一鶴ノ宴弐無配の代わり
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※新刊書くので完全に燃え尽きてしまい無配の気力まで回りませんでした……。せめでですが新刊から数話お楽しみください。 ↓PDF見るのが面倒だよって方向け(1話少ない) 【一期と歩こう①】 一期と歩いていると面白いことがあるので好きだ。今日は夜公園で遊んでいる子がいると言う。明かりの少ない公園で遊んでいるその子の姿は、全身黒っぽくて、なのに確かによく見えた。おそらく、いや間違いなくこの世の住人ではないと思った。だが面白いので、間違えた。一期は気付いていないし心配なので着いていく。 その子がブランコに乗りたいと言うので、ブランコを押す一期の隣で俺もブランコを漕いだ。少しでも一期の奇行をカムフラージュするためだ。だって夜中に誰も乗っていないブランコを押す笑顔の青年がいたら怖いだろう?そして今度は砂場で遊びたいというその子に着いていく。 トンネルを作って遊びたいという申し出をすんなり受けた一期が、砂山を作り、穴を掘るべく砂山に手を突っ込む。向こうから相手の子も掘り進めるらしい。そうして穴の向こうから一期を引きずり込むといった寸法だろう。 俺はそれを隣で城を作りながら眺めていた。 「おや?」 一期が何かに気が付いたらしい。奴さんの口が真っ黒のくせにニヤア、と意地悪く笑ったのがよく見えた。ここからだ。 「ああ、力比べだね。負けないよ」 にっこり笑った一期に奴さんの顔がポカンとする。もう顔がにやけるのを抑えるので精いっぱいだ。エンドルフィンとアドレナリンがバクバク放出されるのが分かる。 引っ張っても引っ張っても微動だにせず、にこにこと微笑む青年に、奴さんはこの世のものと思えないものを見るかのような反応をする。 安心してくれ。きみもこの世のものではない。 「手、痛くありませんか?一応加減はしているのですが」 嘘だ!もしもこの子が口が利けたならきっとそう叫んでいただろう。 「きみ、力が強いんだね。元気がいいのはいいことだよ。そうそう元気がいいと言えばこの前……」 相手の手を気遣う余裕を見せただけで終わらない。そこからは怒涛の弟トークが待っていた。 しまいには幽霊の方がどうして僕(性別が分からないのでもしかしたら私かもしれない)はこんなことをしているんだろう、と問い始め、こんなことやめようと成仏していった。 次は達者で暮らせよーと見送って、まだ気づかずしゃべり続けている一期の手をトンネル向こうから引っ張った。 「いーちご」 「えっ、わ!?え!?あの子は……」 「きみの弟の話を聞いて家に帰りたくなったとさ。俺たちも帰ろうぜ」 「そうですか。すいません!お待たせいたしました」 「いいってことよ……ドーン!」 一期がトンネルから手を抜こうとしたのを察し、手をつないだまま上にはね上げる。てっぺんをぶち抜かれ、砂山が崩壊した。せっかく作ったのにもったいない。壊したのは俺だが。腕は砂だらけで、一期が固まっているのがなんだかおかしくなって手をぶんぶん振り回す。そのたびに砂がパラパラと落ちた。 「なんですか、もう……」 「待つのはいいが、手を離すのは無しだぜ?だってきみ、俺の前であんなに長いこと他のやつと繋いでるんだもん」 【一期と歩こう②】 夜、歩いていると一期の歩みが急に遅くなった。 「どうかしたかい」 「お気になさらず。少々勝負をしているだけですので」 「勝負?」 何ということだ。パ〇コの残りを吸い出すのに夢中になるあまり、一期の起こすイベントに参加しそびれるところだった。 「なあっ、なあっ。何と勝負しているんだい。嫌な感じはしないんだが」 「先ほどから何かがおぶさっておて、進むたびに重たくなる感じですな」 「おぶさりてえだ!