私たちのキセキ
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『私たちのキセキ』 文庫本/98P/鶴さに 【あらすじ】 前世審神者だった主人公と鶴丸国永は夫婦だった。ところがとある日、主人公は何者かによって殺害されてしまう。 転生後、普通の人生を歩んできた主人公は元夫である五条鶴丸と再会を果たし…? ※ほのぼのな両片想いです!独自設定は多少あります。
プロローグ
【審神者規約及び改定について】 〇通常,審神者の任期を六年間とする。任期を終えた場合,継続を希望するのならば政府へと申請をする。仮に事情があり任期を完了出来ない場合は,政府への申請並びに退任届を提出する。 〇原則,任期が完了するまでは伴侶がいる場合でも会うことは禁ずる。但し正式に帰省時の行動については一切問わない。尚,刀剣男士と恋仲及び婚姻することは禁ずるものとする。 〈改定〉 〇審神者の任期中,当人達が希望するならばその伴侶も本丸での生活が可。 〇審神者の伴侶については刀剣男士でも可能なものとする。 以上,審神者規約の追加項目についてのお知らせとなります。更に詳細を知りたい場合は政府本部審神者人事部までお問い合わせ下さい。 私が審神者になった三年目に、審神者の規約が改定されたと政府から通達された。 改定前はそれはもう批判が殺到し、政府側も頭を抱えていたことだと思う。私自身は審神者や刀剣男士と言えど、慈善事業ではないのだから致し方ないと思っていた。 なぜ突然、政府が規約改定をしたのか。勿論、批判のせいもあるだろう。だがもう一つ理由があった。 とある国の審神者が刀剣男士と心中したのだ。審神者だった彼女にも家庭の事情はあったりしたが、極めつけは刀剣男士と添い遂げられないという規約のせいだったという。 こんな悲惨な事件が起こった為、流石に政府は見過ごすことはせず、その後規約改定という政策に乗りでた。 ――ちなみに、この事件の真相を調べたのは亡くなった審神者の友人だった私と我が近侍の鶴丸国永である。まあ、この事件のことはまた別の機会にでも語ることにしよう。 この事件がきっかけで支えてくれた鶴丸への好意に気付いた私は、規約改定後に晴れて交際をスタートさせて、一年後に無事婚姻を結んだ。 ···晴れて交際スタートとは言ったが、実は互いに好きなど伝え合った訳ではない。しかも恋人でも夫婦でも私たちは、甘い空気になったことがなく、精々手を握りあったことしかない。一度だけ抱き締められたことはあるがこれはノーカウントだろう。これらのことが原因で後々の来世で拗らせることになるとは、この時は微塵も思っていなかった。 それもそのはずだ。なにせ夫婦としていい加減、この問題を片付けなければと意気込んでいた途端に私は敵襲に合い、死んだのだから。 あの日は審神者同士の定例会議が行われた。半年に一度開かれる会議で、その日も銀鼠一色の着物で参加し、いつもと変わらず何事もなく会議を終える。帰り道である竹林を、今回の護衛役である光忠と共に歩いていた。鶴丸は対検非違使戦に第一部隊を引き連れ、今朝方赴いて行った。 料理のレパートリーや内番での失敗談やら雑談している時に、一瞬だけ何か視界に入ってきた。 何だと疑問に思っている内に自身に異変が起こる。鈍い痛みが生じたのだ。痛みの先を見てみると矢が一本、左胸に刺さっていた。 「え···?」 「主っ!!」 矢に撃たれたと理解した途端に視界が揺れた。 全身が痺れ始め、自分の身体が傾いているが感覚はなくそのまま地面に倒れる。 今にして思えば敵襲に合ったとか矢には即効性の毒が塗られてたのかとかいくらでも思考は回るが、当時はそんなことを考える時間も余裕もなかった。 光忠の必死な声が聞こえる。聞こえたが痺れた口では何も答えられない。 (私、死ぬんだ···まだ何も解決してないんだけどな) もう助からないと自覚していた。 目の前で必死に光忠が何事か叫んでいる姿を把握出来るものの耳は機能していない。目を開けているのさえすでに限界だった。視界が真っ暗になる。 (ごめんなさい···) 家族、友人、本丸の皆、そして夫の鶴丸に謝りながら私は死んでいった。 それから私はこの世に生を授かったのだった――