
GIANTKILLING ETUベテランイチャイチャ 石神×達海 堀田×石神 全年齢 A5/24P/コピ本/330円 ETUのベテランたちが仲が良いの大好きなんですが、彼らにとって達海猛を書いた連作。 石神視点なのでガミタツ気味でホタガミ気味、グルーピーとの爛れた話もちょっとだけ。
此処に病める者あり
上はアビレックスのヘンリーネックと着古したネルシャツ下はリーバイスに着替えた石神は、尻が落ちてしまいそうなほど腰を前に出して応接室の窓際に置かれた一人掛けのソファにだらしなく座っていた。フットボールダイジェストで組まれるサイドバックの特集記事のための取材ということだったが、渋滞に巻き込まれて記者の到着が遅れているのだ。もうそろそろはじまるだろうが、正直、面倒臭い。活字になるとなれば煙に巻いてばかりいるわけにはいかないし、インタビューを受けて喜ぶ年齢でもない。 サイドバック特集。フットボールダイジェストらしいといえばらしい特集だ。 これまでの選手人生の中でどこをあてられてもそれなりにやってきたけれど、サイドバックはなかなかにしんどいポジションだ。チャンスだと思って全力で上がっても味方がボールをカットされて急転直下ピンチになれば全力でゴール間際まで下がらなくてはならないし、そもそも試合が読めていなければ上がるにしても下がるにしても間に合わない。体力の消費が半端無いから、経験も必要だ。それなのに、サイドバックは地味で余り評価されることは無いのだ。自分には関係ないことだが、特集が掲載されるフットボールダイジェストの売り上げが気に掛かる。 所在無く背凭れにのせた頭を窓に向ける。トップチームの午後の練習が終わったグラウンドでは、ジュニアユースの中学生達がランニングをはじめていた。平均年齢15歳。 「あーあ、そんな痩せてちゃ競り負けちまうぞー。」 投げ遣りな声が出る。それでもあの中学生達はこれから随分と長い間芝の上を走り続けるのだろう。それじゃあ俺はいったいいつまで芝の上を走っていられるのか。協会の公認B級資格を取ったりしてはいるが、現実感はまだ無い。 あのひとは。石神は中学生達を目で追い掛けながら考える。あのひとはどうやって、きっと人生の全てだったに違いないサッカーを諦めたのだろう。 「石神?」 突然掛けられた声に石神は驚いて体を強張らせた。頭を窓に向けていたから、廊下から達海が覗き込んでいることに気が付かなかった。 「石神、寝てるのか?」 ぺたぺたとこちらに近づいて来る足音。それだ、とばかりに寝たふりをして遣り過ごそうとした石神は達海が顔を覗き込もうとしたまさにそのとき、体を起こした。達海は驚いたように一度立ち止まり、しばらく石神を見詰めたあとで再び歩き出した。 「そんな薄着でうたたねしてると風邪引いちまうぞ?」 「取材がなかなかはじまらないんでもう帰っちゃおうかなとか、思ってたところです。」 記者が渋滞に巻き込まれて到着が遅れていることを肩を竦めて説明する石神が座る一人掛けソファまで歩いて来た達海は、よ、と窓側の肘掛に片尻を乗せてグラウンドを見た。 「ああ、本当だな、あんなに痩せてちゃ競り負けちまうな。」 石神は微かに眉山を上げる。そんな薄着でうたたねしてると風邪引いちまうぞ、なんて言葉に騙されて、いやもう眠くて眠くて寝不足ってわけじゃないんスけどおかしいなあ、なんて言ってしまわなくて本当によかった。てゆうか、痩せてるってことじゃあんたあの中学生達に負けずとも劣らずってところなんだけど。 「なあでも、石神。」 達海が言った。 「俺は、あのころに戻りたいとは思わねえんだ。………だってあんなの、………あんな毎日胸が潰れそうになるの、もう無理二度とできねえよ。」 石神はぱちぱちとまばたきした。………ああ、そうだ。そうだった。あのころは苦しかった。いったいなにをどうすればいいのかわからなくて、辛くて苦しくてもうなにもかも投げ出してしまいたくて、それでも朝目が覚めればボールが蹴りたくて。 それ以上何を言うでも無くぼんやりとグラウンドを見詰める達海の顔を見上げてみたものの、その表情は石神にはよくわからなかった。ただ、胸が潰れる、と言った達海の声に、そんなのはもう無理二度とできない、と言った達海の静かな声に、理由も無く胸が騒いだ。
