Happy daily life
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ブルーロック夢本 凪誠士郎×女夢主 基本ネームレス。(書き下ろしのみ固定名あり) 作品数は5本、内1本は書き下ろし。 pixiv内のbll夢まとめにある2025年6月までの作品をまとめました。 日常小話系です。 文庫サイズ 134p 表紙デザイン:渚野デザイン(@nagisanodesign)様 印刷所:おたクラブ様(大阪印刷株式会社様)
凪誠士郎、そういうところある
バイト前に立ち寄った電気屋の大きなテレビの中から、背の高い白髪の男が抑揚のない表情でピースをした。 ああ、かわらないな。なつかしい。 そんなことを思うのは、きっと今私があまりにも平坦で面白味のない生活を送っているからなのだろう。 同じ学校の同じ教室にいた彼は、今やテレビの向こう側の人である。 いつも眠っている姿が印象的な同級生とは、異性ながら意外と馬が合った。 外部受験組だった私は、持ちあがりの友達がおらず、すでに出来上がっていたグループからは悲しいかな、はじかれてしまっていた。 そのうえ持前の陰キャキャラ。高校デビューなんて単語とは無縁で、これでもかと根暗を貫いた。 携帯ゲーム機をもって学校に来てはこそこそと遊び倒す日々。スマフォゲームももちろんやるが、コンシューマーゲームだって大好きだ。 乙女ゲーに中学からオタク女子の定型に例にもれずはまり、今や気になった新作はお財布と相談しながらかたっぱしから遊ぶ。 早く社会人になって、自由時間を確保して稼いだお金をつぎ込みたいと、あの頃はずっと思っていた。 同じクラスの凪くんが私に話しかけてきたのは、ゲーム関連からだったはずだ。 お昼休みに裏庭でご飯を一人で食べていたのをどこからか見られていたらしく、なんのゲームをやっているのかと問いかけられたのが始まりだ。 席が近いわけでもない。すごくびっくりしたので、記憶に残っている。 持ち運び可能とはいえ、ゲームハードをもって登校している白宝生なんてみたことがなかったと言われ、多少の興味を引いたらしい。 恋愛シミュレーションだよと答えれば「あー」と間延びした声。俺は興味がないとあまり変化しない顔でも、はっきりと書かれていた。 凪くんは興味があるものに関してはオールマイティーにこなすらしく、やらないのはノベルゲーム。映画見てた方がいいと言われてしまったが、私は何でも自分のペースでじっくりやりたい派だ。 もちろんお話はじっくり味わいつつ読みたい。 別に馬鹿にされたわけでもないので気にはならなかったが、凪くんとは合わないかもしれない。とその時は思ったのだけれど、凪くんはことあるごとにちょいちょい話しかけてくれるようになった。 こんな私と何故。そんな気持ちで受け答えしつつおすすめゲーム情報を交換する日々。共通点を見出したかったのかもしれない。いや、そんなつもりもなかったけれど、気が付けばそれなりに話すようになっていて、ぼっち脱却……ではあったが、クラスの中では変わり者枠にはされてしまっていたような気がする。 それでもいいか。そう思えるようになったのは(凪くんがいるしな)で私の中で完結していたからだった。 暇な日にはどちらからと問わずゲーセンに誘い合う仲良しにはなったし、程よい距離感。程よい仲。彼氏彼女の関係にならなかったのは、二人そろって年頃な割にあまり興味がなかったからだと思う。 恋愛シミュレーションやってて恋に興味がない? と言われそうだが、そういう雰囲気にならなかったし、そういう風に見えなかった。 あくまでも物語の中の人物に恋をして、恋に恋するヒロインたちの様子に胸を高鳴らせまくっていた私は自分の恋愛に興味がなかった。 むしろそういうことに興味があったのは中学の頃の方が強かったと思う。 小学生の頃から見てきた友達同士が、お付き合いを始めた。