monochrome
- 500 JPY
5/4(木)開催 SUPER TOKYO罹破維武 2023にて発行しました新刊です。 灰谷蘭×女夢主(ネームレス)の夢小説本です 「monochrome」 ¥500 全年齢/110P/文庫本サイズ SUPER TOKYO罹破維武 2023 東5て38b 【SUPER COMIC CITY 30】 書き下ろし3作とpixiv掲載2作の短編5作を収録しています 全てネームレス夢主です pixiv掲載分も加筆修正をしています 天竺軸、梵天軸両方あります 時系列も特にないです あの世界が何度もループして、夢主の環境や状況がその都度変わってしまっても蘭とは出会って、愛されて楽しく過ごす甘い毎日の話ばかりです 全年齢なので直接的な表現はありませんが、夜の行為の匂わせや事後のシチュエーションばかりになります サンプルは表題作でもあるmonochromeを掲載しています monochromeは蘭と曖昧な関係で仲良くしていたものの、自然消滅してしまった夢主が長い時間をかけて蘭への気持ちを再確認して、大人になってから蘭とまた再会する話です また、その続きもR18になってしまいますが、新刊で出します(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19716578) 当日会場にてお配りしていました無配も付けしますので、ぜひご覧ください 蘭との会話文メインの話で、短編として読めるものになっていますが今回の新刊の夢主がたちのその後、としても読めるものになっています(無配のみ最終回軸です) 新刊、無配共に今後のpixiv等の掲載予定はありません
monochrome(サンプル)
monochrome いつもわたしは待ってばかり。 でも、毎回許しちゃう。 平気な顔して待ち合わせ場所に遅れてくる蘭がわたしの手を握ったら、わたしは世界で一番幸せになれることを知っているから。 蘭とはかなり〝仲良し〟だった。付き合ってはいなかったけれど、お互いに誰よりも頻繁に会っていたと思う。知り合ったきっかけは、なんだったかもう覚えていない。多分、夜の街中だったはず。 何がいいのかわからないが蘭はわたしのことを気に入って、まるで自分の所有物のように扱った。年頃の男女だからそういうことも当たり前にしていた。基本的に二人(もしくは彼の弟、竜胆くんも合わせて三人)で一緒にいたし。 そんなことをしているから、わたしは簡単に蘭に落ちた。まだまだ未熟なわたしには、年齢のわりに大人びた蘭が甘過ぎて砂糖まみれにされているようだった。蘭もそれをわかっててわたしを利用していたところもあったと思う。 だから、絶対にわたしからは蘭に好きとは言わないと決めていた。わたしが言うのは蘭の恋人になってからだと。 その日も蘭はわたしの手を冷たいって文句を言いながら指を絡める手の繋ぎ方をしてくれていた。 待ち合わせたものの特に目的はなくて竜胆くんと三人でいて、カフェでお茶も飽きたし、かといって繁華街をブラつくのも寒いしで蘭が寒い寒いって大袈裟に言うからわたしも竜胆くんもうざったく感じて避難するように暇潰しに駅前の大通り沿いにあるゲームセンターに入った。 店内に入ってしまえばゲーム機から出る騒がしい音楽や遊んでいる客たちの賑やかな声など、不自然なほど明るくてうるさいくらいの雰囲気に少しテンションが上がる。 「蘭ちゃん、あれかわいい。」 わたしが空いてる方の手で指さしたのはクレーンゲーム機の中に詰め込まれている濃いピンク色をしたくまのぬいぐるみ。 