孤独な猫は甘い匂いを知る
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あらすじ:プロヒーロー爆豪×猫と人間の半獣焦凍 ヴィラン組織で飼われて人の殺め方や体の売り方を教えられてた焦凍を爆豪が助けて育てるお話。ハピエン。猫にも人にもなれる焦凍、幼いです。 A6 無線綴じ 表紙クリアPP / 272ページ (本文268ページ) 全文Pixivでお読みいただけます。お手元に欲しい方用の販売です。 小説にする前提で書いていないので視点の切り替わりや間で読みにくさがあると思います。 また、誤字脱字もご承知ください。 この商品はpixivFACTORYの同人誌印刷サービス( https://factory.pixiv.net/books )で印刷・製本されます。
試し読み(冒頭)
ひんやりした空気が身を包み「チッ」と舌打ち。苛立つ、何もかも気に入らねぇ。 「ンで俺が後方なんか」 「仕方ないよ、今回の狙いは…」 「わぁってる!つーか隣に立つンじゃねぇよ!」 「それこそ仕方ないじゃないか!グループ同じなんだから」 ーー犯罪組織をぶっ潰すための出久の事務所とチームアップ。違法薬物に銃器、爆弾生成や売買、人身売買に違法な個性使用…クソの集まりみてぇな組織はムカつく程に狡猾で中々アジトが分からなかった。それを突き止め、今まさに突入しようとしている。 建物の構図も手に入れて一気に雪崩れ込み分散し、次々に組員を確保していく予定だ。 それ自体は構わねぇ。腹立つのはどういうわけか振り分けられたのが後方で更にデクと同じグループ。胸糞悪いことこの上ねぇ。 「突入!!」 合図とともにヒーローが雪崩込み、俺とデクも続いて入り込む。抵抗してくる組員を倒しながら入り組んだ建物の奥へと足を進める。 次々に気絶させるか拘束し進んでいくと途中に違和感を感じる壁を見つける。直感で隠し部屋だなと判断し爆破を打ち込むと案の定スペースがあって。 「ひっ…」 ベッドに水道に簡易トイレ。部屋のようだが人が暮らせると思えない程に埃っぽい。その中心で麻袋を抱える一人の組員。 「く、来るなっ!」 組員がポケットから銃を取り出すと同時に俺は地面を蹴る。無個性か、ンな飛び道具当たんねぇよ。 「かっちゃん!」 後ろからデクの声がして組員は更に狼狽え「くそっ!」と麻袋を思いきり投げる。 「てめっ…!」 中身が何か分かんねぇから迂闊に衝撃は与えられない。咄嗟に麻袋を抱えたと同時にデクが敵を拘束する。抱きかかえた袋の中身は柔らかくぬくもりがあり、どうやら武器の類では無いようだ。結び目を解いて中を見て…思わず「あ?」と声を出す。手を突っ込みその柔らかい物体を持ち上げる。 ーー「みゃ…」 「…猫、か?」 顔の半分が火傷痕を負っているガリガリの猫。耳の左側は紅い毛で覆われ、体にはペラペラの白い服を着せられている。恐怖から怯えてこちらを見る瞳は両目で色が違ぇ。要はオッドアイだ。 ーーアイツ、猫が入ってんのにあんな思いきり投げたのか? ヒーローしてると凄惨な現場なんてクソ程経験する。酷い死に方もクソみてぇなヴィランも対面する度に何か思っていたらヒーローなんてやってられねぇ。 だが、何食わぬ顔してその現場に立っていても何も感じないわけじゃねぇ。不快なモンは不快だしそもそも慣れるモンでもねぇ。人間としての感情は普通に残っている。 だからこの小せぇ猫を思くそ投げた組員に自然と殺意が湧いてくるのもどうしようもねぇ。だがもうデクに拘束されて組員は抵抗出来ねぇ。これで爆破打ち込むのはただの私情だ。今はこの猫が死ぬ前に間に合ったことに安堵すべきか。 「…怪我、してんな」 右の前脚の白毛がじんわり赤く染まっていて、今もじわじわと血が出続けている。 「デク、ガーゼ巻け」 「あ、うん!」 慌ててデクが「痛かったね、もう大丈夫だよ」とガーゼを巻きつける。「みゃっ!」と少し暴れるも「落ち着けや」とぐりぐりと頭を撫でてやると何故かピタリと動かなくなって。 「ん、一応巻けた。けど早く連れてこう」 「言われンでもわぁってる。てめぇはそのクソ連れてこい!」 「うん!」 部屋を飛び出ると猫が「にゃっ」と俺の胸元に顔を埋める。外の光が眩しかったんだろう。