【新品】『日本軍の怪奇話』
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■はじめに 軍隊における怪談とは、どういったものなのか。 従軍経験者たちの残した史料を読んでみると、 「どこの部隊であっても怪談は好んで語られていた」 ということがうかがえる。 俗にいう「学校の怪談」のような文化であったのかもしれない。 学校の怪談に関する、うわさや書籍が広く世間に知られているように、軍隊の怪談もよく語られ、それなりに認知されていたようだ。しかし、そうは言っても、大日本帝国陸海軍が存在していた当時に、軍隊の怪談を取り上げた著作物がまっとうに売れるはずがなかった。その頃の常識に照らせば、不謹慎極まりないからだ。幽霊話を語ることの善しあしの前に、その原因となる、首をつって死んだ兵隊の話というのがよろしくない。皇軍の威信にかかわる。大っぴらに語れる内容ではない(大東亜戦争前に出版された田中貢太郎の本で軍隊怪談はよく取り上げられているが、日本軍の威信に関わる怪現象には触れていない) したがって、現代に生きるわれわれが軍隊の怪談について知りたければ、大日本帝国陸海軍が解散した後の、戦後の出版物に頼るしかない。しかし、どうしたことか、その種のものがまとまって読める書籍は、私が知る限り、四冊しか存在していない(*注) 『現代民話考Ⅱ 軍隊 徴兵検査・新兵のころ・歩哨と幽霊・戦争の残酷』(松谷みよ子。立風書房) 『幻影の碑 戦争と怪談――兵士たちの証言』(山田盟子。光人社) 『戦争と怪談』(上巻。山田盟子。新風舎) 『戦争と怪談』(下巻。山田盟子。新風舎) はっきり言って、まともな研究者は、怪談のようなイロモノは歯牙にもかけない。軍隊の怪談に限定すれば、なおさらのことである。一部の特殊な書き手しか、軍隊の怪談に振り向いてくれない。だから、たった四冊の本しか存在しないのである。 さて、この『日本軍の怪奇話』には、従軍経験者から直接、聞き取った話は一つもない(藤本は昭和五十年代生まれ。従軍経験者に聞き取り調査をするには、ちょっと遅かった)。読書などで知った怪談を要約しているだけである。しかし、そうは言っても、軍隊の怪談を取り扱っている著作物が四冊しか存在していない以上、この『日本軍の怪奇話』にそれなりの価値はあるはずである。 眠れぬ夜のほら話、どうぞおつき合い願いたい。 *藤本・注 この四冊のほかに、『戦場の怪25話』(中岡俊哉。日本文芸社)と『日本怪談実話 全』(田中貢太郎。桃源社)の両冊に、日本軍の怪談が、よくまとめられている。それらの書を加えて計六冊としてもよかったが、前者は朝鮮戦争やベトナム戦争の怪談が一部あること、後者は日本軍以外の一般的な怪談が多く載っていることをもって、リストから除外した。 *** ◎目次 ■第一夜「黒服の日本兵と白服の日本兵」 ■第二夜「仁太郎の幽体離脱」 ■第三夜「女兵の霊」 ■第四夜「あの世からのお迎え」 ■第五夜「成仏したペリリュー島の日本兵」 ■第六夜「郵便兵・鹿島」 ■第七夜「ケンダリー基地の怪」 ■第八夜「自らの戦死を告げた、ある大尉」 ■第九夜「心霊写真」 ■第十夜「母の人だま」 ■第十一夜「塹壕の兵隊」 ■第十二夜「川島芳子生存説」 ■第十三夜「オラン・イカン」 ■第十三・五夜「真実のオラン・イカン」 ■第十四夜「半魚人のミイラ」 ■第十五夜「戦友愛」 ■第十六夜「アッツ島の英霊」 ■第十七夜「夢枕に立った特攻隊員」 ■第十八夜「夢の中の知らせ」 ■第十九夜「母親に導かれた零戦」 ■第二十夜「履けない軍靴」 ■第二十一夜「髪の毛が伸びていた日本人形」 ■第二十二夜「亡霊の恩返し」 ■第二十三夜「臨死体験」 ■第二十四夜「戦死者の行軍」 ■第二十五夜「死後の入浴」 ■第二十六夜「K先任下士官」 ■第二十七夜「幽霊が手配したトラック」 ■第二十八夜「妖怪ぬりかべ」 ■第二十九夜「人形の花嫁」 ■第三十夜「宮川少尉のホタル」 ■第三十一夜「赤マント」 ■第三十二夜「深夜の帰宅」 ■第三十三夜「営庭に響く喚声」 ■第三十四夜「田浦伍長のお経」 ■第三十五夜「お化け灯籠」 ■第三十六夜「柳樹房の夢」 ■第三十七夜「墓の絵」 ■第三十八夜「K少尉の尺八」 ■第三十九夜「死の行進」 ■第四十夜「幽霊歩哨」 ■第四十一夜「化け物砲台」 ■第四十二夜「塹壕に立つ娘の幽霊」 ■第四十三夜「山本兵長の導き」 ■第四十四夜「海軍航空本部嘱託の占い師」 ■第四十五夜「消えた死相」 ■第四十六夜「亡くなった母の愛」 ■第四十七夜「船霊の怒り」 ■第四十八夜「潜水艦の無線に聞こえる謎の声と不気味な音」 ■第四十九夜「空坊主」 ■第五十夜「黒い影」 ■第五十一夜「たまごーっ」 ■第五十二夜「杉野はいずこ」 ■第五十三夜「青山御所に現れた怪物」 ■第五十四夜「特務艦・志自岐の怪」 ■第五十五夜「呪われた宿舎」 ■第五十六夜「帰ってくる玉砕部隊」 ■第五十七夜「人だま」 ■第五十八夜「ウィヒッヒィ……」 ■第五十九夜「突撃の喚声」 ■第六十夜「水中橋」 ■第六十一夜「死者との対話」 ■第六十二夜「おはぎの匂い」 ■第六十三夜「行方不明艦・畝傍」 ■第六十四夜「竹やぶの幽霊」 ■第六十五夜「戦利艦オリョール号」 ■第六十六夜「血を飲む幽霊」 ■第六十七夜「稲荷信仰」 ■第六十八夜「秋山真之中将の見た霊夢」 ■第六十九夜「幽霊が持ってきた手紙」 ■第七十夜「軍隊手帳」 ■第七十一夜「敵陣の上空に現れた母子の幽霊」 ■第七十二夜「古井戸に現れる若い女の幽霊」 ■第七十三夜「予言部隊長」 ■第七十四夜「裁判所で心霊術を披露した予備海軍機関大佐」 ■第七十五夜「新発田歩兵第十六連隊の地縛霊」 ■第七十六夜「仏印バクニンの怪」 ■第七十七夜「終戦の予言」 ■第七十八夜「鹿島様の負傷」 ■第七十九夜「謎の発光体」 ■第八十夜「幻の突撃隊」 ■第八十一夜「神がかり参謀」 ■第八十二夜「捕虜収容所の夜」 ■第八十三夜「鈴」 ■第八十四夜「竜のような生物」 ■第八十五夜「白い発光体」 ■第八十六夜「戦場の怪談」 ■第八十七夜「魚雷を止めた白いもの」 ■第八十八夜「顔のつぶれた幽霊」 ■第八十九夜「戦艦・陸奥にまつわる奇怪な話」 ■第九十夜「英霊の加護」 ■第九十一夜「幽霊部隊の帰還」 ■第九十二夜「ルーズベルト呪殺計画」 ■第九十三夜「山本五十六元帥スパイ説」 ■第九十四夜「日本軍にかけられた呪い」 ■第九十五夜「キョンシーの呪い」 ■第九十六夜「戦死した兄に導かれた騎兵斥候」 ■第九十七夜「陸軍稲荷」 ■第九十八夜「未練がましい近衛兵」 ■第九十九夜「源太郎ギツネ」 ■最終夜(第百夜)「怪談宋公館」 全194ページ(表紙込み、2段組み。17万字弱)