懸想文~第壱章~
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新書サイズ/502P/315000字/健全/2026年2月1日発行 この作品は「ワンドロライ東巻」さまから継続して「東巻ワンドロ会」として書き綴ったSSの総集編です。数にして124作品。 話はひとつひとつ完結していますのでどこから読んでも読めます。設定は高校生東巻(無自覚→片想い→両想い)、大学生東巻(両想い)、同棲東巻(未来捏造)から構成されています 【同棲東巻/未来捏造設定】 東堂さん:プロのサイクルロードレーサー 巻ちゃん:RENブランド日本支店ゼネラルマネージャー兼デザイナー兼モデル *何気に新荒を含んでいたりしますのでご注意下さい *捏造が激しいため何でも許せる方向けです *お題は診断メーカー様よりお借りしています 短めのサンプル(2ss/8頁)→ 【憧憬】(高校生東巻/無自覚) 巻島裕介には憧れの人がいる。 それは巻島の兄であるレンだ。 レンは幼少時の巻島から見ても既に大人だった。そのレンは巻島を甘やかしに甘やかした。それこそ目に入れても痛くないほど可愛がった。 幼稚園の送り迎えもレンがしてくれたし、公園でも遊び相手になってくれたし、一緒に風呂に入って、夜は同じベッドで寝ていた。 巻島にとって兄弟はそういうものだとインプリンティングされた。普通の兄弟はそこまで仲良くないし、それは違うことだと判明した時の衝撃は大人になった今でも忘れられないと巻島は話す。 そんな仲の良い巻島兄弟だが、巻島に良くも悪くも多大なる影響を与えたのもレンである。 レンは将来服飾系の仕事につくことを目指していた。自分のブランドを立ち上げて自立するのだと巻島に常日頃から言っていた。 巻島にだけはこっそりデザイン画を見せて、巻島の服をコーディネートしていたため、巻島のファッションセンスに過分に影響を与える結果になった。 巻島は幼い頃より人前に出るのが苦手だった。緊張するあまり口ごもることも多い。そんな巻島に自信をつけさせようとレンはあらゆる手を使った。 「裕介は少し人見知りだけど本当は笑顔が良いんだ」 「他の人と比べちゃだめだ。マイペースが一番良いんだ。裕介は裕介のままで良いんだよ」 「安心しろ、裕介の可能性は無限大だ、約束する」 巻島の心をくすぐる数々の言葉は巻島に勇気と自信を与えた。その甲斐あって巻島はそん所そこいらではへこたれない性格になった。 巻島は小学5年生の春、レンは渡英した。服飾関係の大学に留学したのだ。夢を叶えるために一歩踏み出したレンの背中を見て育った巻島は将来兄と働きたいと希望した。そのために自分に必要なことは何か。何を選んで何を捨てるのか取捨選択の判断に悩んだ。 けれども中学生になった巻島は出会ってしまった、ロードという名の世界と。 ロードの魅力に取り憑かれた巻島は夢と現実の間で揺れた。 確かにロードは好きだ。これほど夢中になったものは一度としてない。けれども夢を諦めることもできない。 今できることは何か。何をしたいのか。何ができるのか。 巻島は悩む。ロードを止めることはもうできない。朝から晩まで走った。走れば走るほど巻島は夢中になった。それでも物足りなくていつでも飢えていた。 中学生の巻島にできることと言ったら限られてくる。それでも後悔だけはしたくない。 とことんロードをやる。そして兄の右腕になって働く決心をする。 巻島は中学を卒業と同時に渡英しようと思っていた。けれども両親の反対にあって高校に入学した。留学するまでの間、自転車競技部のある総北高校に通学することにした。それなのに巻島は部活動が苦痛となる。 自分のダンシングスタイルを否定されて、強制的に矯正される。先輩の指導に口下手な巻島は太刀打ちできない。それでもロードは止められない。 「自転車は自由だ」 巻島の原点はそこにあった。 その自由が奪われるのだ。奪われてまでそこにいる意味がない。けれども途中で止める踏ん切りがつかない。プライドはある。根性もある。ここで部活を止めてしまったら多分ロードまで止めるだろう。 そんな自分は嫌だ。そんな自分になりたくない。 巻島はひとつの案が浮かんだ。練習を続けるために必要なこと。そこにスリルをいれること。それが巻島のモチベーションに繋がった。 高校を卒業しなければイギリス留学はできない。だからこの3年間はロードに浸ることを選択した。 部室のポスターの裏の壁に正の字を書く。それは巻島が練習をした日だ。誰かに見られたら怒られるだけではすまされないだろう。良くて謹慎、悪ければ退部を求められる可能性がある。 けれども止められない。元来、巻島は負けず嫌いなのだ。一旦始めたことを止めることは自分自身が許せなかった。 巻島は努力した。 自己流を貫くための実力を見せつけなければならないのだ。 「自転車は自由だ」 その言葉だけを胸に巻島は今日もまた走る。 巻島の実力は周囲を圧倒した。巻島の走りは他を寄せ付けなかった。独自の走りを見い出した巻島は多大なる自信を持って大きく羽ばたいた。 そんな巻島は東堂尽八と出会う。 二人の第一印象は最悪だった。二人ともお互いを敬遠した。