Still Tazawa Lake
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写真集『Still Tazawa Lake』 2023年4月20日発行 64ページ 限定300部 定価4000円 装丁:本多万智 随筆:阿部謙一 この写真集は、2017年から2022年までの間、秋田県仙北市にある田沢湖とその湖畔を訪れ、撮影したものです。田沢湖は透明度が非常に高く、湖底が見え、藍緑色に輝く湖面は息を呑むほど美しいのですが、その風景を注意深く見ると、本来なら存在するはずの水面を悠々と泳ぐ水鳥や、水の動きに反応する小魚の姿が見られないことに気が付くでしょう。 1940年に灌漑や電力確保のために引水した玉川の酸性水により、湖に棲む生き物は姿を消し、それに伴い、周辺で漁業を営んでいた人々も職を変えざるを得ない状況になりました。時代に翻弄された湖は83年後の現在も当時の雰囲気から変わっておらず、水質の中和処理をしてもなお、多くの生き物が棲むには過酷な環境となっています。 田沢湖にはかつてクニマスという田沢湖固有のマスが生息していましたが、先に述べた酸性水により1942年頃に絶滅しました。時間は流れ2010年に富士五湖の一つ、西湖でクニマスは再発見されたのですが、田沢湖の漁師らによって卵が放流され、定着した個体の末裔でした。 クニマスの再発見は日本中を駆け巡り、奇跡の魚と呼ばれ、多くの人々の関心を寄せたと思います。もうこの世には居ないと長らく思われていた魚がすぐ近くで発見され、長く人と生活していたのですから、驚いた人はたくさんいるでしょう。この発見により、ある種の希望が見え、クニマスを田沢湖に戻そうとする動きが生まれたほか、今まで解明できなかった生態について研究が開始されるなど、歴史が動こうとしています。 戻そうとする動きには、中和処理ができていないことや、クニマスが国内外来種にあたるなど、多くの課題があると思いますが、ひとまずは動き出したことに喜ぼうかと思います。