ふわふわであろう素材に、キラキラした目と開いた口が絶妙なかわいさだ。 「あれ?かわいいかー?お前の趣味わかんねー。」 「えー、かわいいよ。欲しい。一緒に寝たい。」 繋いだ手を離してゲーム機の方へ寄ると「迷子になるんだから、手ぇ離すなよ。」と蘭がわたしの方へ来る。 都会の大きなゲームセンターと言えども、迷子になんかならないよ。子供じゃないし。 また手が繋がると思ったけど、蘭はわたしを背後から抱きかかえるようにくっついてきた。わたしの頭に蘭の顎が乗る。 さすがに恥ずかしいから外ではやめて欲しい。竜胆くんもいるし。 「リンドー。」 頭の上から蘭の声。 「なにー?てか……兄貴たちイチャつくなら家帰れば?」 「竜胆、お前、こーいうの得意だろ?一個取ってやってよ。」 何も気にしていない様子で蘭はそう言って数枚のお札を取り出して竜胆くんに握らせた。 「竜胆くんやってくれるの?やったぁ、ありがと!」 「まじかよ。取れなくても文句言うなよ?」 「兄ちゃんは竜胆が出来る子って信じてる♡」 「わたしも♡」 「この二人のこういうとこ俺、本当嫌いだわー。」 竜胆くんがわたしたちに向かってよく言うセリフ。蘭が言うには蘭と二人の時にもよく言っていてそんな悪態もとってもかわいいそうだ。愛情の裏返し的な発言らしい。 「じゃあ俺らは一旦帰ろうぜー。昼寝しよ。」 「え、いいの?」 蘭と竜胆くんを交互に見る。 「うん。お前はなんも気にしなくていいって。竜胆、あとは頼むわー。」 そうして、蘭はわたしを連れて外へ出ようとする。竜胆くんももう慣れっこな様子で「取れたら持ってくから家にいてよ。」と言うくらいだった。 *** 家に帰って自室に入るなり蘭がベッドに横になる。 三つ編みゆるんじゃうよ? 「お前もこっち、早く来いって。」 ポンポンとお布団を叩いてわたしを誘う。 「んー。アクセとかとりたい……。」 「そんなの俺が外してやるって。早くおいで?竜胆帰ってきちゃうから。」 「わかったよー。」 しつこい蘭に根負けしてベッドに行くとあっという間に蘭の腕の中。 「髪の毛ほどいてもいい?」 きつく編まれた長い三つ編みは揺れた時に顔や体に当たると痛い。 わたしの質問に対する「いいよ。」と言うたった三文字の返事が終わらないうちに唇が重なる。蘭の声や言葉がわたしの中に溶けていくみたい。 「今、竜胆いないからいっぱい声出していいからな?」 片手で顔周りの髪を耳にかける仕草に色気。 もう片方の手は服の中。 わざわざそんなこと言わなくたって、もうすでにわたしは蘭のせいで鳴き声みたいな間抜けな嬌声しか出せなくなっているのに。 でも、いつもはうるさいって口を塞がれるから、今はそれがないのは少し淋しい気もした。 ドンドンと強めの力で部屋のドアを叩く音。 「二人ともマジで寝てんの?起きろよ。」 竜胆くんの少し大きめの声で目が覚めた。 蘭も同じようでその表情は明らかに不機嫌そう。「せっかく気持ちよく寝てたのに……。」と不満を漏らす。 「竜胆くんだ。くま、とれたかな?」 「お前は布団から出るんじゃねぇよ。」 蘭はそう言ってわたしの頭から掛け布団をかぶせた。そして、寒いと呟きながらベッドから出てドアの向こうの竜胆くんに声をかけた。 「おかえりー。」 蘭のテンションの低い怠そうな声とドアが開いた音がした。 「本当に寝てたのかよ。つーか兄貴、服着るとかして、少しはそういうの隠してくれない?」 「えー、裸じゃないからいいじゃん。」 「良くねぇよ。」 「竜胆って変なとこ神経質だよねぇ。」 「いや、普通は隠すんだよ。」 二人の会話を布団の中から聞いていると思わず笑えてきてしまう。 