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- 200 JPY
2022年11月の「つなぐ絆が道標8区」で頒布したコピー本です。 A5サイズ/二段組/本文19ページ/全年齢/\200 ワンドロライ参加作品を加筆し再稿致しました全5作品です。 (画像2が本の扉でして、全作品名です) 申し訳ございませんが、少々ばかり印刷に不備がございます。 (ほんの微妙ですが文字に曲がりがある、いらぬ所に線が入ってしまっている。読む分には問題ございません) それでも…と思って下さるようでしたら… ご理解頂きました上でお手元にお迎え頂けましたら幸いです。 よろしくお願いいたします。
<青と白の旅路> 暦上では、二月はもう春。 とはいえ日常的には実質まだまだ冬であることは間違いないが、 梅の花も各所で見事に咲き誇っていると朝のニュースで目にした今日の練習は、 確実に春の息吹を感じさせてくれる麗らかな好天の中で行われている。 長距離走という競技は、基本全天候型スポーツだ。 それ故にいつ何時、 どんな天候でも最高のパフォーマンスを維持できるよう努めるのも大事なのだが。 やはり寒すぎず陽射しも程々柔らかく、撫で行く風も心地よさを感じられる そんな気候の元で走れるというのは ランナーにとっては気分のいいものだろう。 チームとしては駅伝シーズンを終えた。 走のようにまだマラソン出場を残す数名以外は 春夏のトラックシーズンに向けて気持ちも新たに各自のウィークポイントの補強に取り組んでいる。 今日のチーム全体を見渡してみても自分達のすべきことはよくわかっているし、 今やチームの中心選手である走も この清々しい青空のようにすっきりとした集中で取り組めている。 今日は檄を飛ばしたりする必要もなさそうで、監督やコーチ陣も静かに見守っている。 もうすぐマラソン出場を控えた走の予定メニューは軽めなものになっているので 周りより少々早めにメニューが進んでいるのだろう。 白いTシャツから覗く細い首筋に今日の麗らかな風を受けながら、 足取り軽やかに清瀬の方に向かって走って来た。 「何だ?何か気になるところでも?」と いつもの調子でコーチとしての問いかけをした清瀬に反して走は ちょっと面白い事思いついちゃったぞというような悪戯っ子の表情で、 そして周りには聞こえないような小声で 「ねえハイジさん」 と、珍しく名前呼びで小声で話しかけくるのだった。 <Home> 温かみのある茜色の夕焼け空の下、初冬すら感じさせるひんやりとした風が時折 スーツ姿で並んで歩く走と清瀬の襟元を流れていく。 最近互いに忙しくて時間的なすれ違いも多かった走と清瀬だが 今日は久々に、仕事も練習も早い時間で同じタイミングで切り上げられ、 二人一緒に帰路に着いているのだ。 そろそろトレンチコートあたりが必要かな、 でもこのくらいの時期の羽織ものって邪魔くさいんだよなと清瀬は思うのだが、 体調管理が第一な走には着せないといけないという思考回路そのものが 自分の事は棚に上げてしまいがちな母親のような発想だとも言えなくはない。 一緒にスーパーで買い物をするのも久々だ。 まだそんなに混んでいない夕方のスーパーで、 「お、遂に白菜、安くなってきたな」 「じゃあ今日は今シーズンの初の鍋にでもしませんか?」 などと会話をして意気揚々と、二人暮らしなのに丸々とした白菜一個を買ってしまったりした。 「食べ応えありそうな量ですね」 「まあ味噌汁にも使えるし、いいだろ」などと会話しながらゆっくり歩いて帰る道すがら。 春はあけぼの、秋は夕暮れ、と中学校の国語の授業で一生懸命わけもわからず暗記させられたっけなあ などとぼんやり思い空を見上げたりしながら走は、 ずっしりと重い白菜を片手に、清瀬と並んで歩いている。