きみ呼ばう星 前編
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CheepChips 水上敏志×王子一彰 A5/40P/R-15 高二の秋に王子からのアプローチで少しばかり友人というには奇妙な関係を持つことになる水上と王子の、過去とこれからのお話。 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12936947の加筆修正と書下ろしになります。 送料等かかるので後編が出てからの一括購入をお薦めします。そうそうなくならないと思うので……(後編はエワ7予定)
「ところでさ、みずかみんぐは髪の色、抜いてたりするの?」 「ん、これ、天然モンやで」 王子の問いに、水上は夕焼けを溶かしこんだような色合いの、ふさふさした髪の毛の先を引っ張りながら告げる。 シモの毛も赤っぽいん知っとるやろが、とはさすがに口には出さず。 「でもこれきみだよね?」 王子は少し古ぼけた一冊の雑誌をどこからともなく取り出した。 月刊将棋通信、とタイトルと数年前の日付の入った表紙を見て、水上は渋いとも懐かしいとも言えない微妙な表情を浮かべざるを得なかった。 そしてしおり代わりのレシートがはさまってるあたりを開くと、A5サイズのその雑誌のカラーページには、長机に並べられた将棋盤を前に、誇らしげに、或いは照れくさそうに賞状を掲げた小学生らしき年頃の少年少女が何人か映っていた。 第〇〇回ブルースター杯小学生名人戦、とアオリの文字も晴れやかな特集の、最後の写真には丸めた賞状らしき紙とトロフィーを抱えた三白眼気味の、ひょろりと背の高い男の子と、優勝:みずかみさとしくん(大阪府代表/唐綿小学校・五年生)との注釈があった。 「またえらい古いもん探してきよって。せやせやこれ俺」 「カシオがね、絶版になったチェス・コンポジションの入門書を欲しがってたから、通ってた中学の近くの古書店に寄ったんだ。そしたらなんか目についたんで――ほら、チェスと将棋は一緒のコーナーに置いてあるだろ?――、他意なくぺらぺらってめくってみたら小学生名人戦ってあったからきみも出たのかなと思って話のタネに買ってみたんだ」 きみらしき子がいるって気が付いたのは、家に戻って改めて目を通してからだけど、と王子は告げる。 「ホンマに先輩、将棋強かったんですね~」 「でも黒いやん、こん時」と生駒が指摘する。 彼の言葉通り、当時ももっさりとボリュームたっぷりの髪の毛は今のような赤毛ではなく、この国にあってはまずまずありがちな黒い色をしていた。 「染めとったんや。悪目立ちするから」 「ふうん」 小学校の頃から将棋なんていう大人の世界で揉まれたせいでだろう、ふてぶてしいの一歩手前のマイペースな性分は、この一枚の写真が写し取ったおもざしからも想像が出来るだけに、水上を生駒隊の仲間たちとは違う形にしてもよく知る王子は彼の説明に釈然としないようだった。 七年ほど前の月刊将棋通信を、王子が古書店で目について手に取ったのは、それは当然頭の片隅に水上のことがあったわけで、だがしかしまさかそこの記事で彼の幼少期の姿を見つけることになるのは想定外だった。さすがの王子でも目を通しただけでは、この子が水上だとは気づかなかったのだから笑い話にもなる。どれだけ人は目立つ特徴に惑わされがちなのかと。ましてや友人という埒とは違う関係を結んでいる相手《ひと》のことなのに。 ぼくが知らない頃のみずかみんぐだ、と王子は人目を盗むようにして、そっと写真を撫でた。