家族の風景
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イサミとスミスの結婚を巡るアオ一家の話です。イサミ両親を捏造しております。イサミを勇と表記しております。同性婚が認められ、ブレイバーンの存在もすんなり受け入れられている世界の話です。 ※5月5日追加致しました。表紙が前回とは変わります。ご了承下さい。 コピー/A5/24ページ/200円
息子の結婚相手がスーパーロボットだった父親の話
父親にとって息子の結婚相手というのは、母親とはまた違う意味合いを持つのだろう。恋愛ごとには縁遠く、このままでは生涯独身なのでは?無論それが悪いことではないが、やはり親としては心配していた息子が「結婚したいと思っている相手が居るので、今度連れていく」と言い出した時には、そりゃ嬉しかった。相手はどんな人だろうか?母親…妻に何処か似た子だったりするのかな?なぁに例え母さんが反対しても、父さんはお前の味方だぞ…なんて想像をしていたのだ。 …それが、それが…相手は自分の想像をはるかに超えていたのだ。幸運にも50歳を過ぎても、平穏な人生を歩んできた自分を、突然襲った嵐のような相手だった。 会う前に、勇から相手の事を聞いた自分は、頭が真っ白になってしまった。相手はアメリカ人で、海兵隊員で…男性だった。同性婚が認められてから随分経つ。周りにも同性カップルは複数居る。しかし自分の子供の話となれば、やはり違う。そうして現実を受け入れられないまま、勇が相手を連れて家にやってくる日を迎えた。自分はどうにも渋い顔をしていたらしい。勇達の方も難色を示すのは母親、妻の方だと思っていたらしく面食らっていた。そうだろう、いつも勇のする事に小言を言い、苦言を呈していたのは妻の方で、自分は物わかりの良い父親面をしていたのだから。意外にも彼女はすんなりと現実を受け入れた。相手…ルイス・スミスを好意的に向迎い入れ、一緒に連れてきた彼の養女、ルルともすぐに打ち解けた。二人が結婚すれば、勇の子供にもなり、自分達の孫にもなる少女だ。結局ろくに相手と話すこともなく、その日は終わった。 妻は自分を説得すると約束したらしい。事あるごとに勇の相手、ルイス・スミスの話をする。その度に自分は何かと理由をつけ、場を外した。 どうして自分は、勇の結婚を素直に認められないのか…?連れてきた相手が、可愛らしいお嬢さんではなく、ムキムキマッチョのアメリカ男だったから?それはある。結婚したら、生活の基盤がアメリカになるから?それもある。いきなり孫が出来るから?それもある。 …結局、自分は息子の結婚が寂しいだけではないのか?なんてこった!花嫁の父親でもないのに。でも仕方ないじゃないか、自分は勇の父親にしかなった事はなく、自分なりに愛し、大切に育んできた。しかしこのままでは、二人は結婚しないだろう。自分の承諾を得ずに勝手に結婚する事はしない、そういう子だ。分かっている。認めるまで、貴重な休みを使い、会いに来るだろう。それはそれでかわいそうだと思う自分も居る。 そうして、また息子達に会う日がやってくる。今回は外で食事をしながら話す事になっていた。気が進まず、なかなか支度が進まない自分を妻が睨見つけてくる。怖いから止めてくれ。 待ち合わせの駅に向かう。遠くからでも二人は目立った。そういえば、あの二人はデスドライヴズと呼ばれた、宇宙から来た侵略者から世界を守った英雄たちでもあった。あの戦乱時は、とにかく連絡の取れない勇の事が心配で心配で…勇の立てた功績の事なんて気に留めていなかった。まず褒めてやるべきだったのではないか、と今更思った。二人を道行く人達が見ている。主に女性たちが。特にルイス・スミスは恵まれた体格に、整った顔立ちをしている。昔見た映画の俳優のようだ。女性にもてただろうに、なんでうちの勇を、よりにもよって選んだのだろう? 「勇」 「父さん、母さん」 四人で食事の予約しているホテルへ向かおうとした、その時だった。ボンッと何かが、爆発したような音がした。ビルの向こうから黒い煙が見える。辺りが騒然とし始めた。勇を見る。自分が見たことのない顔をしていた。…兵士の顔立ちだと一瞬で悟った。 「父さん!母さん!先に家に戻っていてくれ。後で必ず行く」 「…分かった。気をつけろよ」 勇は頷くと傍らに居たルイス・スミスと共に駆け出していく。見送っていると、彼の声が響いた。 「チェーンジ・ブレイバーン!!」 その声と共に碧い光が一面に広がり、そして光が収束すると、そこには巨大なロボットが居た。 「……えっ!?」 ロボットは勇を掌に載せると胸を開き中に招き入れた。そうして黒煙が上がる方へと走り出していく。 「ええーっ!?」 …ああ、勇、聞いてないぞ、勇、お前の相手がまさかロボットに変身出来るなんて…聞いてなかったぞ!勇ィー!!
