アタシの全てが始まった日のことを思い出していた。 　今も鮮明に覚えている大切な記憶。それより前のことはもう覚えていない。 『おれとおなじめぇしてるから』 　生きるのに必死だったあの頃、まだ自分をおれと呼んでいた名無しのあの頃。 　死んだ瞳が多いこの街で生き抜いてやると獣のような目をそいつはしていた。 　生きたいって目をしていた。 　それだけで十分で、気づいたらアタシはアイツに声をかけていたんだ。 　汚いものだらけの場所でも、あの瞬間は紛れもなく宝物のような輝きで美しかった。 『オマエの名前はロサだってよ。それじゃあ、よろしく。相棒さん』 　そうして二人ぼっちだったアタシとアッシュは出会ったんだ。 忌み子の翼シリーズの3冊目。 義理人情あるがガサツなロサと、元貴族令嬢ではあるが脳筋のライラック。そしてそんな二人の女盗賊に盗まれ、一緒に旅することになった元少女神リリィ。 今回はロサの過去と謎を中心に話が動きます。 文庫本サイズ 174ページ