



自動生成された未来を、 あなたは承認できますか? 国家規模の意思決定を描く、 SFショートストーリー 『神話の船』 ----- A5版・20ページ
『神話の船』(試し読み)
北極の空に純白の飛行船があらわれた。 オーロラに包まれて浮かんでいた。 各国の観測基地や軍事基地から、急遽観測部隊が派遣された。 国籍も所属も不明。 美しい機体だった。 ゴンドラの部分はあるが窓はなく、中の様子を伺うことはできなかった。 軍関係者は競合国の新兵器だと考え警戒したが、観測できる範囲では武装はない。 飛行船は膨大な電波を発信している。 雪は機体に触れる前に蒸発していた。 全長三百メートルの巨体にも関わらず、低空で静止し、北極の強風でも微動だにしていない。 各国政府は情報統制をしたかったが、民間の衛星写真が出回るのは目に見えていた。 国連安全保障理事会は拒否権が使われるだけだった。 発見されてから三週間が経ち、発信されていた電波が激減したと同時に、飛行船はゆっくりと動き始めた。 雲が動いているようだった。 進路はベーリング海峡らしい。 飛行船はロシア兵たちの真上を通り過ぎた。 飛行船は、ロシア領のナウカン沿岸からラトマノフ島にかけての海峡部に差しかかると、ほんのわずかにゴンドラを着水させ、豪華客船のような速度で、ゆっくりと通り抜けた。 領空侵犯になる地点で、海に触れた。 飛行船はベーリング海を越えて、極東に向かっているようだ。 各国の潜水艦は、攻撃できる距離で飛行船に追随している。 「飛行船の話ばかりだな……」 「そりゃあ気になるだろう。宇宙人かもしれないぜ」 二人は役員専用ハイヤーで、ネットニュースを見ながら親会社に向かっていた。 「今日の議題って、飛行船絡みなのかねえ?」 池上周平はカバンからアンパンを二つ取り出して、食べ始めた。 関係は不明だが、飛行船があらわれてから世界中で電力網のトラブルが相次いでいると、ニュースは繰り返していた。 「あと数日で、日本から見えるな……」 塚地武尊は呟いた。 視界を奪われるほどの雪の中、航空自衛隊の輸送機が編隊を崩さず飛んでいる。



