【電子書籍版】住所不定有職希望
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【電子書籍版:住所不定有職希望】 虎王伝のキャラクター「ロクスリー」の本です。 最初の話はpixivからの再録(歌うたいの夜) 今年のロクスリーウィークで書かせていただいたものでした。 (今年も開催ありがとうございました) あとの2本は書き下ろしで、最後に2ページだけマンガがあります。 ロクスリーはあの世渡り上手さでいろんな仕事をしながら、 たくましく生きていてほしいなあ、みたいなことを考えながら 作りました。 コピー本で、送料の方が高くなってしまうので、どうしようかなーと 考えていたんですが、そういえば電子書籍っていう手もあるなと。 そんなわけで今回からコピー本など、100円単位のものは 電子書籍と紙の本、両方で頒布していこうと思ってます。 ご利用の方はどうぞご都合の良い形で、お手に取ってみてください。 イベント、通販(紙の本or電書)で、お待ちしております。
【電子書籍版】住所不定有職希望
何事も金がものを言う。 皇子様にはわからねぇだろうがな。 言葉も態度も失礼しかない奴はそう言い放ち、夜の町に飛び出して行った。 「いや何安宿の椅子でふんぞり返ってんだ、お前も来るんだよ!」 「バカを言うな。オレ様はもう寝る」 でないとシャルが寝てくれない。 絵本の読み聞かせも子守唄も聞かないなら、いっそ自分が寝てしまうしかないのだ、と最近になって気づいたので。 幼子はいつ眠気が来るんだ? 物語の内容に夢中になって却って目がらんらんとしてくるし、歌を歌えば「トゥーラっておうたうまいのね!」と誉めそやし少し良い気になってしまい知っている数少ない歌を披露していたらこちらも頭が冴えてきた。明日も早いというのに。 「だってよお、まだ夜ったって宵の口だぜ?これからが稼ぎ時ってもんよ!」 「もんよ!」 ロクスリーの大声に、用を足していたシャルが戻ってきて言葉尻を繰り返す。 「シャル、こいつの話は聞かなくていいぞ」 「なんだとコラァ」 「わかった!それでロックはどこいくの?」 「オレ様の話を聞いてくれないかシャル」 「シャルはえらいなー! これからひとっ稼ぎするって話よ!」 === ほのかな灯りの部屋から一転。 気がつけば、騒がしい話し声のようないくつもの光の中にオレ様はもういて。 椅子だと思って座った四角い箱を叩いていた。 「お前って、歌はそこそこだけどリズム感があんま……」 「何か言ったか」 「何でもねぇ」 ロクスリーの言う「ひとっ稼ぎ」とは、酒場に設けられた一角で歌と伴奏を披露し、酒と食事を目的にやってきた客にひとすじの恵みを乞うことだった。 客とロクスリーの間に置かれたブリキの缶には、気まぐれにチャリンチャリンとコインが放り投げられている。 何曲か謎の歌を歌い終わると、 「音の鳴らねぇ金はここに挟んでくんな!」 そう言って胸元や足元のポケットを拡げて見せると、「調子に乗んじゃねぇ〜〜」と、一際大きくコインの音がブリキの缶の中に響いた。 「まいどありぃ!」 === 店のマスターは酒を作りながら今夜の余興を斜め見ていた。 突如あらわれた3人組に今夜の舞台を任せようと思ったのは、いつもとはちがう面白さを感じたからだ。 焦茶色の髪と瞳の、世馴れした風情の男。 金糸の髪に深い蒼の瞳を持つ連れ。 そしてふとエプロンが引っ張られたように感じて足元を見遣ると、光に当てられたメラーブの穂のような髪がふさふさと揺れ、顔を上げたこどもの翡翠色の大きな瞳と目が合った。 身なりは皆、ボロ切れとまでは行かないが、よく見るとつぎはぎだらけの服装で、いったい今までどんな道のりを経てきたのやら。