『可逆標本 2023』図録本
- ¥ 1,800
A4 / 52P / フルカラーRGB印刷 A4サイズ、RGB印刷の画集(展示図録)です。 「コラボレーションとは何か」の年間報告記録の後に、カラーインクで描かれた作品を大画面でお楽しみいただけます。作品はすべて、godzmekano(https://www.youtube.com/@godzmekano)で描いた絵たちです。 本の中身はこちらでご覧いただけます。 https://www.pixiv.net/artworks/107016891
この本を見た友人が、推薦文を書いてくれました。ありがとうございます。 - - - - - - - - - - - - - - - - - 『可逆標本』を見て思う。色彩は生命そのものなのかもしれない。 春に咲く花の可憐な色合い、爆発するように繁茂する夏の緑、秋の里山に燃える紅葉。それを見つめるあなたの爪の薄く透き通った桜色、その虹彩、唇の色。どうして私たちの鮮血は赤いのか、こびりついた血はどす黒いのか、死んで土くれに戻ろうとする肉は暗い紫色なのか。 人間が認識している色彩は、人間の知覚上にしか存在しないものだと言う。しかしそれならば地上に確かに存在するように見えるこの豊饒は、一体何をこの世界に表出しようとしているのだろう?色彩が太陽の光に踊り、水の中に溶け、地を這ってのたうち回る。我々の目に映るこれが生命でなくて、一体何なのだろうか? この本に収められている作品のどれもが、収縮しては伸張する、生命の欠片たちの断片だ。具体的な形を取るドローイングはない。あるのは美しくも輝かしい色の渦だけである。即興演奏とのコラボレーションで描かれたそれらの、あるものは私たちが一度瞬きをする間に消え去る火花のようでもあり、あるものは人間の時間を超えて長い長い永遠を生きる粘菌のようでもある。 しかし鑑賞者である我々は、彼女がインクで描いた抽象の中に、それぞれが具象を、物語を見出す。蕩けたピンクは春のぼやけた海のようだし、弾むような黄色と青は、嬉しそうに飛び回る小鳥の羽搏きのように見える。きっと他の誰かには、それが幼い日の甘い思い出にも、舞い踊るダンサーにも見えることだろう。 絵の中で表現されているものについて、正解はない。色彩そのものに意味がある訳ではないからだ。それでも我々は、燃え落ちる太陽の色に意味を与えずにはいられない。眼前にある風景は、自分の生きた経験や生々しい感情を通して、明日への希望にも、沈みゆく諦念にもなりうる。 何故そんなことが可能なのか。何故なら私たちの中にこそ生命があるからだ。 私たちは自分の内面の受容体を通して、彼女の絵に自分だけの具象を見出す。それは人間という生物が、実際には存在しない筈の色彩を勝手に見出す行為にも似ている。つまりこの世界に色彩を、物語を視るその行為こそが、人間に許された輝かしい生命の営みの一つでもあるのだろう。 彼女の描いたドローイングの鮮やかさを、是非このA4サイズの画集を手に取って見てほしい。モニター上で見るサンプルとはまるで印象が違うはずだ。そして一枚ずつページを捲りながら、生命というものがどれだけ自由で豊饒なものなのか、あなたにとって生命とは何なのか、思いを馳せてみてほしい。『可逆標本』は鑑賞するだけの画集ではない。作品との対話を通して、私たちが何者なのかを見つけ出す媒介ともなりうるものなのだ。 (20240106)