戦闘後で煙いせいか「けほっ、けほっ…」と数回咳込む猫の背を擦ってやる。 つーかマジでガリガリだな…皮膚越しに骨の感覚が伝わってくる。救護班に近づき「この猫頼む」と渡そうとするが…。 「フシャー!!」 「あ?」 小せぇ体に力を入れて必死に爪立てて俺のヒロスに縋りつく。 「おい離せ、穴開くだろ!」 引っ張っても猫特有の柔らかさでぐにゃんと体が曲がり更に足の爪までたてて意地でもくっ付いてくる。さっきまで不安げだった瞳には余裕がなくなりまさに死に物狂いだ。怪我の箇所に巻いたガーゼにじわじわと出血が広がる。 「寝かせますか」 救護班の一人が耳元で問いかける。どうやら睡眠系の個性もちらしい。頼む、と言いかけたすぐにイヤモニから「全員確保完了。物品の押収に当たれ」と伝達が入る。どうやら力としては大して強い組織では無かったようだ。だからこそ頭脳勝負で慎重かつ狡猾だったのだろう。 「…いや、いい」 だったら猫一匹の治療時間くらい、この場に留まっても問題はねぇ。 「おら落ち着けや。血ぃ出てんだろ」 「にゃ!?」 ぐるっと向きを変えて救護班の方へ怪我してる前脚を向ける。突然体の向きが変わり驚いたようだが離されないと分かったらしく大人しくなって。プルプル震えながらも治療を受けて出血が止まる。 コイツがただの猫なら逃してやっても良いんだが何しろ組員が麻袋に抱えて持ち出そうとしていた猫だ。どうこの組織と関わってたのか調べる必要がある。もしかしたら何らかの薬物実験にでも使われていたのかもしれねぇし。 だからといって俺がずっと抱えている必要もねぇ。とりあえず警察に預けるかと立ち上がった瞬間「かっちゃーん」とデクが走ってくる。きめぇ。 「その猫ちゃん大丈夫だった?」 「見りゃ分かんだろ、治療済みだわ」 「ほんとだ!よかった!あ、警察の人が猫をどう保護したのか聞きたいって」 「うるせぇ今行こうとしてんだわ」 デクが近づいてくると猫が再びぎゅうっと爪を立てて縋りつく。コイツ、なんでこんな離れねぇんだ。正直もがいて逃げ出そうとしたっておかしくねぇのに何故か俺から離れようとしねぇ。むしろ離れたがらねぇくらいだ。 デクもついてくるが気にせずズカズカと警察の方へ向かっていくと「爆豪、緑谷」と呼び止められる。 「あ!相澤先生!」 UA時代の担任相澤先生。そういや要請するって言ってたな、忘れてたわ。すっかりヒーローの雰囲気を解いた様子で先生はいつものようにもそもそと近づいてくる。 「ん、何だ猫か?」 「はい。かっちゃんが保護したんですけど組員が抱えてて」 「そうか」 じーっと猫を見つめる先生。なんだ、と思っている内にこの人にしては珍しくふっと口角を和らげて。 ーー「大丈夫だから、話をしようか」 「…は?」 思わず気の抜けた声が出る。話?猫に言ってんのか。伝わるわけねぇと思ったが意外にもオッドアイが先生の方へと向く。 「ほら、周り見てごらん。もうお前を怖がらせてた奴らはみんな捕まえた。ここにいるのはお前に危害を加えない。約束する」 猫がじっと話を聞くように先生を見つめて、理解したのかきょろっと緩慢な動きで辺りを見回す。そのまま不安気に俺を見上げた次の瞬間。 「…ハァ!?」 ぽんっと、一瞬の間に腕ン中の猫は消えて猫耳生やしたガキの姿に変わる。思わず落としそうになるがそれを予想していたように先生が手を出し支える。 「やっぱりな。この子は半獣だ」 「わ、半獣初めて見たなぁ」 紅白髪の人間の子ども。猫の時に着ていた服も大きさを変えてサイズがぴったりまで大きくなっている。が、今は冬だ。猫の時は毛もあったが人間では体を包んでた毛も無くなり寒いのだろう。「くしゅっ」と小さくくしゃみをして。 「あ、寒いよね。僕毛布借りてくる!」 デクが駆け出すと同時にぎゅっと擦り寄ってきやがる。 「君、名前は?」 先生が顔を覗き込んでそっと覗き込む。少し考え込んだ子どもは数回「けほ、けほっ」と咳込んだ後何かを呟いた。 「ん?」 「しょう、と…」 「しょうと君な。他に痛みは?」 ふるふると首を振る。先生は続けて「俺は相澤消太、コイツは爆豪勝己な」と伝える。 「しょうとくんはここで何してた?」 それには答えず不安げに俺を見上げた後ぎゅっと額を肩に押し付けて顔を隠しちまう。先生が色々聞くも何も答えねぇ。 