レース会場で会っても視線の先に相手を見つけると顔を背けた。わざわざ反対方向に歩いていったこともある。東堂は巻島を拒否して巻島も東堂を拒否した。けれどもひとつだけ東堂は巻島を認めざるを得ないことがあった。 巻島のダンシングは異質だった。 身体を左右に大きく振って地面を削るように走る。基礎を無視した無駄の多い走り。だが誰よりも速い。 東堂の走りはまるで一本のレールの上を走るように滑らかで静かな走りだった。お手本のような走りだ。 正反対の走りをする二人は反発した。相手を認めることは自分の走りを否定しかねない。 それなのに東堂は巻島から目が離せない。 気付くと巻島を目で追っている。気付くと巻島を探している。気付くと──。 東堂は巻島に憧れていた。 自分と正反対の走りをして、マイペースで、自己流を貫いて、他人の目をまるで気にしない巻島を。 東堂にはどうしてもできない。 実家が老舗旅館だったこともあり、東堂は幼い頃より大人の中で育った。それが良くもあり悪くもありませた子供だった。それが長じて誰からも好印象を持たれる営業スマイルが得意な東堂になった。 東堂は感情表現が豊かだと他人から言われる。けれどもそれは東堂の一面でしかない。東堂は自分の内面を誰にも見せない。喜怒哀楽が激しいことで東堂が隠し通しているもうひとつの顔に仮面をつけている。 そんな東堂が巻島に惹かれるのも道理である。 そして巻島に近付きたいと願うのも自然な流れだった。 「巻ちゃん!」 今日もまた東堂は巻島の名前を呼ぶ。名前を呼んで巻島の元に駆けつける。巻島が逃げ出さないように掴んで離さない。本当は巻島の心を掴みたい。巻島を独占したいのだ。 けれどもそれは土台無理な話だ。 巻島はどこまでも自由であり、羽ばたかなければ巻島ではないのだ。 東堂は駆ける。どこまでも自由な巻島を求めて走る。巻島の隣に自分の席を見い出して、自分の存在を巻島に見せつける。 そこまでしてようやく巻島は東堂の存在に気付く。そして自分の中の東堂の存在を認める。 「なあ東堂、おまえって自由だよな。ちょっと憧れるショ」 「……巻ちゃんには言われたくないぞ」 今日もまた巻島は眩い笑顔で東堂を魅了する。 【台詞「こっち向いてよ」(高校生東巻/無自覚) 二人の第一印象は最悪だった。 東堂は巻島の特徴的な髪の毛を「玉虫色」と蔑み、巻島は東堂のカチューシャを「格好悪い」と一刀両断した。 二人はもう二度と会いたくないと思った。視界に入っても無視をして声を掛けるなどもっての外だった。 それなのに何度も会う。会いたくないと思ってもレースのたびに会ってしまう。 それはそうだろう。 二人の脚質はクライマーだったため、出走するレースも自ずと限られてくる。 それだけではない。 レースの勝負どころとなるといつも二人の戦いになる。誰も追いつくことができず、二人で雌雄を決することになる。 東堂が優勝すると、巻島が準優勝で。 巻島が1位になると、東堂が2位で。 そんなことが何度も続くとお互いを無視することができなくなる。話をすることも目を合わせることもなかった状況に我慢できなくなったのは東堂のほうが早かった。 巻島を『唯一無二のライバル』だと位置付けて「巻ちゃん」と巻島に愛称をつけて、誰にも呼ばせることを良しとしなかった。 「巻ちゃん!」 「何ショ」 「今日は何食べてから帰る?」 「おまえ余裕だな」 「オレの勝利が決まっているからな」 「クハ、オレが勝つに決まってるショ」 二人は何かにつけて角突き合わせるが、傍から見るとじゃれているようにしか見えない。 東堂は巻島のことを今まで以上に知りたいと願った。そのためには手段を選んではいられない。 「巻ちゃん携番とメルアドを教えてくれ」 「ナンで?」 「巻ちゃんと連絡を取るためだ」 「だからナンで?」 「巻ちゃんのことをもっと知りたいからだ」 「え?」 「携帯」 反論することを許さない東堂の態度に巻島は怯んだ。慌てて携帯電話を渡すと、東堂は自分の携帯電話番号とメールアドレスを登録した。 「今日からよろしく巻ちゃん」 「ショ?」 何がよろしくなのか分からなかったが、東堂が差し出した手を巻島は思わず握ってしまった。 巻島はそのことをずっと後悔することになるとはその時は思いもしかなった。 翌日から怒涛のメール攻撃と鬼電に巻島は翻弄される。いっそのこと着信拒否をしようかと追い詰められるほど参っていた。実際やってみたが二度としてはならないことを痛感させられた。 何故なら巻島と連絡が取れなくなった東堂は、神奈川県の箱根から千葉県の佐倉まで自転車で駆けつけたのだ。 「巻ちゃん!」 「東堂⁉ ナンでココにいるっショ!」 「巻ちゃんに会いに来たのだ」 「会いに来たって」 「うむ、何度電話しても電話に出なかったから、怪我でもしたのか、それとも病気かと心配になったのだ」 「心配って」 「実は着信拒否しました」なんて正直に言えない。 巻島はとっさに言い訳をしてしまった。 長めのサンプル(15ss/60頁)→ https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27016447