手をつないだ。キスをしたなんて聞いた日には、面食らって心臓がうるさくばくばく動いたし、きゃーって友達同士で騒ぎあったりもした。知ってる人同士がそういう関係になったが故に盛り上がった。 騒げる友達がいなくなってしまったからというのもあったかもしれない。 白宝生の間でももちろん恋愛はそれ相応にして話題になったし、いつでも話題の中心であるレオ様とお付き合いをしたい女生徒は後を絶たなかったし、噂を聞かない日はなかったと思う。 それでも私は凪くんに恋心は抱かなかった。と、思う。うん。 好きだという気持ちは友達ベースのもので間違いなかったし、異性として認識はしていたけど、それ以上でもそれ以下でもなかった。 それが心地よかった。 だからそれでよかった。 彼がレオ様に見初められ、まるでおとぎ話のように連れ去られてしまったのは、本当に突然だったと思う。 突然ぼっちに逆戻りしたわけだが、それなりに強気ではいた。まぁ、私にはゲームがあるのでね。ぼっちでも問題はない。 凪くんが唐突にいなくなってからの日々は入学当初のようだったことは覚えてる。でも「いいもん」って少しすねていた気がする。誰かに声をかければお弁当くらい一緒に食べてもらえただろうに、どうせいつも通りの一人ですと思いつつ、凪くんに固執していたのかもしれない。 気が付けば遠い存在。遠すぎる存在。 テレビの中で見かけた彼は高校最後の日に見たときよりも少し精悍になったと思う。 サッカーのことはさっぱりわからないけど、テレビに映る程度には世間を賑やかす存在。今も一緒にいるらしいレオ様ももれなく大人気。 そういえば先日行われた同窓会は、当然のように主催だったらしい。当然のようにいかなかったので、招待のはがきにあった情報だけでお察ししておいた。何しろ会場はあの御影の絡んでいる経営ホテルだ。おして然るべし。 返信だけでもした私はえらいと思う。 今でもそれなりに陰キャだし、ぼっちだし、友達を作ろうという気持ちよりもなんか気があった人と一緒に居た方が楽だなと思う方向は変わらず。 でもちゃんと白宝生らしく勉強は出来たので、大学にちゃんと進んだ。 たった数年前。一緒に出掛けて、ゲームの話ばっかりして盛り上がった凪とは正反対の道にいる。 ブルーロックから戻ってきて学生らしい生活を取り戻した凪くんに何度かゲーセンのお誘いを受けたけれど、そのころの凪くんはもうすでに人気者で、一緒に出掛けようものなら狙いを定めた陽キャ女子に何されるかわかったもんじゃなかったので、丁重にお断りをした。 なんでと粘られたけれど、今は家でゲームがしたいのだと言えば、仕方ないと引き下がってくれたのは彼なりの優しさだったのか。どうなのか。 外で声をかけられるかもとも言ったので、単にめんどくさくなるかもしれないと察しただけなのかもしれない。 距離をおけばあっというまに縁は薄くなり、時たま感じる視線の先を追いかけないようにすれば、凪くんは私の視界からは消えていった。 私の友達に、凪誠士郎というサッカー選手になった人がいた。この事実だけでいい。十分すぎる思い出だ。 バイトに遅刻をしてはいけないので、電気屋の大きなテレビから目を離して必要なものを購入。 凪くん、日本に帰ってきてるみたいだし、のんびり出来てるといいなぁ。 きっと同窓会ではもみくちゃにされたに違いない。あのレオ様が来ていて、彼がいないわけがないのだ。陰キャの私でも容易に想像がつく。 教室の窓際で大あくびしていた凪くん。ゲームの話になると少しだけ活力が湧くような雰囲気で話始めるのに、それ以外は低燃費。 選手として続けているということは、サッカーは彼にとって楽しくて続けがいのあるもの、めんどうではないものに変わったのだろう。 レオ様が教室に迎えに来るたび、やる気のない顔して引きずられていった日々が、今はもうなんだか懐かしい。 