帰りたい僕と帰せない君の攻防
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pixivに掲載済みの話を加筆修正。 後日談書き下ろしは約30ページ26000字ほど。 A5サイズ/フルカラー/表紙込94ページ/ 少し前の作品なので価格を当初より下げてます。 自宅から匿名配送です。 pixiv掲載の話のスタートのページ↓ https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10269512 ・書き下ろし5編 I think of you…pixiv本編終了後、アッシュが出かけた後の英二が部屋で一人もだもだしている話(下記に全文掲載) かじられた!…先に進みたいアッシュと鈍感英二、相談員マックス I want YOU all…二人が結ばれる話 Enough!…二人が恋人になってから7、8年後。相変わらずラブが過ぎるアッシュに困惑気味の英二 Not enough!…上の話のアッシュ視点。自分の愛が重い自覚があってもそれを止められないアッシュ 受け止める男前英二 feat.バディ とにかく前編通じてラブいです。
I think of you
行ってきますと言いおいた時のアッシュの声の甘さといったらなかった。でも僕はその声を知っていた。思い返せばずっとアッシュは僕のことをそんなトーンで呼んでいたのだから。 ほわあとなった僕の頬にアッシュは自然な動きでキスをして出て行った。時間差でかっと頬が熱くなる。僕はその場でしゃがんでしまった。ぷしゅう、と力が抜ける感じで。 なんだ、なんなんだアッシュは! かっこ良すぎだよ! 恋愛なんてしたことのない僕は要するに免疫がないわけで、これは、きつい。やばい、心臓が持たない。 「英二」 「うわあ!」 出て行ったはずのアッシュがなぜか戻って来た。僕は思わずのけぞって尻もちをついた。 膝をついたアッシュは僕のことを心配そうにのぞき込んだ。僕はいまものすごく真っ赤な顔をしているわけであまり見て欲しくないのだけどアッシュの視線は一途だ。 「なあ、やっぱり出かけるのやめる」 「え、ええ? なんで?」 「なんでって、そりゃあ、かわいい英二といたいから」 うわっ、やばいぞこの男。かわいいとかさりげなく言った。男の僕にかわいいだと!? どうしよう、そんなに悪くないと思ってしまう。 イケメンがそんなことさらりと言うなよ。しかも照れたようにかすかに頬を染めて。どんな反則技だよ。 「だ、だめだよ。マックスと約束だろ? さっきも電話あったし」 「マックスなんかより英二だろ」 うわーうわー。イケメン怖い。 そういうこと、さらって言うのもなんだかなーって思うけど言ってさまになるのが凄い。 「それは嬉しいけど、でも、約束は守らないと」 アッシュは恨めしそうに僕のことを数秒見て、はあと重い溜息をついた。 「なんだよ、英二は俺といたくないの?」 おおっと、拗ねモードに入りましたよ。口を尖らせる顔がかわいいではないか。 じいっと見られて、僕はアッシュのお願いに頷きそうになるけどそこをぐっと堪えた。 「あのね、ええと、さっき僕らは両想いだったってわかっただろ? だから、その気持ちを、噛みしめたいんだよね」 「どういう意味?」 うう、さすがストレート話法を主とする英語圏の人間。このあいまいで甘酸っぱいような感情の機微、わかってくれないかなあ。 じっと見てもアッシュは首をかしげるだけだ。 目線で促されて僕は言葉を継いだ。 「アッシュと両思いで嬉しかったから、一人でそれを思い返したいんだよ」 何故か意気込んで言ってしまった。 「一人で?」 「そう」 「ふうん」 納得いっているのかわからないけれど、わかったと言ってアッシュは立ち上がる。さりげなく僕の腕をとって一緒に立ち上がらせてくれた。 「じゃあ行ってくる。一時間くらいで戻るから」 「うん。行ってらっしゃい」 アッシュはふっと微笑むと僕のことを一度ぎゅっと抱きしめてから今度こそ出かけて行った。 耳元で、寝ないで待ってて、と言い置いて。 アッシュの声が優しいこと。 そのことに気づいたのはついさっき。 ああ、僕ってやっぱりどうしょうもない。 でも、そんな僕のことをアッシュはタイプだと言った。 タイプ。タイプかあ。なんかすごいなあ。漫画みたいだなあ。 僕はベッドに寝ころんでノリノリくんのぬいぐるみを胸に抱いて、らしくもない糖度の高い溜息なんてついてしまう。ごろごろ転がってしまう。顔がだらしなく緩む。アッシュが見たら引いてしまうかもと思ってきりっと整えてみるが、すぐに力が抜ける。 ダメだ。人って幸せ過ぎるとこんなにも気の抜けた顔になってしまうものなんだ。 初めて知った。知ってしまった。 はあと何度目かわからない溜息と共にアッシュを思う。 アッシュはどうなのだろう。 ずっと僕のことが好きだったということなら、両思いになってさぞ浮かれているのだろうか。 けど、にやけたアッシュなんて想像できない。 でもにやけて欲しい。僕のことを考えてやにさがるアッシュなんてのもいい。だってそれは僕しか見れないアッシュだから。 それにしても、アッシュは一体いつから僕のことを好きになってくれたんだろう。 ゴルツィネと闘っている頃はこんな僕でもアッシュの安らぎにはなれているかなと思える時はあった。