竜胆くんは兄が反面教師になっているのかわりとしっかりしていると言うか真面目、感覚はわりと普通な一面がある、と感じるところがある。喧嘩となると話は別みたいだけど。 「でも俺ら愛し合ってただけだから、別にいいじゃん。なんも悪いことしてねぇのに。」 「見せびらかすもんでもねぇよ。」 何が「愛し合ってた」だ。快楽を求めた、だろうが。蘭の耳あたりのいい言葉に脳内で反論する。 「欲しがってたぬいぐるみとれたから。」 「おー、ありがとなー。金足りた?」 「うん。余裕。」 「さすが竜胆。余った金はお駄賃にあげる。」 「やった、サンキュー。」 パタンとドアの閉まる音。それと同時に布団から頭を出すと「良かったなー。」とピンクのくまがわたしにむかって飛んできた。 なんとかキャッチすると同時に蘭もベッドに戻って暖をとるようにわたしを抱きしめた。 「蘭ちゃん、ありがとう。」 「あとで竜胆にもありがとう言えよ?」 「うん!」 くまを抱きしめて撫でていると蘭が腕からそれを引き抜いて、自分の背中側へ隠した。 「蘭ちゃん?」 「蘭ちゃんにもありがとして。」 「今、言ったよ?」 「そうじゃなくて、コッチ。」 蘭が自分の唇を人差し指でなぞった。今がほとんど裸だからかそういう仕草もやけに官能的で意味深に思えてしまう。 「ありがとしてくれたら、くま返してあげる♡」 意地悪な微笑みを見せられてお腹が上に飛び上がるような、喜ぶような感覚。 おでこをくっつけて紫色の目を見ると「早くして。」と急かされて、そのまま引き寄せられるみたいに唇を重ねた。 「……やっぱり、このままコイツ隠しといていい?」 「え?返してくれないの?」 「もっかいシたら返してあげる♡くまに見られたらイヤでしょ?」 ニコニコと意地の悪い笑顔。 「でも、竜胆くん帰って来てる……。」 「いつも竜胆いてもシてんじゃん。お前が声我慢すれば大丈夫。」 「えぇ……。」 「俺、お前が必死で声出さねぇようにしてるの大好きだもん。」 〝大好き〟と言う言葉でわたしは簡単に蘭を拒否できなくなる。自分でも嫌になるくらいチョロい女だ。 蘭の言う大好きに深い意味なんかないと思う。わたし自身が大好きじゃなくて、自分の征服欲を満たしてくれるわたしが大好きなんだろうから。 *** それからというもの、わたしは自分の家ではもちろんそのぬいぐるみと一緒に寝ていた。蘭の部屋に泊まる時も必ずと言っていいほど持参して行っていたし、忘れたら取りに帰りたいとバカみたいなワガママを言うほどだった。 それに対して蘭は面倒臭がることはあったけれど、嫌がることや怒ることはなくて、「せっかく俺と寝るのにいるの?」とまるで子供に接するときみたいな話し方をした。 ベッドの中で川の字のようにわたしと蘭の間にいるくまを「お邪魔虫。」と蘭がベッドの端に隠すようにする時は、そんな蘭の姿がくまにヤキモチを妬いてるみたいで愛おしくて大好きだった。 カレンダーが12月になると街は一気にクリスマスモードになって、灰谷兄弟の住む六本木は何もなくても常に明るい夜なのにイルミネーションなどでさらにキラキラと光を増していた。蘭はあまり興味のない様子でいつもと変わらず気怠げに少し先を歩いていて、「やばいね、キラキラだね!」と少々興奮気味のわたしに呆れた顔をしながら振り返って声をかける。 「何してんの?早く帰ろ。置いてくよ。」 「え、やだ。待ってよ。」 ドタドタと鈍臭い走り方で蘭のそばに駆け寄ると「お前、まじで手離すのやめて?」とギュッと手を繋がれた。自分だってわたしの先を歩いてたくせに。