演芸評論家・森暁紅かく語りき 明治篇
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森曉紅。 編集者であり、新聞記者であり、ユーモア作家でもあり、戯曲作家でもあり、演芸評論家でもあり、落語会プロデューサーでもあり……という百面相もびっくりの多方面な顔を持つ人物であった。 江戸以来の戯作的態度と、近代的な文学思想や価値観が混ざりあった独特な作風で名を挙げ、数多くの作品を執筆した。様々な作品を残した彼であるが、その中でも貴重なのが明治から昭和にかけて見学し続けた寄席や劇場、浅草の記録である。 明治時代の名人とうたわれた橘家圓喬、三遊亭圓右、柳家小さん、立花家橘之助、一龍齋貞山、桃中軒雲右衛門などにも容赦ない批評を浴びせているほか、今では語られることの少ない芸人や噺などにも注目している。 また、「ゲテモノ芸」と冷やかしつつも、当時の通人が蛇蝎の如くに嫌い、大体は評論や執筆の対象にしなかった「浪花節」や「色物」「珍芸」「見世物」などをきちんと見て取り上げているのも特徴であろう。 雲右衛門や奈良丸を罵倒し、関西から来た連中を冷やかし、「ああゲテモノ」といいながらも浪花節芝居や萬歳芝居、コミック踊りなどを覗き、『酔月情話』で知られる殺人犯の花井お梅を追い、浅草にいたアシカの海ちゃんと仲良くなったり、震災で壊滅した浅草六区・浅草公園の栄華を書き留めている資料はそうあるものではない。 そんな森曉紅の演芸評論のうち、事実上のデビュー作から第一次黄金時代として精力的に執筆をつづけた明治期の作品・七十数作を収録。 寄席の東西交流が活発になり、関西の芸人が東京にやってきたり、桃中軒雲右衛門や吉田奈良丸が上京をして東京に「浪花節ブーム」を生み出したり、寄席に花井お梅やデブ女、コミック喜劇などの珍芸の世界をそのまま描いた明治演芸評論の傑作である。
目次
白囃誌(芝居の掛合調子に明治41年の演芸界を振り返る雑誌掲載の処女作) 吉例落語家對面(歌舞伎の曽我対面をパロディに、圓喬や遊三などの落語界の幹部を曾我物語の人物に見立てた戯作) 太神樂月旦(当時流行していた太神楽の人物録。丸一仙太郎・小仙、海老一海老蔵・鐵五郎・しげ治三兄弟、春本助次郎などを収録) 張扇月旦(当時流行の講談師の第一人者の芸評を列挙。神田松鯉、錦城斎典山、神田伯山、桃川如燕、一龍齋貞山などが並ぶ) これは妙集(浪花節の珍文句の紹介) 高座の癖(松鯉、典山、伯圓などの講釈師と圓喬、圓右、小さん、馬楽などの落語家のクセや口癖を並べる) 吹流誌(歌舞伎座の羽左衛門一座と浅草の澤村源之助一座、引退した六代目桂文治の噂集) 木耳取(女義太夫の竹本綾之助・新吉の訴訟問題、桃中軒雲右衛門の弟・星右衛門の珍文句、浅草公園の栄華事情、盲人となった柳家小せんの手紙、寄席の珍芸人たちの消息を描く) 螳螂集(浅草公園オペラ館の無声映画と芝居の興行、講釈場の惨状、七代目市川團藏の晩年の演技や態度の批判、芸人の珍文句の紹介) 迎へ火物語(すでに物故していた二代目伯圓、二代目志ん生などの逸話集) 釋談義(講釈界の分裂やトラブルの批判と提言) 五人五席(錦城斎典山、橘家圓喬、西尾鱗慶、蝶花楼馬楽、伊藤痴遊の十八番の紹介) 釋界もつかひ(講談界への提言と神田伯山一門に対する批判と提言) 演藝慨嘆録(関西浪曲の京山幸玉の浪曲集の批判とからかい) 下手糞の長所(眞個の御歳暮代り)(二代目柳亭燕枝と三代目古今亭志ん生の紹介と揶揄) 初がすみ(太神楽海老一一座の盛況ぶりと一つ鞠の鮮やかさ、真打となった三代目三遊亭圓馬の批評) 十二月十四日(講談義士會)(十二月に行われた講談の義士会の演者・演目批評) 講談師諸君(講談界の幹部、典山・伯山・貞山・文車などに対する批判と提言) 横濱の寄席(横浜で昔々亭桃太郎と初代橘ノ圓一座を見る) 鷹爪筆(浅草の市川団升の人気っぷり、女義太夫・竹本瓢一行の芸評、襲名したばかりの二代目大島伯鶴の芸評、西川たつ・立花家歌子という少女芸人の人気ぶりと火花の散らしあいを紹介) 滑稽ひかへ帳(落語家、講談師の滑稽な思い出・逸話集) 菖蒲刀(関西からやって来た桂家残月・小歌、三遊亭圓子の批判と講談界の新真打の激励) 演藝過去帳(三遊亭圓朝、二代目松林伯圓、初代三遊亭圓遊などの名人上手全盛の逸話集) 