わたしと一緒に世界を救って(DL版)
- Digital300 JPY

2019年に発行し、完売済の同人誌をPDF化しました。 文庫サイズ/117P/PDF 創作百合小説。なんちゃってSF。コメディ。 ざっくり女子高生×ピュアっこ異世界人 女子高生の千夏は、通学途中に突然異世界人に呼びかけられる。 その異世界人の世界は滅び掛けており、神の指示で他世界から「救世主」をつれていくことになった。 その救世主がなぜか千夏。 もちろん断る千夏だが、異世界人は千夏と一緒にいるためにアイドルの姿を借りて学校に通うことに。 仕方なく千夏は、その異世界人を「ユメ」と名付け、行動を共にすることになったが……。 表紙:よきげ デザイン:本田コロ。
本文冒頭
その朝、私――横川千夏は急いでいた。 その朝っていうか、だいたい毎朝こんな感じではある。通学が楽だろうと思って、ウチから徒歩十五分の私立の女子校に入学したのに、結局いつもギリギリだった。 ギリギリではあるけれど、遅刻はしたことないから自分的にはいいかなってことにしてるけど、暑くなりだした最近は、急ぐと学校ついた途端、汗が噴き出してきて気持ち悪い。 だったら、余裕持って出ろって話だけど。 いつものように、公園に入ってさらに急ぎ足になる。ここからの追い込みが大事。 「ふれあい公園」という刺さらない名前の公園だけど、噴水のある広場があったり、子どものための遊具も一角にあったり、小さな池のほとりには東屋もあり、市民のためのイベントもよく開かれていて、近隣の住民にはおなじみの公園だ。 私も子どもの頃は、遊具コーナーによく遊びにきたし、小学校の写生会もこの公園だったし、三ヶ月に一回の頻度で開催されるフリマではよく買い物もしていて、生活に密着した場という感じ。 高校に入学してからは、通学路として毎日通っている。公園のまわりの道をいくより、ショートカットできるのだ。三分くらいだけど、朝の三分ものにも代えがたい。 駅に向かう会社勤めの人たちとは逆方向に私は歩いて行く。のんびり犬を散歩させているおばあちゃんもいて、朝から余裕で羨ましい。 青々した植え込みの脇を通り過ぎ、もうすぐ公園を抜けようとしたその時に『それ』に会った。 それとしか言いようのない『それ』。 一瞬、ノイズのようなものが聞こえてきて、ん? と私は立ち止まる。 あたりに人影はないし、音を出すようなものもない。 その次に聞こえてきたのが声。 ――見つけました。話を聞いてください。 声、だと思ったけど、本当は声じゃなかったんだ。だってそれは頭の中から聞こえてきたから。 でも、最初は声だと思って、私は振り返った。視界には人影がないんだから、後ろから話しかけられたのかって思うじゃない。 でも誰もいない。 その時、私は自分が病気になったんだって、思ってしまった。 子どもの頃、おばあちゃんの家に近くに、独り言を大声で言いながら歩いているおばさんがいた。幼い私は不思議に思って、おばあちゃんに聞いたんだ。どうしてあのおばさん、一人で喋ってるのって。おばあちゃんはこう言った。 あの人はおばあちゃんたちには見えない人が見えていて喋ってるんだよ。だからそっとしておこうね。 その時は、その人の隣にユーレイみたいなのがいるんだって納得したんだけど、私も成長するもんで、中学にはいった頃に唐突に、あの人は心の病気だったんだと理解した。 おばあちゃんにその話をしたかったけど、その頃、おばあちゃんは入院していたし、他人の病気の話をするのもアレかな~と空気を読んで話さなかったんだ。 と、いうことを私は一瞬で思い出し、あれ、これ走馬燈ってやつ?? とまで考えていた。 声はしたが誰もいない。こういう場合、大抵は空耳を疑うんだろうけど、私がまず病気を疑ったのはこの過去の出来事があったからに違いない。 そんな私の内心の葛藤をよそに、また声が聞こえてきた。 ――わたしと一緒に世界を救ってください。