規定文字数内で短編を競作する、 大学の文学サークルで取り入れていたこの文芸の遊びを、 同期メンバー(+α)で久しぶりにやってみたところ、 思いのほか長く続いてしまい、数えてみたら88作。 コロナ禍下の手なぐさみに、ふとまとめてみました。 2021年5月16日の文学フリマ……には出展しないのですが同じ日に発行いたします。 判型: iPadに最適化されているはずです ページ数: 138ページ 容量: 約2.3MB * * * * * もし感想くださる方がいらっしゃいましたらこちらまで、ぜひ!↓ https://peing.net/ja/133cfb72c19080
サンプル(画像4枚目内容)
テーマ :「北へ」 字数制限:800字程度 「ボイルズワイガニ付きビュッフェ120分4000円」せがわ 記念日に駅ビルの食べ放題の店に行ったらミヨは激怒した。わけがわからない。彼女の弁によれば、高級店でなくてもいいとは言ったけど、そういうことではない、ということらしかった。 「私達の愛にも時間制限があるの?」 と言った瞬間はミヨもなんかうまいこと言っちゃったなって顔をしたが、思わず笑ってしまったら怒りはさらに加速し、一皿が空く頃こんなセリフが飛び出した。 「愛を証明してほしい」 「どうやって? 愛って何? それって証明可能なの?」ぼくは尋ねた。 「あなたは今ずっと蟹の殻を剥いていたけど」と彼女は殻が山盛りになった皿を指す。 「だって時間制限あるからね」 「なんでそれを一人で食べるの? なんで私にも、食べる?って訊いてくれないの?」 「食べる?」一応言ってみたが、案の定ミヨはぼくを無視した。 「そういう、思いやりとか、言うなれば献身がほしいの、私は。言葉で求めるものじゃないと思うけど、言わないとならないなら言うけど、つまり、私のために殻を剥いて蟹の身を差し出してほしいの」 「蟹の身を……全部?」 「そう」 「それが……愛?」 「そう」 ぼくは唸った。すごいことを言うなあと思った。 「なんで、北海道まで行くんで休みをください」 と部下が話を締めくくって、私は唸った。すごい話を聞いてしまった。 「行くの? わざわざ? 本場の蟹を剥きに?」 「です。食べ放題のじゃ駄目っぽいんで、せっかくなんで」 「たぶん蟹の質の話じゃないと思うんだけど……」 「うーん……」 私は笑って、書類待ちの右掌の上に、抽斗から出したのど飴をひとつ、袋のまま乗せてやる。 「北の土産を楽しみにしてるよ」 右手に飴、左手に書類を掲げ、部下は変な顔のまま帰っていく。きっと彼はまたなにか怒られて帰ってくるだろう。気の毒に。蟹の殻を剥いてあげるなんて、私なんか息子くらいにしかしないと思う。北海道へ行くのだって、大した愛だ。そうだろう? 私に夫がいたら、今日くらい蟹グラタンでも作ろうかとか思うだろうか? 「いや、ないなあ」 ひとりごちて、飴を口に放り込む。私はせいぜい、帰りにカニカマでも買ってサラダを作るとしよう。 (880字)