大阪・煮物屋さんの暖かくて優しい食卓 季節の幕間・冬
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ご覧いただきありがとうございます( ̄∇ ̄*) 「大阪・煮物屋さんの暖かくて優しい食卓 季節の幕間・冬」 Webで連載していた「煮物屋さん」の季節幕間を「大阪・煮物屋さん」にリライトしました。 大阪曽根にあるごはん屋さん「煮物屋さん」。 日々お客さまの心とお腹を満たす煮物屋さんの、季節の品々。 クリスマス、年末年始、バレンタインディなど、冬のひとときをまとめました。 ・文庫サイズ/62ページ
おためし読み
十二月・クリスマスイブ:穏やかな時間のプレゼント 今日のメインは鶏肉とパプリカの煮物である。パプリカは赤と橙を乱切りにし、お出汁と酒と塩でさっぱりとした味わいで彩りよく仕立ててある。 鶏肉は塩と酒を揉み込んで下味を付けたあと、薄く小麦粉をはたいて焼き付けているので、煮汁にかすかにとろみが付いて具材に良く絡む。 器に盛り付けたあと、彩りにみじん切りにしたパセリをぱらりと振った。 小鉢のひとつはカッテージチーズの白和えである。さっと塩茹でした春菊と千切りの人参を、カッテージチーズと白味噌と白すりごまで作った和え衣で和えてある。 爽やかで少し酸味のあるカッテージチーズに、白味噌のこっくりとしたこくと白すりごまの香ばしさと甘みが合わさった一品だ。 もうひとつはトマトとブラックオリーブのマリネ。湯剥きをして乱切りしたトマトをマリネ液に浸け、塩漬けオリーブオイルと合わせて器に盛り、パセリを添えた。 それを見たご常連の榊さんは「あ〜」と嬉しそうに口角を上げた。 榊さんは「煮物屋さん」開店当時から来てくださっているご常連である。少しふんわりとした雰囲気の女性だ。 「もしかして、クリスマスメニュー?」 「はい。そうですよ」 今日は12月24日、クリスマスイブである。ビルや店舗も多い都会はステッカーやスプレー、電飾などで色とりどりに飾られ、流される音楽も誰もが知っているクリスマスソング。 人間の倍以上もある大きく華やかなクリスマスツリーも立てられ、その周りでは可愛らしく着飾ったお嬢さんたちが楽しげにスマートフォンで写真を撮っていた。 「煮物屋さん」のある大阪曽根の駅前も、多少の電飾はあるものの、さほど派手では無い。それでも不思議と特別感が醸し出されるのである。 そんな賑やかなお祭りムードであるが、「煮物屋さん」は平常営業である。お客さまも普段通りに訪れる。 だがいつもと違うのは、そのほとんどがパートナーのおられないご常連だということだ。 榊さんもそのおひとりである。「煮物屋さん」での時間のほとんどをご一緒されている門又さんは、山形さんのお誘いでレストランに行かれたとのこと。 山形さんは門又さんと「煮物屋さん」で出会うと近くに腰掛け、控えめながら会話を重ねて来た。 山形さんはアクセサリー付きが高じ、転職して彫金師になった。幼少からその嗜好を「男のくせに」と周りにあまり理解されず、恥ずかしく思っていたところに、門又さんから好意的なお言葉をもらったのだ。 それをきっかけにじわじわと恋心を自覚し、嬉しそうに門又さんと話をしていた。そして今日勇気を出して門又さんをクリスマスディナーにお誘いしたのである。 門又さんはそれを榊さんに伝え、それが佳鳴と千隼に流れて来たのだ。 門又さんは少し鈍感なところがある様で「なんでやろ」と首を傾げておられた様だ。 今日が山形さんの決戦日になるのかどうかは判らないが、おふたりが楽しい時間を過ごせる様に願おう。 続きはぜひ本でご覧くださいませ。よろしくお願いします!( ̄∇ ̄*)