INVISIBLE WAVES
- 支払いから発送までの日数:30日以内在庫なし物販商品(自宅から発送)¥ 2,500

東日本大震災から10年の期に、当時の記憶を巡っているうちに、2021年の現在から過去を覗き見たイメージをまとめてみようと思った。そして、過去の画像を集めてみたのだが、どうも2021年の世界から過去を覗き見ると、なんとも実感がない。かつてあったもの、かつてあったことは遠く、今ここに呼び戻す回路を失ってしまったかのように感じた。断絶だ。いつの間にか僕はかつての僕と断絶していた。それは年齢を重ねてしまったからだろうか? もちろん経験による思考の変化は違ってくるだろう。 でも、きっとそれだけではない。
僕たちは様々な社会の物理的、非物理的な現象の波にさらされ続けてしまっていて、同じ記憶であってもそれを覗く現在の自己は常に更新され続けているわけで、望むと望まざるにかかわらず、我々のリアルは過去のリアルな実相との断層を産んでしまい、我々は昨日の自己は今日の自己からは遠すぎると感じる。生きる、とはそういうことか、とも思う。生き続けるということは、そういうことか、とも思う。 矛盾だ。 そう、僕らはその矛盾を内包し、矛盾に加担している。 東日本大震災のしばらく後、ある写真洗浄プロジェクトの施設に伺ったときのことだ。そこでは流されて見つかった写真が、バインドされ、フォルダに入れられて何千何万の冊子となって部屋いっぱいの棚に並べられていた。 汚れ落ち、ぼろぼろになり、像を欠損した写真たち。 笑顔の家族写真や記念写真、無数の人々の無数の時間を宿した写真たちが、腐食し、欠損したまま、強い魂の塊となってその場に鎮座していた。どこの誰とも知らない人々の写真たち。その人々の写真を一枚一枚見ながら、僕は揺り動かされ涙が止まらなかった。あのとき、写真の本当の意味に少しだけ触れることができたような気がする。 僕は何に動かされてしまったのだろうか? その答えにあたる言葉を僕はずっと探している。
仕様
カバー:巻きカバー/中表紙無地 印 刷:レーザープリンター 4色(CMYK) サイズ:A5 表 紙:マット系アート紙(マットコーティング加工) 本 身:マット紙