がんばれ一期」 「おぶさりてえ?」 「道を歩いていると急に重いものがのしかかる。どんどん重くなるそれに打ち勝って歩き続ければ宝が貰えるぞ!」 「ますますやる気がわいてきました」 「よし。俺にも来いっ!お宝二倍だ!」 「馬鹿なことはおやめください」 「来たっ」 俺の背中に何かがしがみついた。 「どうもありませんね?私の声が聞こえますか?」 「よく聞こえているとも。自分のことを棚に上げて馬鹿とは失礼な。よし、二振りでクリアして、じゅじゅ苑で豪勢に焼き肉パーティーしようぜ」 「じゅじゅ苑。これは負けられませんね」 えっほえっほと歩みを進めていくうちに、どんどん重みは増して来る。最初は平気だったが、どんどん重たくなり、息が荒くなってくる。後から開始した俺でそうだから、一期の方は今いったいどうなっているんだろう。背中の重さは家を担いでるんじゃないだろうかと思う程になってき、体中から汗が噴き出る。刀剣男士の俺たちでこれなら、普通の人間には到底無理だ。最後の方は会話もなくなっていた。 じゃらら。じゃららら。 大量の金属が落ちるような音が後ろから聞こえた。と同時に背中が軽くなる。 「勝った……」 「やった……」 振り返れば大量の硬貨が落ちている。 「やったー!」 「取ったどー!」 夜中にいい大人二振りで万歳しあって硬貨を拾っていく。数えてみると、じゅじゅ苑には程遠かった。数えているうちにちゃりん、と一つ落ちた。 「ひょっとして、俺たちがハードル上げすぎたんじゃないか」 「悪いことをしてしまいました」 財布に入りそうもないため、近くにあった神社の賽銭箱に入れた。よたよたしながら家に帰る。結局何も得ることはできなかったが、まあいい経験ができたと思う。 次の日、郵便受けにお米券が入っていた。あちこちに気を遣わせてしまい、申し訳なく思った。 【まあだだよ】 「この前、おぶさりてえと勝負したじゃないですか」 「したが……。なんだい今更」 リビングで寝っ転がってテレビを見ていると、一期が唐突に言い出した。 「もしやここで!?」 振り返るとそこに一期の姿はなかった。 「違います。そうではなく……」 今日は一期が食器洗い当番だった。ガチャリ、と何かがぶつかる音。そして戸棚の閉まる音が続く。鍋を下の戸棚にしまい終えたらしい一期が下からひょっこり顔を出す。 「今来ました。筋肉痛」 おぶさりてえと勝負したのは五日前。俺の筋肉痛は、まだ来ていなかった。 【張り紙】 先日から一期と二人で現代遠征に行くことになった。三か月と長期間のものだったし、ちょうど付き合って一年の頃だった。たまたま修行に行こうと思い立ったタイミングも同じで、関係を知っているものからは新婚旅行だとか、夫婦は似てくるもんだとかはやし立てられていたというのもある。到着後届いた荷物の中には夫婦箸が入っていたし、正直舞い上がっていた。 滞在先の建物は本丸と違って一軒一軒壁で仕切られていた。 恥ずかしながら俺は一期と最後までまぐわったことがなかった。俺がなんのかんのと理由をつけていたのが原因だ。しかしこの機会を生かさない手はない。主も皆も応援してくれている。結果は上手く行った。 本丸であれば絶対に口走らない言葉の数々を口にし、あられもない声を上げ、連日一期との情事にふけった。 数日後、張り紙がエレベーターにしてあった。 夜間は声が響きますので……。 【深夜タクシー】 この現代遠征の目的は分からないが、一月もすれば大体三つに分かれているが分かってきた。一つは観光地。一つはホラースポット。最後はなんでもない場所。何か起こったり、起こらなかったりするが、行ってみないと分からない。夜に出歩くことになることも多い。だから夜目の利く脇差や短刀ではなく、主は俺たちにしたんだろうなあと、夜警官に出くわすたびに思う。だがそれでも打刀でもよかったろうに。