偽者カナト編
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ACCシリーズ。約四万文字。全年齢。boxで公開した偽者カナトの完結編です。 加筆修正済。 ※全作品に言えることですが、誤字脱字が全くないというわけではありません。ご理解の程お願い申し上げます。 以下サンプル なるほど。さほど悪い人たちではないようだ。奏人は自分の少し前を行く細身の男性の背を追いながら、柔らかな表情で笑みを浮かべる。最初はどういうことなのかと困惑したけれど、根っからの罪人ではないらしい。 「……ガル(おい)」 ぼそり、隣を歩くペザンテが奏人に声をかける。奏人に喋れることは秘密だと言われたため、声が小さくかなり低い。奏人はペザンテにまだ駄目だと首を横に振り、そのまま喋れないフリをしてくれと頼んだ。 ペザンテは不愉快そうに顔を顰め、尾を荒々しく上下に振る。何故自分がと言いたげだが、奏人のお願いを無下にすることはない。不貞腐れた表情のまま、黙ってくれている。 「おいー。カナーン! こっちだぞー」 笑顔でこちらを振り返る黒髪の青年。白い肌に黒い髪。瞳は黒、というよりは灰色がかっている。彼の両隣にいるのは、純白のローブを身に着けた二人の律界人。金糸の刺繍を施したショールを肩からかけているが、それは奏人の知らない模様であった。奏人の見慣れた金の刺繍ではない。 「はーい、すぐに行きます。カナト(・・・)さん」 笑顔で黒髪の青年を追いかける奏人に、仕方なさそうについて行くペザンテ。心底やれやれといった表情だ。 事の起こりは三十分ほど前。奏人はブラートの珈琲店へ向かっていた。ペザンテと一緒だ。ラッビアンテは昼寝から何をやっても起きなかったため、仕方なく置いてきた。起きて誰もいないと分かれば泣きながら奏人の気配を追って飛んでくるだろう。 ちなみにシンとコードがこの場にいないのは、フォニックが珍しく体調を崩して寝込んでいるから。元々風邪気味だったところに、無理を重ねて風邪が悪化。限界がきて倒れてしまった。昨晩からシンがつきっきりで看病している。今はフォニックの代わりに、コードが統括補佐としてソロについていた。 奏人の護衛は、表向きペザンテ一体に任されている。表向き、なのは裏でヴィが見張っているからだ。任務と兼任しているため、血まみれになることを考慮して密かに護衛を行っている。当然ペザンテは承知済みだが、奏人は何も知らない。本当ならラッビアンテも護衛に加わる予定だったのだけれど、生憎と夢の中でおやつを食べている最中だ。 また、ヴィの相棒であるブラートは、奏人が昨日ソロに「ブラートさんの店でソロと待ち合わせをしてみたい」と口にしたことで店に詰めている。もちろんソロは既に到着済。可愛い奏人の願いとあらば、山のように積んでいた仕事もなんのその。コードが唖然とする中で、ほとんどを片付け終えた。四律将たちは、何故これを毎回発揮しないのかと嘆きつつ、城外へ出向くソロを見送った。 近くにソロがいるとはいえ、道中奏人に何かあっては一大事。故に銀糸の侍従も街中に配備され、ヴィの指示のもと厳戒態勢で護衛についている。もちろんこれも知らないのは奏人だけだ。 さっきからペザンテに突き刺さる、鋭い視線の数々。ヴィや銀糸たちが睨んでいるのがペザンテには分かった。何をしているのだとお怒りモードだ。 けれど奏人の意思なのだから、ペザンテにはどうしようもできない。視線とともに寄こされる、微かな血の匂い。ヴィが出てこない理由を察して、ペザンテはこっそりと息を吐いた。十中八九、返り血だろうがヴィが出てこないとなると、この面倒ごとはまだまだ長引きそうだ。 久しぶりに街へ出た奏人は、とにかくテンションが高かった。よほど嬉しかったのだろう。滅多にないことだから無理もない。ペザンテと二人、真っ直ぐにブラートの珈琲店へ歩いて向かっていた。箱車を使わなかったのは、単にそれを奏人が拒んだためだ。せっかくなので歩きたいと譲らなかった。 奏人にだけはとことん甘いソロであるから、結局最後はそれを許してペザンテに何かあれば飛んで来いと命じてある。ブラートの店までの警備体制はほぼ万全で、あとは奏人の到着を待つばかり。何も問題はない――はずであった。出会ってしまったのは、まさかの予定不調和。予想外の出来事。 それが、あれだ。奏人の前を歩く青年、カナトだ。彼はペザンテに似た二回りほど小さな妖獣を連れている。金ではない。白い妖獣だ。それが奏人の目に留まり、可愛いと思わず声に出してしまったのがきっかけだ。こちらを振り返った黒髪の彼と目が合い、奏人はつい愛想笑いをして会釈した。 すると彼は何を思ったのか両隣の二人に声をかけ、頷き合うや否やこちらへ近づいて来た。すぐにペザンテが警戒態勢に入ったが、彼は笑顔で挨拶をすると自分のことをカナトと名乗った。同じ名前だ。なんだか嬉しくて奏人は自分も奏人だと口にしようとした。しかし、彼が続けた発言に、名乗ることができずに終わる。 彼は言った。堂々と。胸を張って。自分は、あの律王ソロの寵愛を一身に受ける【人間】なのだと。
