Cinematic Collection 上
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『Cinematic Collection 上』 A5/144ページ パワプロ同人誌再録集です。 厚みと愛が詰まっております。よろしくお願いいたします。 書き下ろしは12ページあります! 収録作品 ぼくらのキャプテン!(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5218199)一ノ瀬さんとあかつきナイン中心オールキャラ 卒業式に桜は咲かない(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6887761)二宮と一ノ瀬長編 Recording Collection -BLUE-(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6888511)web再録集から抜粋 サンプルは書き下ろし(あかつきナイン、四条×六本木、二宮×一ノ瀬、三本松×七井)になります。合計12ページあります。 表紙は上下巻ともにすっぽんぽんみれさんに描いて頂きました……!!それぞれの作品を美麗なタッチで表してくださって感謝しかありません……!!ありがとうございました!!!
あかつきナインが猫カフェに行った話 サンプルその1
書き下ろしのあかつきナイン、四条×六本木、二宮×一ノ瀬、三本松×七井のサンプルです。 あかつきナインが猫カフェに行った話 「見て! この子めっちゃ華麗だよ! オイラの猫じゃらしにすごいついてくる!」 八嶋が振り回すキラキラとしたテープの端を、実にダイナミックな動きで黒猫は追い続けていた。 その眼は爛々とした輝きを持っていて、本気の遊びに大興奮しているのか、それとも、本気の狩猟として全力を出しているのかは、猫のみぞ知るといったところだ。 意外と広い店内はカーペット敷きになっていた。店に訪れる客が靴下でうろつけるというのも勿論あるが、そこはあくまで猫たちのための場所だったからだ。 たとえば、昼寝するみたいにごろりと転がっても、そこらへんにあるおもちゃにじゃれついていても、猫たちは快適に過ごせるという訳だ。 「人間やったらえらいことになっとんな、このスピード。お、どした、なんやなつっこいなあお前」 九十九は、八嶋が店内の隅で猫と遊んでいるのを見ながら、壁にもたれていた。ぼーっとした雰囲気に惹かれたのか、そこにキジトラ模様の猫が近づいてきた。九十九は優しい手つきでその頭を撫でてやる。 様々な模様、体格の猫たちがいるが、本質はやはり気ままだ。おやつもあげずに、このように近づいてくるのは少数派だろう。 「ハッ……! オイラより速いかも……!」 「八嶋よ、そもそも動物に身体能力で勝っている訳がないだろう」 「そうだ、もっとも人間は四足歩行を捨てて進化したお陰で、ここまで繁栄してきたわけだが」 真剣な顔をして驚いた八嶋に、声をかけてきたのは五十嵐だ。――ゆっくりと膝歩きをして。これは、体格が大柄なのをわかっているから、この場では猫を怖がらせることのないようにという、実直で不器用な男なりの思いやりだ。 四条も、自身が掛けている眼鏡の位置を直しながら、五十嵐の言葉に続く。もっとも、その手には八嶋と同じように猫じゃらしを持っている。違っているのは、そのふわふわとした触感だ。これを揺らすと、ちょい、ちょい、と前足を出してくる姿に、尋常ではなく胸をときめかせていたくらいには、動物好きだ。本人が主張するには犬派だそうだが。 「五十嵐も四条も学校みたいな話やめて! オイラはこの子と遊んでるの!」 「せやせや、こないなとこなら猫かわいがってりゃええねん」 なあ? と九十九は、猫の喉を指先でくすぐってやりながら話す。ぐるぐると気持ちよさそうな音を鳴らしながら、九十九の近くで寝転がっていた。 まあ、こんなことはもう二度とないだろうけれど、広い店内には、実に個性豊かな、強豪校の球児たちが、それぞれに猫と戯れていた。
その2(四条×六本木)
四条さんと六本木さん 「メモリが埋まってしまいそうだな……」 そう言う四条の声は、得も言われぬ充足感で満ちていた。 六本木は、四条の手元を覗き込んだ。先程からいるこの猫カフェの猫たちの写真で、画面は埋め尽くされていた。 「可愛いもんね」 「ああ、とても。ほら、六本木、これを見てくれ。上手く撮れたと思わないか?」 「どれ? わあ、あははっ、ほんとだ。この子たち、仲が良いんだね」 四条が操作して示した写真には、二匹の猫が映っていた。だが、彼ら(彼女も混ざっているだろうか)の姿には、六本木が思わず笑ってしまった理由があった。 短毛の白猫が、身を投げ出して床で眠っている。しかし、その腹側には、ほとんど同じポーズで眠っている、毛足の長い白猫がいたのだ。 記号や図形で表すなら、カーブが二つ重なっているように見えた。寝姿にしては躍動感があることと、しかもそれをこんな近くで似たようなポーズをしているのを見たら、つい笑ってしまうというものだ。 随分とサービスが良い猫たちだ。六本木はそれに甘んじて、めったにない機会だしと、自分なりに猫たちを可愛がっていた。硬い掌なのが少々心配にはなったが、どうやら嫌がられてはいないようだった。 気ままに近寄ってくる彼らが、また行き過ぎていく中で、するりするりと撫でていく。 