うっかり勘違いしなければ俺だって俺だって。 今回山中にある墓地に行くように指定されたのは、その中で言うと多分ホラースポットだからだ。だが、それ以上に今の俺たちはぐんぐん上がっていく深夜タクシーの料金メーターの方が怖かった。 割り増しと書かれたランプが光る。信号で待っている間にメーターが上がっていくのも恐ろしかったが、信号のほとんどない山道をぐるんぐるんと登っていくにつれ金額が登っていくのも怖かった。 気付けば俺と一期は無言でメーターを眺めていた。早く霊園に着いてくれと願ったのは、後にも先にもこれっきりだ。 「着きましたよ」 タクシーの運転手さんが告げる。一期が財布から紙幣を出すが、その枚数を数える手が震えていた。顔色も真っ青だ。きっと俺もそうだったろう。本当にこれは政府持ちだよな?後から返せとか絶対に言うなよ。運転手さんがタクシーを発進させ、遠くへ行ってしまうと、あたりは静寂に包まれた。 一期も俺も高額な支払いをした後の、一種のハイになっていた。任務が始まる前からすでにやり遂げた気でいっぱいだ。この達成感に包まれて今日はもう寝てしまいたい。しかし家ははるか彼方だ。それはタクシーに支払った金額から考えても間違いなかった。 墓地について何をしろと言われてはいなかったため、ひとまず見回りをする。墓を一通り見ていきながら、この地域の苗字の傾向に気が付き、こうやって人が増えていっのだなあと感慨にふけったりした。 いっそ人魂でも飛んでやしないかと思ったが、飛んでいたのは蚊とカブトムシとクワガタだった。 カブトムシやクワガタを探し回り、星を眺めたりしているうちに小一時間が経っていた。政府の方から帰ってよいと指令が出た。 「刀遣いの荒い政府だぜ」 「まあまあ。帰りのタクシー代も出してくれるそうですし」 しかし、あちこちに電話をかけれども、どのタクシー会社も断ってくる。電話口で「お役に立てずに申し訳ないのですが」と優しい声で断られこれで四件目。ええい、と思い五件目にかけたところ「あなたはもう死んでるんです。しつこいですよ」といきなり言われ切られた。 しつこいも何も俺は今日そこに電話したのは初めてだ。刀剣男士が生きているかというのは定義が非常に難しいところだが、少なくとも死んではいないつもりでこれまでやって来た。と、言おうにも、携帯端末は既にツー、ツーと無情な音を立てている。 一期の方を向くと一期は耳から携帯端末を外し、黙って肩をすくめた。似たようなものらしい。 タクシー会社が全滅だったので、山道を歩いて帰るか、ここで朝を待つか棒倒しで決めることにした。左だったら下山する。右だったら残る。左か。 「せっかくだから走りましょうか」 「どんなせっかくだよ」 「箱根みたいな?」 「適当だな。どうせせっかくなら」 両手を上げ、墓に向かって叫ぶ。 「おい、タクシー会社に電話しては断られているきみたち!俺たちは今から走って下山する。成仏する気があるやつはついてこい!」 「おっそろしいことしますねあなた!」 「何が恐ろしいんだ」 「夜中に大量の幽霊引き連れて走るんですよ!?」 「なんだそんなことか。大したことない。よし行くぞう」 電話するだけの連中ですし放っておいても。ブツブツ呟く一期を置いて、先に走り出した。 「あ、ちょっと!」 「そおれ、ぴっぴ。ぴっぴ」 笛の音を入れつつ走っているうちにだんだん楽しくなってきた。まだ暗いうちに下山に成功したので、このまま家までひた走る。トラック行きかう国道沿い、誰もいない河川敷、シャッターの閉まった商店街。住宅街にたどり着いたころ、ようやく朝日があたりを照らし始めていた。あそこが俺たちの住んでいる家。心なしかいつもより輝いて見える。エレベーターは使わずに階段を駆け上がっていった。 そして今、鶴丸選手、一期選手、その他大勢、ゴールイーン!