るさんがいいねしました
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流受けWEBオンリー「どいつもこいつもよく喋る」様にて発行 A5サイズ/90P/全年齢
サンプル
「流川、お前なんでツミッターの鍵かけてんの?」 「知らない人にフォローされるから」 「そゆこと。モテるって羨ましいわ」 「あ、なんか変なヤツからフォロー来た」 「今フォローした『ヨヘ』ってオレだから、よかったら許可してくれよ」 「ん。分かった」 昼休み、屋上で飯を食い終わったオレは大の字で空を見上げている。親友と、世界一気に食わないヤローの会話を聞きながら、白い雲の動きを目で追った。 「あ、通知。おー! 流川フォロー返してくれたのか、サンキュー!」 「ん」 「つか、流川ちゃんとバスケ部、皆のことフォローしてんじゃん。ちゃんと花道のこともフォローしてたんだな!」 「バスケ部は全員してる。そんでその中に今『ヨへ』が加わった」 「逆にバスケ部以外は、有名人とか企業とかは全くフォローしてねえんだな」 「してない。興味ないし」 「あ、花道からもちゃんとフォロー返してるじゃねーか。お前らいつの間に仲良くなったんだ~?」 何を言う! 親友から発せられた聞き捨てならない言葉には思わず起き上がって条件反射のように答える。 「全く仲良くはナイ! キツネが勝手にオレをフォローしてきたからシカタなーく返したまでだ!」 「先輩から全員フォローしとけって言われたから。まあどあほうをフォローすんのはフホンイだったけど」 「ンだとー!」 此処で言うルカワの〝先輩〟というのは彩子さんだと思う。ルカワの中学からの先輩で、唯一と言っても良いほど絶対に逆らわない相手だ。彩子さんもルカワが可愛いのだろうか。ヤツにはチョコーット甘い気がする。あんまりハリセンされてねーし。 「ツミッターの仕様で誰かがいいねしたとか出てくるじゃん? ルカワあれ見てる?」 「まあまあ。バスケ関連とか」 「確かにタメになるプレーとかあるだろうしな。花道もよくいいねしてるし」 「天才だからな、勉強も怠らないのだ!」 その勉強はあくまでバスケ限定ではあるけどと頭の中で付け足す。 だがまだ洋平は知らないのだ。ルカワはバスケだけをいいねする訳ではないことを。本人にわざわざ言わないが、ヤツは動物関連の〝呟き〟も好きらしい。基本ルカワは、バスケ関連のことはRTをするだけで呟かない、が、その他にも『る さんがいいねしました』と頻繁に出てきてオレのタイムラインを荒らすのだ。まったくツミッターの仕様には頭を抱えるぞ。 そしてタイムラインを荒らしてくる『 る さんがいいねしました』は、バスケとは関係ない猫や犬といった動物関連の呟きが多数。今朝表示されていたのは、ハムスターが爆速で走りすぎて回し車からぶっ飛んでいくというなんとも衝撃的な動画だった。 最初見た時、ハムスターが死んじまったんじゃないかと悲鳴を上げそうになったくらいだ。(もちろんハム公はその後元気に生きててヒマワリの種をむさぼっていた) 「予想通りというかなんというか。バスケ一色って感じだな」 「まあ」 まだ洋平がルカワの本性? に気づいていないのがなんとも心地いい。 昼休みにバッタリ屋上で会ったのに洋平とルカワはそのまま話を弾ませて、チャイムが鳴るまでツミッター談義を繰り広げていた。俺はその間も空を見上げて流れゆく雲のように全身の力を抜いてダラけていたおかげで、チャイムを聞いて立ち上がる時に足がもつれて転んだ。 ルカワに「ダサ」と言われ、気持ちよく過ごした昼休みが最後には激怒して終わった。 最初はココまでツミッターを見てはいなかった。ルカワがオレをフォローして来た時あたりから頻繁にアプリを立ち上げるようになり、やがて朝起きてから夜寝るまで一日に何十回とチェックした。 そして大抵オススメに『る さんがいいねしました』というのが表示されている。その呟きには自然と指が伸びてついタップして確認してしまう。 「またいいねしてやがる」 ルカワはバスケ関連であれば、ほとんどRTするからか、〝いいねしました〟とタイムラインに上がるのはいつも動物関連ばかりである。 風呂上がりに畳へ寝転がってツミッターを開くとやはり一番に出て来た。 今回は猫と犬が仲良く遊んでいる動画だ。 ヒジョ~に和む。 そして、よくルカワがチェックしている動画や画像を見ているからだろうか。 オレのオススメにもルカワのいいね以外に動物関連の呟きがよく出てくるようになった。オレは一人暮らしだし、親父が生きていた頃から動物を飼ったことは無いが、一緒に暮らしたら楽しいだろうとは思う。 