まあ疫病神かな、と思う方が九割がた占めていたけど。 誰かを好きになる時にこの時だ、なんて言える瞬間があったとしても後付けのような気がする。共に過ごすうちに、相手のことをたくさん知って、自然にいつの間にか好きになるっていうのがよくあるスタンスなんだろうな。 とは言っても僕の恋愛はアッシュが初めてで、多分、最初で最後だから、パターンや傾向なんて本当のところわからないんだけどね。 とにかくアッシュのことが好きだと胸を張って伝えてもいいことが嬉しい。 アッシュが好きだー!って叫びたいくらいだ。 叫ぼうかな? いや、さすがにやめておこう。 ノリノリくんを目の前に掲げて暢気な癒し系の顔をじっと見る。 「ねえノリノリくん、アッシュが僕のこと、好きだって。すごくない? すごいよね。アッシュがだよ?」 そう、アッシュがだよ? 彼ならいくらでも選び放題なのに、僕がいいだなんて。アッシュってつくづく欲がないなあ。 僕の自慢できることなんて、棒高跳びで高校の時はちょっと名の知れた選手だったってことくらいだと思う。 それに比べてアッシュは、頭が良くて運動神経がよくて見た目も中身も綺麗で、意地悪なところがあっても根は優しくて、男気があって、だから彼の周りには彼を慕う仲間が集まるんだ。 改めて考えると、アッシュっていいとこだらけだなあ。 そして考えがループするんだけど、そんなアッシュが僕のことを! 好きだって! タイプだって! 僕は再びノリノリくんを抱きしめた。ぎゅうっと力強く。 ダメだ、嬉しすぎる。どうしよう、今最高に幸せ過ぎて、明日あたり死ぬんじゃないかなあ。 「……」 僕はがばっと起き上がる。ぶるぶると頭を振る。 いや、死んでたまるか! 僕はアッシュと幸せになるんだから! ぐっと拳を作って覚悟を決める。 そう、アッシュと二人で幸せになることに意味がある。アッシュといられるならもうそれだけで幸せなんだけど、もっともっとアッシュを幸せにしたい。 アッシュが僕といたい、と思ってくれるなら、僕にできる限りの力でアッシュを幸せにするんだ。 アッシュが今まで味合わされた悲しいことなんて全て吹き飛んでくだらないことだったと言えるくらいに、幸せにする。 うん、なかなかいい目標じゃないかな? 生涯かけて叶える目標にしておこう。 ちらりと時計を見れば、アッシュが出て行ってからまだ十分くらいしか経っていなかった。 一時間くらいと言っていたからまだまだ帰って来ない。そのことを少し寂しく思ってしまうあたり、送り出しておきながら僕も面倒な奴だ。 これからずっと一緒にいるのに、たった一時間の別離を寂しく感じるなんて、恋する人間はみんなこうなのかな? いや、これはアッシュのせいでもあるな。 59丁目のアパートで、アッシュの無事を祈ってただ待つしかなかったあの頃に身についてしまった習性なんだと思う。今日にいたる日々でもアッシュが夜に出かけてなかなか帰宅しない時は不安を感じたっけ。 僕を置いて一人でどこかに行っちゃうんじゃないかって。 でもそれは僕のネガティブな部分が見せた妄想だ。アッシュは僕のことが大好きで僕たちは両想いだったんだから、僕をおいていなくなるなんてことはない。 僕はもう一度ノリノリくんと共にベッドにころりと横になる。 この先のアッシュとの生活を思うと脳みそがバラ色になる。 アッシュといろいろなことをしよう。いろいろなものを見て、たくさんの場所へ出かけよう。アッシュと一緒ならなんだって楽しい。楽しめる。 「早く帰って来ないかなあ」 寝ないで待っててとアッシュは言った。 きっと恋人になった僕に出迎えて欲しいんだな。かわいい奴め。 アッシュが帰って来たら玄関に迎えに出て、おかえりって言って、抱きしめたりするのが恋人っぽいのかなあ。それともアッシュみたいにほっぺたにキスとか? いや、それは無理だ。だって僕日本人だもん。そんな恥ずかしいことはできない。 まあね、ここはアメリカだし、みんな道端でも当たり前のように頬に限らず口にキスしてバーイなんて手を振って別れるなんて日常茶飯事だ。 日本にいた頃に見たことがあった海外のドラマでも本当にところかまわず軽いキスはよくしていた。 目にする分には日常の光景として随分慣れたけど、自分がやるとなったらハードルが高すぎる。 こっちで骨をうずめると決めたけど、日本人として培った血肉はどうしようもない。 まあさっきはね、両想いだった喜びが溢れかえって大胆にも自分からキス、しちゃったけどさ。 そういえばアッシュの唇柔らかかったなあ。 そうすると僕の精一杯は抱きしめることなのかな。それも恋人になった今となってはちょっと恥ずかしいけど。 まあ、なるようになれだ。 僕はノリノリくんを抱きしめてアッシュお迎えのシミュレーションをしながら目を閉じた。 そしてそのまま眠ってしまったのは不覚。 朝起きたらノリノリくんごとアッシュに抱きしめられていた。 僕が目を覚ました時には珍しくアッシュは起きていた。 不機嫌を隠そうともしない顔でねちねちとやられた。 寝ないで待っていてって言ったのに。 おかえりって言って欲しかったのに。 本気の拗ねモードに入ったアッシュは無敵だ。 おかげでその日は一日アッシュのご機嫌取りに費やすことになった。 あれこれと世話を焼いて、最後には僕が羞恥心を押しやってさく裂させた唇へのキスが一番効いた。 ホント、僕の恋人のアッシュはかわいいよね! END