たまたま見てしまったテレビ画面から高校時代を一気に思い出したけれど、今は目の前の現実と向き合わねばならない。 バイト先の本屋は今日沢山の搬入があったはずなので、入店早々から体力勝負なのだ。 陰キャでもお金のために頑張らなくてはならない日だってある。 来週末は予約していた乙女ゲーが発売されるので、バイトは入れないように休み申請を出しておいた。 定期の休日ではないので、今日はその分めいっぱい動いてアピールしておかねば。 挨拶は小声だけど、張り切って入り口でカードをスキャンしてロッカーに入る。 エプロンを取り出せば、昼のおばさま方と鉢合わせて頑張ってねと引継ぎ事項を受け取るだけで、心がげっそりと悲鳴を上げた。 本屋のバイトだって他のバイト同様に体力勝負なので、搬入作業の次の日は大体全身筋肉痛。 今日はレジでと言われて立っていただけなのに、一つの動作をするごとに腕の筋肉が悲鳴を上げる。 駅前のそれなりに大きな書店で、家と大学からの交通の便を考えるといい職場。就職が決まるぎりぎりまではここで頑張ろうと決めているのだ。 だから、苦手な接客も頑張ってるし、バイト先の人とはそれなりにコミュニケーションをとるようにしてる。 人と関わらなくても問題がない、成績さえよければなんとかなる学校とは違うお金を稼ぐ場所だから、頑張って私なりのコミュニティーを築いてきた。 「あ、いた」 「……え」 「やほー。久しぶり、元気にしてる?」 そのコミュニティーを一瞬にしてぶち壊す人が現れた時、人はどう行動をしたらいいのだろうか。 間延びした声と均一なテンション。軽く片手を上げた日本人離れした大きな身長に首を上げる。 にわかには信じがたい人が目の前にして、昨日のテレビ画面が今目の前に現れたのかと錯覚した。 「な、ぎくん?」 「うん。覚えててくれた? ラッキー。忘れられたかと思った」 ピースをしてレジの前に立つ彼をただただ茫然と見上げて、数秒。はたと目の前に置かれた雑誌を見て慌ててバーコードを通した。 「ここで働いてるって教えてもらったんだよね」 誰に。なんて質問は右から左だ。返答せずに金額を述べて、会計方法を問いかける。黒い皮財布から手慣れたようにカードを出され、一括払い。というかそれしか出来ない。 心臓がバクバク動いてる。お客さんや店員仲間たちがこそこそと「あれ、凪誠士郎?」「凪選手だ」という声が聞こえてくる。 全身が筋肉痛だが、顔まで引きつりそうだ。 「ここままのお渡しでよろしいでしょうか」 「うん。そのままもらう。あ、ここ終わるの何時? それまでこれ読みながら待ってるから」 「ありがとうございましたー」 引きつっていても笑顔は笑顔。凪くんがとんでもないことを言っていたが、店員とお客様の立場として接客以外の世間話は極力しないようにしている為、それ以上は何も言わなかった。 そのまま立ち去ってくれるかと思いきや、受け渡した雑誌を手にしたままじっと見下ろされる。 なんだろう。何か渡し忘れたかな。まっすぐなけだるげな瞳が落ちてくる。時間にして数秒だったのかもしれないが、私の背中に冷や汗が落ちるには十分な時間だった。 ゆっくりと歩き始めた凪くんの後、お会計を並んでいたお客様をすぐに呼ぶ。大丈夫。大丈夫。驚いたけど、何も変わらない。いつもの拙い接客をするだけだ。 「さっきの、もしかしてサッカーの凪選手でした?」 「え、あ……」 「後ろ姿と横顔だけ見えたんですけど、かっこよかったですね」 「あ、あはは。そうですね。かっこよかったです」 「お姉さん真正面から近距離じゃないですか、うらやましいです」 にこにこと話しかけてきたお客様が少し興奮気味で話しかけてくる。手を止めないようにしながら、話を聞き続けていると、段々今更ながらその熱量に凪くんのすごさを感じてくる。 やはりテレビの中の人は違うな。 すごくご機嫌な状態でお客様は帰られて行き、そのまま会計ラッシュに突入していった。 ・・・・