暴竜降臨(ジオラマベース付)ティラノサウルス・イグアノドン・トラコドン・アンキロサウルス
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昭和恐竜図鑑定番の構図をイメージして仁王立ちのティラノサウルを中心に、イグアノドン、トラコドン、アンキロサウルスを配置。イグアノドンも直立、水辺のトラコドンの手には水かきも表現。 縦横奥行きはジオラマベース込みでざっくり25~30センチ程度。 恐竜はアルミ線などの芯材に石粉粘土を中心に樹脂粘土なども使用して造型、アクリル塗料で塗装。 ジオラマベースは各種粘土と、バークチップなどの自然素材やフェイクグリーンなども使用。 ガレージキットではなく一点物の彩色済み粘土造型です。
ネンドソー的恐竜名鑑◇ティラノサウルス
◇ティラノサウルス 全長13メートル/体重9トン/白亜紀後期 名前の由来は古代ギリシャ語の「暴君」を意味する「テュランノス」から。暴君竜と訳されたりもする。種小名のレックスはラテン語の王様。つまり王様の王様と意味が二重にかぶるくらいの王様であり、その名に恥じぬ生命史上最大最強の陸棲肉食恐竜である。 筆者が子供の頃はチラノザウルスと表記されていたものだが最近は流行らないようで、そもそも「ザウルス」と濁音になるのはドイツ語発音であり、恐竜文化輸入はワイマール憲法に学んでいた近代であろうから、ついでにこちらもドイツ語風発音を輸入したものだったのだろう。同時代に輸入したと思われる近代文明の根幹である「エネルギー」は相変わらずドイツ語発音に準じてエネルギーだが(なぜかドリンクの時だけ英語のエナジーを使うようだが)、ザウルスについては改めようということになったらしい。 サウルスはもとのラテン語発音に近く、英語発音なら「ソーラス」となり、タイラノソーラスですな。誰だよそれ。あと、群馬県立自然史博物館の展示と関連書籍だけは特別館長の真鍋真博士のこだわりでさらにラテン語発音に近づけ「ティランノサウルス」と表記しているが、そういう偏屈をのぞけば、やはり「ティラノサウルス」と表記されるのが一般的。 筆者が子供の頃にはあれはどこの誰さんのこだわりだったのか結構な割合で「タイラノサウルス」と表記されていて、大人になってから気づいたのだが、あれって単純に英語発音に寄せただけではなく実は平家にちなんでいたのではないか。かの夏目漱石は「I love you」を「今夜は月がきれいですね」と訳したというが、清盛でも敦盛でもいいのだが(あるいは将門でも)、すなわち驕る平家は久しからずであり、すでに滅び去った暴君への哀悼を込めた「タイラノ」表記。これって実は名訳ではないか。ここはひとつ「タイラノサウルス」表記の復活を提唱したいところだが誰も聞いてくれないだろうな。ああ、諸行無常の響きあり。 さてそんなティラノサウルスは、1892年、1900年、1902年にアメリカ各地で発見され、1905年にアメリカの古生物学者ヘンリー・フェアフィールド・オズボーン博士によって命名記載された。シノニム(同種異名)でボツになった名前はマノスポンディルス・ギガスとディナモサウルス・インペリオススで、まあどちらも悪くない名前ですが。やはりティラノサウルス・レックスがいいかな。 さておきティラノサウルスは北米大陸限定で発見される純アメリカ産恐竜ということになっていて、アメリカ人のアイデンティティとナショナリズムに深く関わり、モンゴルなどアジアで発掘されるほとんど同種のタルボサウルスについても微妙な差異をあげつらって断じてあれはティラノサウルスではないと頑なに認めない。 中生代も白亜紀ともなれば大陸は分裂して現在とだいたい同じだったようだが、それでも海水面の上昇と下降のタイミングでベーリング海峡に陸路ができてアジア大陸とアメリカ大陸は繋がることもあったらしく、ふと気まぐれを起こしてアジアにやってきたティラノサウルスが定着してエサの量だか気候の都合だがでちょっと華奢になったのがタルボサウルスだろう。