「可愛いな……」 オススメに出てきた動画はキタキツネの2匹が雪の中をぴょんぴょん跳ねているだけの動画だった。 動物の言葉なんかもちろん分からないし、キタキツネを実際に見たこともない。 だけど、なんとなく2匹がめちゃくちゃ楽しそうに真っ白な大地を駆け回っているのは分かる。1分もない動画だが、心がなんとなく温かくなった。湘北にいるキツネとは大違いだ。というか何故オレはヤツのことを〝キツネ〟と思ったのだろう。もう忘れた。この動画をルカワも見たのだろうか? いや、見たとか見てないとか俺には関係ないケド、なんとなく知らせたかった。 オレはRTボタンを押した。 これでオレのことをフォローしている人たちにこの呟きが表示されるわけだ。つまりルカワにも。しかし、ルカワに見られるよりもそれ以外に見られる方がなんとなく恥ずかしかった。周りにはオレがルカワをキツネと呼んでいることを知られているからだ。もうRTはしてしまった……仕方ない。この手で行こう。 『ホンモノのキツネはかわいい。どっかの性悪と違って』 RTした後にすぐこの呟きをすれば、そのことに対する一言だと分かるだろう。 あの動画をRTだけすれば、まるでオレがルカワを可愛い生き物だと思って呼んでいると誤解されるかもしれない。 よし、これなら良いだろ。だってルカワのことはちゃんと性悪だと言っているのだから。勘違いはされないハズだ。 「あ、通知」 スマホの上部に浮かんだ通知の内容をロクに見ず、タップするとどうやら誰かがオレのツイートに〝いいね〟をしたらしい。 アイコンは見覚えのある白いバッシュとバスケットボール……。 「え」 パチパチと瞬きをしても、目を擦ってみてもそこに表示されているアイコンや通知内容も変わらない。 『る さんがあなたの呟きをいいねしました』 オレがツミッターを始めたのはルカワよりも後だった。ハルコさんに「バスケ部みんなやってるから桜木くんもやってみない?」と勧められて4月末くらいにアプリをインストール。その日の内にバスケ部全員と(彩子さんにフォローするようにと言われたらしいルカワはこの日の夜に)相互フォロー状態となった。タイムラインに流れてくるバスケの情報についてはかなり参考にはなるし、ツミッターをやってみて良かったとは思う。初心者に分かりやすい解説や技の名称など、とにかく有り難かった。 ツミッターを始めて半年が経とうとしていたが、ルカワからのアクションは最初のフォロー以外で初めてだった。 余程、動物が好きなのだろうか? オレがさっきRTしたキタキツネの呟きに対する〝いいね〟だった。なんてことない、それだけでどうしてこんなに顔が熱くなるんだ? いいね〟なんかオレがどうでもいい呟きをしても誰かしらがやってくる。 その度に顔が熱くなんかならない。 ルカワからの〝いいね〟はそんな攻撃力があるのだろうか? 「くそルカワめ……何しやがった、あんヤロウ」 タイムラインに目をやったのに、また不意に通知欄を押してしまった。 『る さんがあなたの呟きをいいねしました』 最上段にあるルカワからの通知を見て、畳を掻きむしりたくなる。なんだ、なんなんだテメェは。大体テメェ、なんだよその『る』って名前は! もうちょっとあるだろ。 なんか、やる気無さ過ぎるだろ! 俺は堂々と『桜木』と苗字を名乗っている。たまに呟くこともあるが、なんの変哲もないことばかりだ。(練習頑張ったとか洋平たちとラーメン食ったとかそんなもん) 誰かに見られても、バレてもやましいことなんか無い。ただの健全なバスケットマンである。もちろん、ルカワのように非公開アカウントではない。 「呟きもしないくせに、人気者キドリか、クソルカワ」 知らないヤツにフォローされるから、だと? ルカワにチョコ~ットだけ女子のファンがいるのは……知ってはいる。だが認めてたまるか。親衛隊とやらがいるのにも拘らず、ルカワのフォロワーはバスケ部、そして洋平(もしかしたら洋平から飛んで三馬鹿もフォローする可能性はある)だけ。 フォロー数もフォロワー数も一緒。 ただRTするだけのアカウントのくせに。 フォローくらいさせてやってもいいだろ。 だがそれすら許さないのは、ルカワらしさもある。多分、仮にアイツが公開アカウントでフォロー数を放っておいて膨大な数のソレを見せつけられても腹が立つ。 ルカワが何をしてもムカつくのは事実だ。 今の方がマシか、いやでも。ルカワにイライラしておかなければ、顔の熱も引かないし、頬が緩みそうになるのだ。家にいてもルカワに翻弄されるとか、ムカつくぜクソ。