時折、止まってそのまま撫でられていく猫もいて、なるほど、その気ままさが好きという気持ちは、六本木も理解できないではないような気がしたのだ。 それにしても、と六本木は、隣の四条をちらりと見て考えた。 「四条、犬が好きになったって前に言ってたよね。猫もそんなに好きだったんだ」 そして考えたことを口に出す。と、四条の動きがぴたりと止まる。 六本木はにこにこと笑みを崩さないまま、四条が地味に狼狽える様子を見ている。 勿論、責めているつもりはない。四条が何かしら咎を受けるような行為は、今この場では全くしていない。 それなのに、六本木の言葉に落ち着きがなくなるから、――かわいいなあ、などと思われてしまうことは、きっと四条自身は気が付いていないのだろう。 「いや、もちろん、犬は好きだぞ。ただ、なんというか、……動物そのものも、もっと好きになったんだ」 こほん、とひとつ咳払いをする四条。眼鏡の奥の瞳が、普段よりご割増しでうろうろと彷徨っている。 「自分だけで来る場所でもないし、思っていた以上に浮かれていたかもしれない。澄香も喜ぶだろうと思って、写真もたくさん撮っていたしな」
その3(二宮×一ノ瀬)
二宮と一ノ瀬さん 「一ノ瀬さんって、昔からわりとそうだよな」 「そうって?」 「動物に好かれる」 「二宮はそうでもないよね」 「うるせえ」 悪態をつかれるが、一ノ瀬はくすくすと笑う。嘘は何一つ言っていないし、だからこそ二宮は、図星を指されたとでも言わんばかりの顔で、小さく唸り声をあげているのだ。 別に、嫌われていると言った訳ではない。ただまあ、二宮が言う通り、一ノ瀬には比較的、動物がよく馴れる。 道を歩いていても犬が寄ってくるし、たまに、こうやってお店の猫ではなく野良猫も近づいてくる時がある。 とはいえ、野良猫は更にシビアなので、何も無しに来ることは、一ノ瀬だってそう多くはないが。流石にそこまで特筆する程、動物に好かれてはいない。 一ノ瀬自身は、動物は嫌いではない。家で飼ってはいないから、日常的に慣れているというわけでもないのだが、人間よりも単純な、それでも賢い彼らを見ていると、やっぱり可愛いと言う感情は湧いてくるのである。 二宮はと言うと、だからこそ、一ノ瀬が猫じゃらしを飽きずに振り回しているところを、飽きもせずじっと見ているのであった。 積極的に行って、それで猫が近づいてくるかと言われると、難しいところがある。事前に軽く説明を受けていたので、二宮は毛玉たちがころころと、あるいはしなやかに音もなく、自由気ままにしているのを眺めていたのだが。 「二宮、今ならいけるよ」 「は?」 「猫、触りたいんだろ? この子、たくさん遊んで満足してるから、今の内ならあんまり逃げないと思うよ」 エスパーか、と、二宮が言ったら、二宮がわかりやすいんだよ、と答えるところまで、シミュレーションが出来ている。 未来予知でも、心を読んだのでも何でもない。10年近く、バッテリーを組んでいる、以心伝心の賜物だ。 もっともそれは二宮も一ノ瀬へ伝える気があって成立する言葉と言えたが。 そんな気があったら、二宮は思いっきり渋面など作らないだろう。 本当に、わかりやすい。ふっと笑いながら、一ノ瀬は自分の掌に撫でられるがままになっている赤さび模様の猫へ、二宮を静かに促した。 「……じゃあ、まあ、失礼します」 「珍しく固いね」
その4(三本松×七井)
三本松さんと七井さん 「寝る子と書いて、ねこと読むと、古語でやったのう」 小さな、そのあぐらで密集している寝子、もとい、猫たちを起こさないように、普段のよく通る声をうんと抑えて、三本松は話している。 その向かいに座る七井は、三本松をじっと見たり、その三本松のあぐらの中で健やかに寝る猫たちを見たりしながら、三本松の話に相槌を打っていた。 一緒に来ていた七人は、またどこか別の場所で、それぞれの過ごし方をしているようだった。 その中で、三本松だけが、比較的若い猫たちを起こせずに、寝床の役割を果たしている。 もしももっと客が多くて、この猫たちを目当てにしている客だったら、嫉妬されていたかもしれないな、と七井は思う。それくらい、安心しきって寝ている顔だったからだ。 「三本松、筋肉、柔らかいっケ?」 「うーむ、それなりだろうか。ホームランを飛ばすための筋肉は、しっかりつけているつもりだぞ」 「フーン」 そう言って七井はまた、三本松のあぐらで寝ている、縞模様の猫を撫でた。 すうすうという寝息と、ぐるぐると喉が鳴る音が聞こえてくる。この穏やかな雷のような音は、猫がリラックスしている時に発生するものだという。 初めて行った猫カフェで、そこまで猫に信頼される男と言うのも、なかなかいないのではないだろうか。 「やっぱり、マイナスイオン、出てるのカ?」 「あれは空気清浄機が出すもんじゃろう? ワシから出ているとは思えないが……」 「……お前も結構アホだよナ」 三本松はこう聞いて糸目を丸くする。つぶらな黒目に七井はくすりと笑いそうになって、我慢をする。 「成績は同じ位だろう」 「成績は関係ない話してタ」 「どういうことじゃ……」 今度こそ七井はくっくと笑う。そして、こういうことだと、軽い調子で説明しようとした。 しようとして、もう一度頭の中で懸命に言葉を組み立てた。 「お前といると癒されるってことだヨ。だから、動物が寄ってくるんじゃないノ、って、五十嵐はさっき言いたかったんだヨ」 「……なるほど……」 「まあ、三本松って、木っぽいもんナ」 けらけらと言う七井に、三本松はふむと唸ってから「褒め言葉として受け取ろう」と、笑って見せた。