四畳半に流星群
- ¥ 400
四畳半に流星群 A5版/36P/ *捲簾と天蓬と第一小隊の皆さんで現代パラレル。 *捲簾は写真家、天蓬は小説家という職業設定だけ最湯記からお借りしています。世界観は全く別物です。 *第一小隊の皆様の出番がたいへん多いです。 *昨年7月に発行した『四畳半に流星群/序詞』は、この話の前日譚的な位置付けですが未読でも問題ありません。 (『四畳半に流星群+序詞』のページにて本誌と序詞とのセット販売がございます。ご希望の方はそちらをご利用ください https://mg-seiya.booth.pm/items/1859738←序詞の表紙が目印です) *サンプルは冒頭からほんの少しだけ。 *無配の本編サイドストーリー『寒凪』の配布は終了させて頂きました。ありがとうございました。
サンプル
「いつものアレだろ?」 「はい、いつものあれです」 じゃあほっとけよ、と陸央は永繕に溜息を吐いた。 「そうなんですが、今回はちょっと様子が違う気がするんですよ」 「どう違うの」 「上手く言えないんですけど…」 「ほっとけほっとけ、馬に蹴られるぞ」 「別に邪魔したいわけじゃなくて、寧ろ逆です」 「それがあの人達のスタイルなんだからあんまお節介焼くと結果邪魔するのと同じ。だいたいいい大人なんだし」 陸央の言い分は全くの正論だと頭では理解するが、永繕はどうも釈然としない。 「何か思い当たる事とかないですか」 「何かって?」 「例えば、今回帰国してから帰宅するまでの間にいつもと違う何か…、…あ、」 「…え。まさか、宋ちゃん…?」 陸央と永繕は、嘘だろ、と目を見合わせる。 「…まじか」 「でも、引き合わせただけなんでしょう?」 「あー…、うん」 生返事。陸央の美徳の一つはこういう嘘の下手な分かりやすい所だ、と永繕は常々好感を持っているが。 「いいから白状してください」 「空港で宋ちゃんを紹介した時に色々あったんだけどさ」 「色々?」 「まあ、色々は色々でちょっと置いていて。実は大将が初対面で宋ちゃんをアシにならないかって誘ってな」 「え?」 「宋ちゃんは勿論即二つ返事。だから卒業したら四月から大将の専属アシスタントってわけ」 「どうして?」 「俺が知るか。大将に聞けよ」 「初対面で懐に引き込むような方には見えませんし、それに、今まで数多の立候補者を袖にし続けてずっと一人でやって来たんですよね。貴方すらバッサリ断られたというのに。驚きです」 「俺も驚いたけど。っていうか俺の過去の傷をさっくり蒸し返すなって」 都心から高速を飛ばして数時間という山間にひっそりと佇む二階建ての一軒家。その家のキッチンに並び立つ陸央と永繕は、大きな鍋に湯を沸かし冷蔵庫の中から適当に野菜と肉を放り込み、蓋をして煮えるのを待っていた。 「やっぱりその事が原因でしょうかねぇ」 「んー、幾らなんでもその線は薄い気がする。もしそうだとしても宋ちゃんに罪はないぞ。勿論俺にも無いけども!」 「そんな事は分かってます」 永繕が鍋の蓋を開け、そこに乾麺とスープの素を二袋入れて腕時計を確認した。 「目に見えて喧嘩だと分かるように殴り合いでもしてくれれば仲裁のしようもありますが…」 「原因がどうあれ、俺達が出来る事なんてたかが知れてるしな。こうして夜食のラーメン作るとかさ」 「分かり合っているようで分かり合っていない、分かり合えていないようでその実分かり合っている、果たしてどちらなのか…って考えると正直面倒臭さしか残りませんね」 「うん、面倒なのは同意するけど、いや待て。そもそもよ? あの人達分かり合おうとしてねえだろ」 「確かに」 「なのに何で見えない火花散らすかなぁ…」 「分かり合いたいから、とか」 「…無いな」 「無いですね。あ、一分経ちました」 永繕が用意してあった二つの丼のひとつに鍋から半分をよそい胡麻油を回しかけて、 「これ、お願いします」 盆にのせて陸央に手渡した。 「どの道、外野は外野でしかないって事だ。あんま考えても意味ないぞ、と」 丼から立ち上る湯気の香りに、美味そう、と陸央は目を細め、やっぱ麺は超硬めが最高、ここだけは俺、絶対大将派譲れないな、そう言いながら一階の奥の部屋へと届けに向かった。 「…何もかも大将派の人が何を言っているんだか」 陸央の背中を見送りながら永繕はぼそりと呟き、もう一度腕時計を見て火の点いたままの鍋の蓋を閉じた。陸央の外野の例えは的を得ていると永繕も思う。観客ならば傍観しているだけでもいいがチームメイトとなれば見守らなければならない。時と場合によっては手や口を出す必要が出て来るが、そのタイミングと手段が何より肝要であるのだ。 三分後、鍋の中身を残されたもうひとつの丼によそって、超柔らかめの麺を好むこの家の家主に届ける為に永繕はキッチンを出た。 (後略)