焼きそばパンと踊れ
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焼きそばパンに振り回される牛島と及川のくすっと笑える愉快なお話。 表紙の焼きそばパンはそれぞれ別のお店で買いました。 撮影後美味しくご飯として頂きました。 不変のスーパーフードですよね、焼きそばパン。 【作品サンプル】冒頭部分となります。 「それは……」 不意に声を掛けられて彼は振り向いた。 相手を確認し眉を顰める、だが険しかった表情は突然不思議そうなものに変化した。何故なら相手の視線は彼の手の中のモノに向けられていたから。 青葉城西高校三年及川徹はコンビニエンスストアにいた。 バレー部主将だった彼は既に部活は引退していたが卒業してもバレーボールは続ける。だからその為及川は現在新天地に向けて準備中だった。事務的な作業もしなければならないが体力技術も維持しておかなければならない、という事で引退はしていたが部活に参加させて貰っていた。 今日は休日ではあったが午前中だけ部活に参加し、帰りがけに気分転換に大型スポーツスポーツショップに寄った。 店を出たところで喉の渇きを感じてコンビニに寄ったのだ。 冷蔵ケースからスポーツドリンクを手にとりレジに向かおうとパンの陳列棚の横を通りかかった時偶然目に入ってしまった、アレが。 何故か不意に突然急に食べたくなるアレ。 昼食は帰り際何か買って家で食べようかと思っていたから丁度良かった。 このコンビニにはイートインコーナーもあるしここで食べちゃってもいいかも。 及川はそう思ってアレに手を伸ばしスポーツドリンクと一緒にレジに行こうとした。そんな時に声を掛けられたのである。 自分史上会いたくない人物上位二名の内の一人に。 「焼きそばパンだけど」 振り返り思いっきり尖った声で答えた。 「焼きそばパン?」 疑問系の言葉を発したのは体格の良い若武者を思わせる風貌をした青年、牛島若利だった。 牛島は無表情で首を傾げている。 シュール。 脳内で及川は呟く。 デカイ男が頭上に?マークを表示させて小首を傾げているのだ。 それよりだよ、何で焼きそばパンに対して疑問系? 老若男女皆大好き焼きそばパン。 コンビニやスーパーのパンコーナーでチラッとその姿が目に入った途端、ソースの味と匂いが脳内に再現され食べたいなぁと思ってしまう。 今の及川はまさにそれで、急に焼きそばパンが食べたくなり手を伸ばしたのである。 国民食と言ってもいいかもしれない焼きそばパン。それに対してコイツは『それは……』と言ったのだ。及川には牛島の語尾に『……』がついているのが見えた。『……』の後ろには『何だ』と続けたかったと思われる、多分。 この反応から導き出されるのは牛島は焼きそばパンを知らない、もしくは食べた経験が無いという事になる。 その事実に思い至った及川は会いたくなかったという気持ちより、どういう生活をしていたら焼きそばパンを食べずに生きる人生になるのだろうという好奇心の方が勝ってしまった。 浮世離れし過ぎだろうと思いながら聞いていた。 「食べた事ないの?」 「ああ、見た事はある」 へー見た事はあるんだ。 牛島の答えに何となくほっとする。 目にしているとはいえ現代に生きていて全く焼きそばパンを食べないで生活するのは少々難しいとは思う。 男子学生なら尚更。 炭水化物IN炭水化物、てっとり早く腹を満たせるスーパーフードだ。 クラスメイトやチームメイトの誰かは手に焼きそばパンを握っていたはずだ。 「で、俺の焼きそばパンに何か用?」 我ながらどんな聞き方だと思う、けれど他に言葉が思い浮かばないのも本当だ。 「存在は知っていた。たまたま休み時間にクラスメイト二人がどちらの店の焼きそばパンが美味しいのかと、激しい議論を戦わせていた。熱く語る程の食べ物だったのかと認識を改めたところに、お前が持っていたから思わず声を掛けてしまった」 牛島は珍しく言葉数が多かった。そして気が付いた。バレーボール以外の話題を話すのが初めてだったという事に。 「美味しいよ、食べて見れば」 つい言ってしまった。牛島の顔を見れば回れ右してその場を離れようとするのが常なのだが……。 「食べる?」 牛島はきょとんとした顔をしている。 「ほら、そこにあるから手に取って」 「え……ソコ?」 及川の言葉に押されるように牛島はギギギとロボットのように商品棚に顔を向けた。 「少しは時間あるんでしょ」 「……少しは……ある」 牛島の返事はいつもと違い力が無い。 ふと見れば牛島も手にスポーツドリンクのペットボトルを持っていた。どうやら牛島も目的は及川と同じで飲み物を買うことらしい。今までなら偶然に対して舌打ちしたただろう。 「ここ、イートインスペースあるから、直ぐに焼きそばパン食べられるよ」 「ここで……?食べるのか?」 この時、どうした訳か及川の頭の中には、牛島に焼きそばパンの美味しさを分からせなければという使命感でいっぱいになっていた。 いきなり積極的に焼きそばパンを薦めてくる及川に牛島は戸惑って思考も行動も止まっているのだろう。牛島は及川に操られるように腕を商品棚に伸ばそうとしているがギシギシという音が聞こえてきそうなくらい動きがぎこちない。 思考停止状態の牛島を見兼ねて及川は商品棚から焼きそばパンを取ると牛島の手に握らせた。 「レジ、いくよ」