アルバムをめくると
一人息子の勇から「結婚したいと思っている相手が居るので、今度連れていく」と連絡が来た時、夫はものすごくはしゃいでいた。私ももちろんうれしくは思っていたが、どちらかと言えば、驚きのほうが強かったのは覚えている。なんというか…勇は結婚するとしても、恋愛結婚ではなくて、上官から紹介された方とお見合い結婚するのではないか、と思っていたからだ。だから勇が自分で、相手を選んで連れて来るとは思ってもいなかった。だからだろうか、勇が連れてきた相手が同性であった事を、それほど驚かずに受け入れられたのは。逆に夫はわかりやすく動揺していたわね。そして今日の最初の顔合わせは…うん、あんまり上手くはいかなかった。夫は事態を飲み込めないまま、相手を拒絶していたようだし、勇の方も父親があまり良い顔をしなかったのが意外だったみたい。わりと息子に甘い父親だし、反対されるとは思わなかったのだろう。 「あれ?父さんは?」 相手を送りに行っていた勇が戻って来た。勇が連れてきた相手…ルイスさんと彼の養子のルルちゃんはホテルに泊まるらしい。 「近くの温泉施設に行ったわよ。今日は…多分帰って来ないわね」 「そうか…」 「お父さん、ちょっと混乱してるみたいだから…今回はこれ以上、結婚の話はしない方が良いと思うわ。あなたも明後日には帰るんでしょ?」 「ああ」 「ねぇ、せっかくだから飲み直そうか!勇が帰ってくるからって、お父さん良いビール買ってるのよ」 立ち上がり冷蔵庫からビールを取り出す。勇と二人で飲むなんてそうそうないし。 「乾杯!」 「…乾杯」 グラスを軽く合わせて、乾杯する。勇は一口、二口飲んだだけで、それ以上杯が進まなかった。考え事をしてるみたい。眉間にしわが寄ってる。しばらくしてようやく口を開いた。 「母さんは…反対じゃないのか?」 「反対して欲しい?」 「いや…その…」 「お父さんよりも私の方が、反対すると思ってたよね?」 「…うん」 まぁ勇のやる事に口うるさかったのは、私の方だしね。 「私は賛成よ。だってあなた、ルイスさん以外と結婚する気は…ないんでしょう?」 言うと勇はちょっと驚いた顔をしたが、しっかり頷いた。 「なら…うん、賛成するしかないわよ。それに結婚しても『やっぱり無理だ』って思ったら、別れてうちに戻ってくれば良いし」 「…そんな簡単に…」 「と、私もいっくんのお父さんと結婚する時に、母親に言われました。そんなだけどもうすぐ結婚三十年よ」 「えっ、そうなのか?え、結婚三十年?おめでとう」 「ありがとう。…まぁ何時でも帰ってきて、良いんだけどね。親も実家も何時までもあるわけじゃないから、あなたはあなた自身で、ちゃんと帰る場所を作るべきなのよ」 「帰る場所を…」 「だから私は貴方たちの結婚には大賛成!」 このご時世、結婚という形に拘らずに、生活しているカップルも多い。そもそも勇とは離れて暮らしているし、相手とは同棲しているようだから、もう事実婚のようなものでしょうし。それなのに正式に結婚するというのは…多分私たちへの筋を通そうとしたから。ならば彼らの誠実さに対して、きちんと向き合わなければ。勇は何時も盆暮れに帰って来るのに、今回はわざわざ休みを取って、帰って来たのだ。そう何回も休みを取らせて、日本にこさせるわけにもいかない。 「次回で、お父さんを納得させたいわね。勇、今度はいつ来れるの?」 「二ヶ月後の連休には」 「じゃあ、今度はホテルで食事でもしながら話しましょう。こっちで予約取っておくわね。大丈夫、あの人は私が説得しとくから」 「それは…助かるけど…」 「全くお父さんは、予想外の出来事に弱いんだから。だから反対しているというよりも、事態を飲み込めていないだけ」 昔からそうなのよね。まぁ勇もそういうところがあるから、似たもの親子かもしれない。 「でも、いっくんが結婚かぁ」 お相手は確かに想定外だけど。親としては嬉しい反面…さみしくなる気持ちももちろんある。 「まだしてない…」 そういうと勇はグラスに残っているビールを一気に飲んだ。顔の赤みはアルコールのせいだけじゃないと思う。空いたグラスにビールを注ぐ。 「まぁ結婚して他人と家族になるにあたって…私からアドバイス出来る事があるとすれば…」 「……」 真面目な話をされるのかと、勇が身構えてる。 「写真をたくさん撮りなさいよ、家族の」 「えっ?写真」