「チッ、何も言わねぇと分かんねぇだろ」 「…お、れも…わかん、ない…」 やっと話したと思ったらすぐに呼吸が早くなりハ、ハ、と短くなっていく。ここで聞けそうにはないなと先生は諦め救護班を呼ぶ。 「寝かせてやってくれ」 「はい」 救護班が小せぇ額に手を当てるとスーッと呼吸が落ち着きくたりと力が抜ける。そのまま「スー、スー…」と穏やかな寝息を立てはじめて。その寝顔はどこか疲れ切ってきて憔悴し、幼子のものとはかけ離れている。 「お待たせ!あれ、寝ちゃったのか」 デクが持ってきた毛布で体を巻いてやる。あとはコイツを警察に渡しておしまいだ、と思った瞬間。 「爆豪、悪いがその子の取り調べ付き合え」 「…は?ンで俺が」 「今の見ただろ。俺らのこと完全に怖がってる。だが何故かお前には少し気を許してるようだ」 「ンなことねぇだろ」 「それに目が覚めて知った顔がいたら何か話してくれるかもしれないしな」 もっと強く断ることも出来ただろうがどうにも腕ン中のコイツを強く拒絶できねぇ。同情してんのか?この俺が? デクがそっと寝顔を覗き込んで頭を撫でる。 「この子も、壊理ちゃんみたいに怖い思いしてたのかな。かっちゃん、よろしくね」 「あぁクソうるせぇ!おい、コイツどのくらいで起きんだ」 「ざっと1時間くらいです」 1時間か、短ぇな。歩き出そうとするとデクが慌てて「どこ行くの!?」と腕を掴む。 「コイツのこと調べなきゃなんねぇだろーが」 スースーと眠るこいつ見てたら反発すんのもめんどくせぇわ。取り調べでも何でも付き合ってやる。 警察と話して状況を伝えてコイツについて調べてもらう。血液を採取し簡易検査に回す。そのまま先生も同行して警察署へ。談話室に通されソファに寝転がし警察からの報告を受ける。 「この子の名前、焦凍くんです。組織のデータにありました」 「血液検査は」 「そちらはクリアですね、薬物を使用されてたわけではないようです」 「そうか」 「ただ若干貧血と栄養失調が伺えます」 そりゃそうだろう。どう見たって痩せすぎだ。 「じゃ、何か食いモンと飲み物のがいるな」 先生の言葉に俺のSKが「買ってきます」と飛び出ていく。バタン、とドアが閉まると「んんぅ…」と焦凍が唸る。すぐに両目を見開きガバッと身を起して不安そうに部屋を見回し俺を視界に入れると飛びついてくる。抱きついて隙間がない程ピタッとくっつき顔を隠す。 「やっぱ懐かれてんな」 先生が少し口角を上げてポンポンと焦凍の背を叩く。先生も警察も色々と声をかけるが焦凍は一切答えず身体をブルブルと震わせ続ける。 「…おい」 「みゃ…」 グイッと体を剥がして視線を合わせる。オッドアイがあちこち不安げに揺れて薄く涙が溜まり始める。 「ンな怖がんな。てめぇに害を与える奴は一人もいねぇぞ」 「…言っ、たら…だめ…っ」 「あ?」 ついに溜まった涙は溢れて次々に頬を滑り落ちていく。こりゃ今日中に聞き出すのは無理だな…。警察に視線を送り首を振る。ちょうど買い物に行ってたSKも帰ってきて飲み物や食べ物を見せるも全部拒否。この場にいる全員が今日は無理だと判断した空気が流れる。 「ダイナマイトありがとうございました。後はこちらで」 手を伸ばして焦凍を抱き上げようとするが「やだっ…!」と俺の服を本気で掴んでくる。警察に脇の下に手を入れられ軽く引っ張られるも必死にしがみついてイヤイヤと首を振る。体中に力が目一杯入っているからだろう、せっかく塞がってた怪我の箇所からまたじんわり血が滲み包帯が赤く染まっていく。 「落ち着けや」 一度背中に手を回しポンポンと叩いてやるも興奮状態のようで「フー!」と息を荒げている。ンでコイツこんな俺から離れねぇんだ。たまたま最初に抱えただけだぞ。 「爆豪、連れて帰ってやれ」 「…あ?」 先生がサラッとまたぶっ込む。 「焦凍君の気持ちが落ち着くまででいいから預かってやれ」 「…」 ンで俺が、とはもう言えなかった。小せぇ体であのクソ組織で飼われて憔悴しきって、何もかもが怖い中で何故か俺を頼ろうとしている。この小せぇ手を、無下に振り解くなんて出来なかった。 「…一緒に行くか」 呟くとパッと顔を上げてぎゅうっと抱きつく。何も言わねぇが肯定として受け取っていいのだろう。 ーーー ※続きはpixivでもお読みいただけます!