『雪月花の頃』田夏再録集6 2019年12月刊 新書版/56頁/60g 2018年1月~2019年2月までに書いた短編再録集です。 『初雪』 『桜色』 『流るる水の瀬』 『五月雨』 『ふわり』 『Holy night』 『はつ春』 『はらはらと』 季節感のあるほのぼのなお話ばかり。 田夏…といいながら、妖したちや西村や北本…多岐をも巻き込んだ、犬の会的お話となっています。 老若男女…誰にでも読める類いの田夏本
流るる水の瀬
「連休どーする?」 始まりの言葉は西村のいつものセリフ。 長期の休み前も普段の土日も、休みの前には必ず、こう繰り出してくる。 「次の休みどーする?」 今回の連休は前半と後半が完全に分かれているので、どっちに重きを置くかで、西村は悩んでいた。 「あれ、お前…塾があるんじゃないのか?」 「あるよ…あるけどさ、どっちか選んで休めるのっ!」 どんだけ遊びたいんだ…と突っ込もうとして、止める。北本とて遊びたい気持ちは変わらない。 「そう言えばさ、まだ潮干狩りができるよな…」 「潮干狩り…」 海までは行ったことがあるが、潮干狩りなどしたことがない夏目は、それを聞いて心惹かれた。 「あああああ…あそこなんだっけ、小学校の頃行ったことあるよなっ」 「そうそう、俺も全然行ってないんだけどさ、この間ニュースで解禁になったって聞いたからさ」 子供の頃の思い出…おそらくみんなにはあっても、夏目にはないに等しいもの。 辛かったことが多すぎて、楽しいことが思い出せない。 「夏目はどう…潮干狩り…?」 「…やってみたい…」 「やったことないのか…夏目?」 「…ない」 「田沼はどうする?」 「夏目が行きたいなら…」 「いいの?」 「もちろん!だって、行ってみたいんだろう」 「うん!」 「決まりだな」