
一次創作 百合小説 短編集(全4編) 『夜の喫煙所』×『百合』をテーマに物語を綴りました。 命を煙に変換するような、緩やかな自殺。 世界の片隅で、彼女たちは痛みの伴わない自傷行為を共有する。 タールに汚れた未来が交差するとき、彼女たちの物語はどこに帰結するのか 執筆 :大川黒目、可笑林、兎谷あおい イラスト:やわらかブラック ページ数:154(B6判) 発行日 :2023/8/13(コミックマーケット102)
人を突き飛ばして、足を踏んづけて、転んで、踏まれて、立ち上がって、渋谷のさらに奥へ。あたししか知らない喫煙所が、あの袋小路にあったはず。
ハロウィンの渋谷は、まさに魑魅魍魎がはびこる乱痴気騒ぎの真っ最中。 人目の届かぬ袋小路にぽつんと存在する喫煙所には、コスプレ天使と血塗れメイドの二人きり。 最期に煙草を望む瀕死のメイドに、コスプレ天使はいたずらっぽく微笑む。 エアポケットのような喫煙所で繰り広げられるのは、破滅的結末までの追想劇。 ハロウィンが終わるとき、ゴミ溜めのような喫煙所に残されるのは、一体なに? 【可笑林『ハロウィン・キャロル』】
「もう一度だけ言ってあげる。容疑者は、いるよ」
"真実"なんてものは、先輩の足を動かすに値するものではない。 煙草と、そして少しの時間があれば十分だ。 新人刑事の私は、一人では解決できない事件があれば屋上の先輩を訪ねる。煙草と引き換えに、真実への手がかりは簡単に手に入ってしまう。 そんな折に発生した殺人事件が、またも私を悩ませる。 無秩序な証拠に、物言わぬ女性の死体…… 容疑者不在の状況下で、私は煙のような真実を掴もうと動き出すのであった。 【兎谷あおい『屋上、煙』】
私の指の間から水かきが消えたのは、私の足が二本に分かれたのは、私の胸に肺が出来たのは、きっとこのためだ。
莉奈の所属するダイビングサークルは痴情のもつれで荒れた空模様。 自分のことしか考えていないサークルメンバーの中で、ユナ先輩だけは別だった。 月のように静かに輝いていて、涼やかで、綺麗で、そしてタバコの匂いがする。 「だから先輩、あなたのことが――」 美しくも仄暗い海の中で、 星上がりの照らす堤防の上で、 すべてを終わらせそうな言葉は泡に、煙に、溶けていく 【大川黒目『The Old Moon in the New Moon's Arms』】