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「俺はただ、骨董品の『声』を聞いただけだよ」
「骨董品の、声?」
「陶磁器だったら裏印、掛け軸だったら署名や落款。箱書きには作者名や製作年代が書かれているし、作風は時代によって流行り廃りがある、保存状態、傷の有無、そういった些細な情報を、物の『声』を少しも聞き逃すなってね」
都心から電車で一時間半、八百寺(やおじ)の街で骨董屋を営む若き店主 橘 晴天が、物にまつわる記憶を辿る現代ファンタジー。
「まあ、骨董品なんて曰くありのものばっかりだから、あんまり『声』が煩いのも考え物だけどね――」