演藝べらぼう録(博多蝶三郎一座の滑稽ニワカと売り出しの三遊亭三福こと三代目三遊亭圓遊の芸評) 講談師昨今録(講談界の対立と講談席席亭の物わかりの悪さを批判) 太鼓たゝ記(幇間の人物録と逸話集) 落語角力取れ(かつて行われていた大喜利の落語角力の思い出と大喜利に落語角力を演じることを推薦する提言) 藝壇掃込々々(曾我廼家五郎・十郎の分裂、浪曲の隆盛と雲右衛門・奈良丸の暗躍、本荘幽蘭の講談界入りの噂) 圓喬と圓右△附けて言ふ小さんと圓馬▽(橘家圓喬、三遊亭圓右、三代目柳家小さん、二代目三遊亭圓馬の比較と芸評) 義太夫金色夜叉(新作義太夫と称するパチモノの義太夫を見て呆れる) 釋界今更録(講談界の現状と西尾鱗慶の奮闘を描く) 初お目見得綾瀬川(相撲取りの綾瀬川が相撲を辞めて寄席芸人になったのを聞いて、見に行く話) 演藝昨今記(寄席に出演する仙台芸者の一行、関西からやって来た二代目三木助の芸評、女義太夫界の噂、講談奨励会の発足などを描く) 馬楽だより(精神を病み、病院送りとなった三代目蝶花楼馬楽が精神錯乱の中で送って来た手紙や俳句を記す) どろぼう伯圓(名人とうたわれた二代目松林伯圓の一生と逸話集) 釋界の新人物蘆州と伯山(小金井蘆州を襲名した西尾鱗慶と絶大な人気を誇っていた三代目神田伯山の提言集) お座敷の現代名士(三代目小さん、蘆州の目から見た伊藤博文や渋沢栄一、後藤新平などのお座敷振り) 七人七藝(豊年斎梅坊主、三遊亭圓右、二代目市川左團次、富本半平、神田伯山、一心亭辰雄、豊竹呂昇の芸評) 講談界半期決算(分裂したり、奮闘する講談界の現状纏め) 續七人七藝(曾我廼家五郎、岡安南甫、河合武雄、はげ亀、伊藤痴遊、富士松加賀太夫、大和家宝樂の紹介) 昨今の落語家(ノセモノが多くなった寄席に対する批判と芸人たちの珍芸ぶりを描く) 聲色研究(廓で活動していた声色芸人たちと、寄席の世界で活動する落語家の声色ぶりを紹介) 大魔術天勝嬢(奇術の女王・松旭斎天勝の横浜喜楽座興行を見に行く話) 講談颶風録(講談組合内の内紛と蘆州除名の顛末を記す) 噺家十八番十番評(初代三遊亭圓歌、朝寝坊むらく、雷門助六、古今亭志ん馬、三遊亭遊三、二代目三遊亭小圓遊、三代目柳家小さん、柳家枝太郎、二代目金馬の余芸や珍芸の紹介) 遂に討死の記(寄席に行ってあまりにもひどい内容に辟易する話) みそ評大通揃(三遊亭圓右の独演会を見に行く) 演藝鉢叩記(三十六貫のデブ女が寄席に出た時のことを描く) 噺の會と講釋の會(落語研究会と講談奨励会を見に行く) 哥澤振と金山踊(当時、勃興した歌澤振りの披露目を見に行く) 耳納め(朝寝坊むらく独演会と小さん・圓右二人会を見に行く) 演藝何かと御厄介(歌舞伎界の分裂、落語界の分裂、講談の衰退への評論) 花井お梅を觀る(酔月情話で知られた花井お梅の出獄後の姿と寄席で活動していたころの芸風を描く) 場末の寄席(下町の小さな寄席で怪談の三代目柳亭左龍を見る) 八十九歳の噺家(当時、落語界最長老になっていた五代目林家正蔵の怪談と落語を見に行く) 浪花節と講談と太神樂と(雲右衛門の人気と芸、神田伯山の芸、寿家岩てこの茶番の様子を描く) 空板先生(奇人で知られた悟道軒圓玉の一代記) 空板先生(つゞき)(圓玉五代の記録集) 講談落語評判名家選(上)(当時活躍していた講談師たちの長短を描く) 講談落語評判名家選(下)(当時活躍していた落語家達の長短を描く) 圓遊評判記(襲名したばかりの二代目三遊亭圓遊を見に行く) 浪花節の事也(木村重友一座の浪花節を聞きに行く) 落語研究會評(落語研究会出演者の演目紹介と批評) 演藝いかものぐひ(浅草で評判の海獣の海ちゃんと仲良くなる話、萬歳芝居・日比愛三郎一行を見る話) 續演藝いか物喰ひ(巴家寅子一行の茶番と曲芸を見る話) 奥山の鹿芝居(当時行われた落語家達の歌舞伎芝居『鹿芝居』の劇評) 噺家と講釋師の芝居(当時行われた落語家達の歌舞伎芝居『鹿芝居』の劇評) 小人形家壽治(人形あやつりと声色で人気のあった小人形家壽治の一代記) 御前講演の始(明治天皇の崩御と松林伯圓・桃川如燕の御前講演の逸話集) 演藝火喰鳥(寄席の珍芸と稲の家一座と名乗る曾我廼家のパチモンを見に行く) いか物の凄み(女コミック踊りなる珍芸を見に行く話) 森暁紅略歴年表 参考文献