安室さんと過ごす5月4日(たんじょうび)
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5/4 SUPER COMIC CITY30 超秘密の裏稼業2023 潜入!星降る夜に真実を 新刊 「安室さんと過ごす5月4日(たんじょうび) 今年の誕生日は安室さんと1日デート。 でもプランは全て内緒って…一体どういうこと?! 全年齢/文庫本/42P 以下サンプルです。 ***************** 赤井さんから「少し早い誕生日プレゼントだ」と貰った推理小説が面白くてやめられない。 その小説はハードカバータイプの物で、ページが何百層にも重なったとても読み応えのある物だ。けれど、さすが赤井さんが選んだだけのことはある。起承転結の『起』の部分から既にその世界に誘われてしまった。初めから散りばめられている違和感、登場人物一人一人の個性、そしてその世界が目の前に想像しやすい五感を使った書き方。 明日は安室さんとのデートだとわかっている筈なのに、その先の展開が気になってあと五ページ…あと十ページだけ…と自分を甘やかしてついつい読み進めてしまう。 ブーーッ、ブーーッ すると、とある時間を境にスマートフォンが鳴り止まなくなった。自分のスマホを確認してみると、時間は午前零時を回ったところだった。 俺は、着信が鳴り止まない犯人と思わしきメッセージアプリをタップする。 そこには 灰原『どうせ起きてるんでしょ、おめでとう』 服部『コナンく〜ん おめっとさん♡七歳かぁww』 黒羽『名探偵おめでとう』 白馬『おめでとうございます』 赤井さん『HAPPY BIRTHDAY.面白いだろ?』 みんな零時ジャストに送ってくる所が律儀というか、なんというか……赤井さんに至っては俺がタイムリーで本を読んでいる事まで見透かされている。本当に敵に回したくない人だなと改めて思った、正直言って怖い。 上から順番に送られてきた人物の名前を順番に見ていくと、一番下に表示された名前にドキッとする。 安室さん『コナンくん、お誕生日おめでとう』 文末にはケーキの絵文字までついてる。かわいい。 …ん?待てよ。一番下に名前があるという事は、最初に送られてきたという訳で―――うん、偶然。あまり気にしない様にしよう。 一人一人に返したかったけれど、それはまた起きてから。 すぐの返信を期待している人たちじゃないし、それぞれ忙しい日々を送っているから、返事の一つや二つ遅れる事はお互いに理解している。 俺は本当に人に恵まれているなと感じる所の一つだ。 でも、一人だけすぐに返したい人がいた。 『ありがとう安室さん』 その後にポンッ、と黒猫が「ありがとにゃ」と言っているスタンプを送る。『おめかし黒猫』というらしい。メガネと蝶ネクタイをつけたなんとも愛くるしいキャラクターだ。前に安室さんが俺に似ているからと、プレゼントしてくれたスタンプだ。 それを送ると数秒足らずで既読という文字がつく。 『やっぱり起きてた。君の事だから本でも読んでいたんだろう?』 ご名答。赤井さんにも安室さんにも完全に俺のパターンを読まれている。あれ、俺ってそんなにわかりやすいか? 『バレた?ちょっと面白い本を見つけちゃって』 ここで誰かから貰ったとか話は広げない方が良い。何故なら安室さんの詮索がしつこいからだ。更に赤井さんからの贈り物だとバレてみろ。その後の事は…考えたくもない。 『明日、起きれなくなっちゃうよ?』 文面は優しく見えるがその背後には「早く寝ろ」という圧が窺える。全く、安室さんは俺の母さんかっての。 『もうそろそろ寝るよ。そういえば、今日ってどこに連れて行ってくれるの?』 すると、ポンッと安室さんからスタンプが送られてくる。 安室さんの髪色に似たテディベアー『あざとベア』が口に人差し指を当ててウィンクをしている。その下には「秘密♡」という文字が。 (秘密ってなんだよ…でも久々の安室さんとのデート、楽しみだな…) ようやく眠くなってきた俺は、安室さんにおやすみスタンプを送って床につく事にした。 *** 「ン…くん、コナンくん」 っ、誰かに呼ばれている気がする…でも眠いからもう少し寝かせて欲しい。それでもあまりにもしつこ過ぎたから誰だよ、と起こしている人物を薄目で確認してみる。そこには金髪に褐色肌の自分のよく見知った人物がいた。 ん?安室さん…なんで…?確か今日は…。 ガバッ やべっ!寝坊した?と、スマホを見てみれば時刻は十時。安室さんが迎えにくる時間は十時半だから、急がなくても十分に間に合う時間だった。 でも俺の目に写っているのは紛れもない安室さん本人で――。そして何故か俺の寝床に潜り込んで横になっている。色々な意味で「なんで?」と、まだ寝ぼけ眼で見つめていると、安室さんがフッと笑って俺の頭を撫でてきた。 「おはよう、コナンくん」 「おはよ…?」 「こんな事もあろうかとモーニングコールをしに来たよ」 (えっ、なに、スパダリかよ…。朝からドキドキが止まらねぇ!) しかも、窓から差してくる朝日で安室さんの髪がキラキラと輝いて、少女漫画の様なフィルターがかかっている様に見える。 少しときめいてしまった心を悟られないように、気持ちを落ち着けて会話を続けていく。 「ありがとう…でも布団の中にまで入ってくる事ないんじゃない?…って、何もしてないよね?!」 「ん?…何もしてないよ」 おい、なんだ今の間。数秒前のときめきを返してほしい。俺は自分の体をキョロキョロと見渡してみた。どうやら変な跡はなさそうだ。 そうこうしている内に、五分が経過してしまった。出発まであと二十五分。服に着替えて、髪を整えて、歯を磨いて――。 まずは服に着替えようと寝床から抜け出し、箪笥の中を物色する。 しかしどういうデートか全くわからないから、どれを着たらいいのかさっぱりだった。 (畏まった所へ行くならいつものジャケットと蝶ネクタイだけれど、動きやすい方が良いのならTシャツがいいかな) いくら目的地は秘密だと言えども、ヒントくらいは貰えるだろうと「安室さん」と呼びかけながら後ろを振り返った。 すると…何故か安室さんは俺の背後にいた。全く気配を感じられなかった。怖い。 「なんだい?コナンくん」 「あのさ、言いたいことは色々あるんだけど、とりあえず僕のパジャマの中で、もぞもぞするのやめてくれない?」 「えー。着替えのお手伝いをしようと思ってたのに」 「結構です!!」 出てって!と、安室さんのお腹辺りを押しながら、居間まで押し出そうとしたけれどびくともしない。ここは空気を読んで一緒に移動してくれるパターンだろ。大人気ないな! 仕方がないから、適当な服を掴んで自分が居間に逃げ込むことにした。 「あ、コナンくん」 「?」 居間に足を踏み入れたところで安室さんに呼び止められた。振り返ると安室さんが、俺の箪笥の中を物色していた。 「濃い色の服が良いかもしれないよ。あ、赤はNGね…うーんそうだなぁ。これとかどうだい?」 ガサゴソと探した後、お眼鏡に適った一着を見つけ出した安室さんは、俺の元へそれを持ってきてくれた。 トップスは黒い半袖のTシャツ、まだまだ寒暖差のあるこの季節に対応できるようにデニム地の長袖シャツ付きだ。ボトムスはスエット感のあるグレーの半ズボンに黒いレギンスを合わせろということらしい。そしてちゃっかりキャップまで持ってきている。相変わらずセンス良いなこの人。 自分で服を決めるのも良いけれど、相手に選んでもらうのも悪くないのかもしれないと思った。 「濃い色って、汚れる様なことする感じ…?ねぇ、もう教えてくれたって良いじゃん」 すると、俺に服を渡して手が空いた安室さんは、人差し指を自分の口の前に持ってきてパチンとウィンクをする。 そう、昨日の「あざとベアー」の様に――。そうしてこう言ったのだ。 「まだ秘密」 この人、自分の顔の良さを最大限に活かしてやがる…。 本日二度目のドキドキを味わった。顔がだんだん熱くなって体温が上がっていくのがわかる。何も言えなくなってしまい、俺は頰を『ぷぅ…』と膨らます事でしか抵抗する事が出来なかった。