ティラノサウルス13メートルに対してタルボサウルスは11メートルくらいで、あと頭骨の横幅が少々狭く華奢だとか前肢がほんの少し長いとか言うが、両種の化石写真を見比べても素人目には区別がつかない。そのくらいの微妙な違いは個体差だろうし、例えば黄色人種と白人の間にも普通にありそうな差異だろう。同時代のそっくり恐竜をそれぞれ別種扱いする意味があるのかどうかかなり疑問である。せめて小種名だけ変えてティラノサウルス・レックスに対してティラノサウルス・モンゴリエンシスとかでもよさそうなものだが、属名から違えて完全別種とすることに、特に欧米の古生物学者がこだわっている。あのさあ、同じホモサピエンスでも白人と有色人は別種とか言ってみろよ。大問題だぞ。 国家としての歴史が浅い人造国家アメリカにおいて、国民のティラノサウルスへの愛と誇りは半端ではないようだ。悪役も極めればヒーローには違いなく、ダースベーダーとか、トランプ元大統領とかと同じようにティラノサウルスを純アメリカ限定種として自分たちだけのヒーローとして抱え込みたいらしい。 さてそんなティラノサウルス、体重が重すぎて走れなかったようだが、身体が大きく脚が長いので歩くだけでも時速20キロ以上というから充分に早い。他の似たような大きさの肉食恐竜と比較にならないくらいに頭が大きく口も大きい。咬みつくための筋肉も異常に発達し、当然歯というか牙も極太(バナナ並み)で、他の肉食恐竜たちが獲物の肉を切り裂くのに対して、ティラノサウルスは骨ごと噛み砕くことができた(トリケラトプスの粉々の骨片を含む糞の化石が発見された)。極端に短く小さい手も頭を大きく重くし過ぎたバランスを取るためらしく、どうせ進化するなら行きつく果てまで行ってやろうと神だか遺伝子だかが考えたのかもしれない。 ちなみにあの退化した(進化した?)二本指の手を何に使ったかは諸説あり、爪楊枝代わりに使ったとか(手が短すぎて口元に届かないと否定)、うつぶせに寝そべる姿勢から立ち上がる際に使ったとか(華奢過ぎて無理と否定)、交尾の際にメスを愛撫するのに使ったとか(証拠なさ過ぎて賛同得られず)解明されていない。羽毛があると考えられるようになってからは、あの手に飾り羽があってそれをひらひら振って異性へのアピールに使ったとも言われるが(もちろん証拠はない)、ともかく巨大な顔、口、牙、顎はまさに空前絶後の超肉食恐竜。白亜紀後期も末期の最後期に大繁栄して君臨し、絶滅の際に他の恐竜たちとともに一瞬で消え失せた。見事なまでの諸行無常の体現であり、そんな亡国の王的な引き際も実に王様っぽいではないか。 ともかく仮説異説反論また反論と世界中の学者たちが我も我もと研究して愛に任せて独自の見解を垂れ流し、またメディアがいちいち反応して拡散するので、常に炎上騒ぎが絶えないティラノサウルスであるが、2004年、中国で白亜紀前期の近縁種でより原始的な(つまりご先祖様にあたる)ディロング(皇帝龍)の化石が、続く2006年には最古の近縁種(つまり本家本元)と思われるグアンロン(冠龍)の化石が、どちらも徐星博士たち中国人古生物学者に発見され、実はティラノサウルスの起源がアジアにあったことが明らかになった。白亜紀の間にベーリング海が陸橋で繋がることがしばしばあり(とは言っても何万年に一回とか何百万年に一回とか)、両大陸で生物の往来があったのは前述の通り。 さあ大変だ。これはえらいことですよ。中国がアメリカに対して、ああそうですかティラノサウルスは北米限定種の最強帝王ですかいいでしょういいでしょうでもしかしその起源は世界中心の華たる中華ですから! とか言ってしまったのだから。米中関係悪化の原因は実はこんなところにあったのである。 さらにさらにヨーロッパまでがこの起源争いに参戦して事態は混迷を極めることになる。2009年、イギリスとドイツの古生物学者たちが集まり、百年も前(1910年)に発見されロンドン自然史博物館の倉庫の片隅に適当に放置されていたプロケラトサウルスの頭骨化石を再研究し、実はこれはグアンロンよりもさらに原始的なティラノサウルス類であると学会発表する。