そう思うけど、繋いだ手の温かさと無自覚なのか離さないようにしっかりと握られていることに何も言えなくなってしまう。 「蘭ちゃんて手繋ぐとき意外と力強いよね。」 「え、そう?痛い?」 「痛くないよ。ただ、意外だなーって。」 「……。」 頭のてっぺんに視線。 「多分、ガキの頃の名残りだな。竜胆がすーぐどっか行っちまうから。」 「竜胆くん?」 「あいつ言うこと聞かないで自分で勝手に行ったくせに俺がいなくなったって泣いて怒ってんだもん。お前もおんなじことしそうだからこうやってしておかないと。」 「蘭ちゃん、わたしのこと子供扱いしてる。」 「してねぇよ?かわいいから特別扱いなだけ。」 灰谷兄弟のマンションに帰ると、ここ最近は二人の仲間が誰かしらいて楽しそうに騒いでいたのに、今日は竜胆くんが一人で広いリビングのDJブースにいた。 「おかえり。」 「ただいまー、竜胆、飯食った?」 「まだ。そろそろ兄貴たち帰ってくるかなって待ってた。」 「竜胆くんもいるつもりで買っておいてよかったね。デパ地下でご飯買って来たから食べよ。」 BGM代わりにつけたテレビもやっぱりクリスマスの話題。 「クリスマス何したい?」 そう言いながら唐揚げを箸で掴み取る蘭。竜胆くんもだけどこの兄弟、箸の持ち方や食事の仕方が綺麗だったりするの意外。部屋は汚いけど。まぁ、そこは男子二人で暮らしてるしそういうものなんだろう。 二人とも揃って親や育った環境の話をしないけど、一般的にはそんなに悪くない環境で育ったんじゃないかと何気ない行動で思ってしまう。 「クリスマス?蘭ちゃん、会ってくれるの?」 「それは決定事項でしょ。お前、誰かと予定入れてたの?」 「何もないよ。彼氏いないコたちとカラオケでも行く?って話は出てるけど。」 「は?お前、俺がいるのにそっち行きたいの?」 蘭の平行眉が嫌な感じに歪む。あ、これは怒るやつ、かも。竜胆くんに視線をやると何かを察したのか黙って食べているだけ。 でも、蘭も「俺がいるのに」って、何それ。わたしたちただ仲良しなだけでしょ?女子で集まろうって誘われてもおかしくないよ。 「蘭ちゃんと会うなら、そっちは断るよ。」 恋愛テクのある女子なら、こういうときに二人の関係をさりげなく確認したりするのかな?わたしには出来ないな。ご飯中だし、竜胆くんいるし。蘭に嫌われたくないし。 機嫌取りをするみたいな発言になってしまったけど蘭はそれは特に気にしていない様子。 「危うくクリスマスに蘭ちゃん一人きりになるところだったわ。」 何言ってるんだか。クリスマスに蘭が一人きりで寂しいなんて言ったら放っておかない女の子たちがたくさんいるでしょう? わたしと過ごすことを勝手に決めてたのは満更でもないけど。 「あれ?お前あんまり嬉しくない?女子で集まりたいの?」 「え!? そんなことないよ。蘭ちゃんと過ごせるなんて思ってなかったから。」 「お前の中で俺の優先順位低くね?友達より蘭ちゃん、だろ?」 圧をかけるようなその言葉に大袈裟なくらいに頷くと、蘭は満足したみたいに頭を撫でた。 「じゃあ、俺その日は帰るのやめとくわ。お邪魔になりそうだし。」 わたしたちのやり取りを黙って見ていた竜胆くんの棒読みのようなその一言に、蘭と二人で「えー、三人でケーキ食べようよ。」「プレゼント交換しちゃう?」なんてふざけたことを言い合った。それに対して呆れ返ったような、相手するのも面倒臭いというような態度をわざと取る竜胆くんにかまいすぎるくらいにうざったく絡むのも楽しくて、蘭とずっと二人きりも甘くて素敵だけどこういう時間をたくさん過ごすのもいいな、とも内心思っていた。