『セーラー服と絵の具箱』
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『セーラー服と絵の具箱』 副題:『思春期を乗り越えた少女の物語』 渡辺淳一氏の小説『阿寒に果つ』は、天才画家少女・純子が黄泉の国へ旅立つ場面から始まります。 この物語では、その純子を雪原に消えさせることなく、平成・令和の時代に生きる少女として、あらたに描いています。 外からは分からない症状のために、純子は、心ない教師や一部の生徒によっていじめられます。 そんな純子は、大震災の津波による被災地をスケッチしたいと思い立ち、現地に入る方途として、学生ボランティアに参加する決意をします。 純子を支え続けた『フレンズ募金』の仲間たち、純子の症状を正しく理解した家族、純子が被災地で出会った運命の人、そんな人々と純子が織りなす物語です。 本書をお読みいただいたみなさんが、純子のような症状への理解を深めていただけたなら、作者としてこれほど嬉しいことはありません。 なお、本作は「note」で試し読みができます。 https://note.com/dragon_moonpath/n/n76874e94dab1 このBOOTHでも、冒頭からの一部を転記しておきます。 ---------------------------------------------------------- ~~目次~~ 『序章』 『第1章 初恋』 『第2章 発病』 『第3章 高校で暴力を受ける』 『第4章 祐一との出会い』 『第5章 純子のベクトル』 『第6章 大地震発生』 『第7章 実留との出会い』 『第8章 被災地』 『第9章 純子とフレンズ』 『終章』 ~~~~ 『序章』 白銀の静寂の中、鮮やかな緋色は瀕死の少女のベレー帽だった。 由奈高原で開かれていた清南高校のスキー教室。 その三日目の早朝、事件は起こった。 純子がいなくなったことが分かり、教員たちは引率責任者の塚越教頭を中心にして、本校と連絡をとりながら道警に捜索願を出すべきかどうかと逡巡していた。その対応が遅れていたわけは「入学前から問題のあった生徒の不祥事によって、この進学校のイメージが損なわれてなるものか」と頑なに主張する古参の教員がいたためであった。 純子を発見したのはバックカントリースキーに興じていた若者たちだった。彼らはすぐに救助を呼ぼうとしたが、携帯電話には「圏外」としか表示されず、二人の女性がエマージェンシーシートで純子を包んで体温低下を防いでいたときだ。別のメンバーが「この子を守っていてくれよ」と言い残し、勢いよく斜面に飛び出していった。彼は視界が開けた丘に着くと、祈るような気持ちで、電源のON・OFFを繰り返したことで、一時的にではあったが通信が回復した。その後、緊急出動した山岳レスキュー隊によって純子は無事に保護されたのであった。『北斗大学附属病院』に向かうドクターヘリの中では胃洗浄まで終えることができ、純子は凍傷すら負うこともなく、特別病棟のベッドの上で回復を待つ状態までになった。 その朝、純子が使った劇薬は、中学生のときの純子が理科室からくすねていたものだった。そのため、教師たちは『報道を過熱させるような情報は隠し通すべきだ』と、より強く申し合わせた。 もちろん、純子の自殺未遂は生徒達にも内密にされて彼女の家庭とも相談した結果、当面の間、自宅待機をさせることになった。 2年3組の担任の石井は、ショートホームルームのときに「加藤さんは家庭の事情でしばらくお休みすることになりました」と、いつもの連絡事項のように、さりげなく伝えただけであったので、クラスメートだけでなく、純子と同じ美術部員でさえ、大して疑問を抱くことはなかった。 ちなみにこの時期は、現3年生が『大学入試センター試験』を終えて、国公立大学の二次試験や私大入試に挑んでいた受験シーズンであり、2年生たちにとっては『来年は自分たちの受験だ』という重圧がかかり始めていた頃でもあった。 『第1章 初恋』 純子は幼少時代からのお受験コースで英明中学に入学後、2年生の時に新人教師の中田に初めての恋をした。その中田は地元の高校を卒業後、教員養成系ではハイレベルだと言われる文理大学の出身だったので、それだけでも生徒の憧れの的だったのである。もっとも、この大学より入学偏差値の高い大学の学生たちは、田舎の教師稼業などには見向きもしない、と言った方が、この大学へのより適切な評価ではあるが。 色づいた葉も落ち切った晩秋の放課後 中庭の沈黙した池の傍らに少女はいた 張りつめた時間だけが静かに流れていく 渡り廊下にあらわれた意中の人 少女は想いを込めた手紙を差し出した 彼は無表情のままそれを受け取り 薄暗い棟に吸い込まれていった このことだけで済んでいれば、よくある少女の告白にすぎなかったのだが、その後は二人にとって予想外の展開となっていく。 中田は、手紙を受け取ったこと自体によって『処分の対象になるのではないか』、という不安を抱くばかりであって、思春期の少女の気持ちを受け入れる心のゆとりなどはなかった。悩んだ末に、その手紙を学年主任に渡して相談したのだった。 次の週の放課後、純子は担任の志村から誰もいない教室に呼び出され、丁寧に開封された後の自分の封筒を目の前におかれた。 そして 志村は静かに話し始めた。「今日は呼び出してすまなかったね。 君たちが若い男性教師に憧れる気持ちはとてもよく分かるのですが、私たちはどの生徒さんにも公平に接しなくてはいけないのです。今年の中田先生は担任こそ持っていませんが、理科教師として研修を積む時期ですし、慣れないサッカー部のご指導や遠征の準備などで大変に忙しいのです。もちろん加藤さんのお気持ちは貴いものだと思いますよ。それから・・・」と、志村は躊躇しつつも話を続けることにした。 「先月、『都内の教員が女子高校生にわいせつな行為をした』、というニュースはご存知でしょうか。そんなわけで学校長からは『生徒との関係を疑われるような状況を作ってはいけない』と、厳命が下っているのです。加藤さんのお手紙はとても良い文章だと思いますが、今回のことは忘れてもらえないでしょうか」、というごく当たり前の『生徒指導』だった。 しかし、純子にとってみれば、自分の手紙が何人の男に読まれたかと考えると、生まれて初めて顔から火が出るような恥ずかしさが沸き上がってきた。そして中田への想いは深い恨みに反転して、現実のものになっていく。 理科室の薬品保管庫のカギは、実験の授業後には必ず事務室のキーボックスに戻すべきものだが、一学期のある日、純子はそのカギを『理科準備室の机に入れておくように』と、中田から手渡されたことがあった。中田は空き時間を使って授業の範囲を超えた実験にも没頭していたので、そのカギは一日中手元にあった方が都合よかったのである。また、中学校の理科では必要としない劇物の瓶が薬品庫の奥に置かれていたことにも純子は気づいていた。 さて、中田のような新人教師というものは生徒を疑わないものであって、過酷な復讐を受ける羽目になるなどとは夢にも思わなかった。 (続く)