アメリカ限定最強帝王は中国起源でもアジア起源でもなくヨーロッパが先だもんね! こっちがホントの起源だもんね! というわけだ。もう何が何だか、とうとう元祖と本家の家元争いじみてきた。アレクサンダーとチンギスハーンのどっちが偉いか、みたいな話かもしれない。まあね。それだけティラノサウルスが世界中で愛されているということなんだろうけどね。 だが話はそれだけで終わらない。中国産の原始的ティラノサウルス類であるディロングの化石には羽毛の痕跡が残っていたのだ。つまりティラノサウルにも羽毛が生えていた可能性が示唆されたわけで、まさに驚天動地。この事実は、古生物学会はもちろん、世界中の恐竜ファンがひっくり返った。メディアを巻き込んで大騒ぎになったから恐竜ファンでなくても知っているだろう。世界中のイラストレーターやCGクリエーターがこぞって羽毛姿のティラノサウルスの復元図を描きまくって世に溢れさせた。 だがしかし、さすがはアメリカ、そんなことでは動じない。アメリカ人の(マニア的な)古生物学者の多くはティラノサウルス羽毛説を受け入れず、小型種(全長2メートル)であるディロングに羽毛があっても大型になれば体温調節がしやすくなるからティラノサウルスに羽毛は必要なかったと反論した。傍証として鱗の化石が発表されたりして、ティラノサウルスに羽毛があったとしてもそれは身体の小さい幼少期だけだろうとされた。 だが徐星博士の快進撃はとどまるところを知らず、さらに数年後(2012年)、やはり中国でディロング同様にティラノサウルスの近縁種で原始的な新種ユウティラヌス(羽暴龍)が羽毛化石で発見される。ユウティラヌスは全長9メートルでありティラノサウルスにも迫る巨体だ。それが羽毛を生やしていたと言うなら、もう間違いあるまい。我らが暴君竜(中国語では「霸王龍」バワンロン)は、どうやらほぼ全身を羽毛で覆われた姿であったようだ。 これにはいくらアメリカ人が頑迷でももう反論できまいが、それでもそのような流れはすっきり無視して相変わらず羽毛否定するアメリカ人古生物学者は大勢いるし、「ジュラシックワールド」(2015年公開)でも相変わらずウロコ姿のティラノサウルスが大暴れして喝采を受けている。アメリカ人、どんだけなんだ。トランプ元大統領につける薬はないという話か。 中国の隣国でアメリカの属国でもある日本の恐竜ファンとしては、この際もう誰が覇王でも暴君でもいいから、これ以上米中関係が悪化しないことを願うばかりである。 そんなティラノサウルスの化石には、個体それぞれに愛称が付けられ珍重され愛されていて、いろいろすったもんだを起こして話題を提供してくれる。1990年にサウスダコタ州で発掘された個体には発見者の古生物学者スーザン・ヘンドリクソンの名前からスーと呼ばれている(発掘地がネイティブアメリカン、スー族のものだったことも関係しているのかもしれない)が、このスーは、土地の所有者が化石の所有権を主張して法廷闘争となり、その所有権が認められた。FBIやらサウスダコタ州兵が強制捜査して化石を押収するなど、かなりのドタバタ争奪戦が演じられ、1997年、化石を手に入れた地主さんはスーをザザビーズ・オークションに出品して売り出す。このような貴重な化石が個人所有になれば研究もおぼつかない。さあ大変だ。まあ、結局シカゴのフィールド自然博物館が落札して事なきを得たのだが、その額は何と10億円。もちろん化石につけられた値段としては最高額だった(これはコロナ禍真っ最中の去年2020年10月にスタンの愛称で呼ばれるティラノサウルス化石が33億円で売却されて高額記録が塗り替えられたがそれはともかく)。 10億円もの金を博物館に出せるわけがなく、実はシカゴフィールド博物館にはディズニーとマクドナルドが後ろ盾になっていた。これはもう、そのうちきっとディズニーでティラノサウルス・レックス・スーを主人公にしたCGアニメ映画が作られ、ディズニーランドのアトラクションになり、ついでにハッピーセットのオマケになるに違いないから、その日を楽しみにしたい。