ぐだ蘭ぐだ♂小説
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ぐだ蘭ぐだ 前編「イイ顔見せて」 後編「いじめてあげない」 2冊セット+ポストカード2種 小説 / A5 / ¥600 / トレーシングペーパー表紙 合計約40000文字 中国異聞帯を経てカルデアに召喚された蘭陵王。だが早々にマスターに対して不安を覚える出来事が……。自身にだけなぜか冷たくあたる彼にそれでも惹かれてしまう。 ※主人公の名前は藤丸立香です。 ※2部3章以降をイメージしています。 ※史実は正確ではありません。 ※捏造です。ご注意ください。 ※別名義で2020年に制作した本です。 === 最終再臨を果たした蘭陵王は込み上げてくる感謝を伝えたい人間がその場にいないことに悲しみを隠せなかった。こういうときこそ仮面が必要だろうに、前回の再臨時にマスターに取り上げられて以来、エーテルで生成できる仮面であってもそれは命に背くようで実行できずにいる。再臨を見守っていたマシュと幼い姿のダ・ヴィンチが彼の目に涙が浮かぶのに気付いて心配そうに近寄った。聡明なふたりは生前の蘭陵王がどのような最期を迎えたのか知っている。 「……っ、私は、マスターになにか、してしまいましたか……っ?」 身に覚えのない過ちによる死の記憶。たとえ毒を贈られても易々と死ねる身体ではなくなったが。 「立香くんにも困ったものだねぇ」 この場にいない彼だって蘭陵王のことは分かっているはずだ。だというのに英霊にとって数限られた再臨の場に顔を出さないなんて、疑われても仕方ないだろう。せっかく蘭陵王からの絆も深まっていたというのに。ダ・ヴィンチはふぅー、と長い呆れの溜め息を零しながら小さな手で震える背をそっと撫でた。 「先輩は外せない用事があるとおっしゃっていましたが、もう終わって蘭陵王さんをお待ちかもしれません! 行ってみてはどうでしょう?」 カルデアにいるすべての英霊たちの再臨に、マシュはマスターとともに立ち会ってきた。蘭陵王の最終再臨にだけ顔を出さないなど、よほどのイレギュラーが発生したに違いない。立香に絶大な信頼をおくマシュだからこその言葉であるが、ダ・ヴィンチ、そして蘭陵王はそれが慰めにならないことに気付いていた。 ぐっと拳を握り込み、俯きかけていた顔をなんとか上げて無理やり笑みを作る。女性に涙を見せて弱音を吐くなど、武人にあるまじき醜態だ。 「マシュ殿、ダ・ヴィンチ殿、ありがとうございます。みっともないところをお見せしてしまい申し訳ございません。できればこのことはお忘れいただけますと……」 指先をもじもじ擦り合わせながらふたりを窺えば、顔を見合わせたマシュとダ・ヴィンチが包み込むような優しさを眼差しに乗せた。その笑みに少し勇気をもらえた気がして、蘭陵王は決心する。 「マシュ殿のおっしゃったように、私はマスターに会いに行こうと思います。まずはここまでのお取立てに感謝をお伝えしなければ……」 本来ならば再臨のその場で伝えるべきであった口上も胸の内で黙したままだ。マスターのいないところで献身を紡いでも虚しさが募るだけなのは召喚されてから存分に思い知った。だがこの身すべてを捧げる覚悟はできている。どのように思われていようと自身はマスターの判断で最終再臨を迎えたのだ。今度こそ、マスターから何か、……たった一言でいい、お言葉を賜れたら。 火急の用事とあれば仕方ない。時期が悪かったのだ。自身に言い聞かせる。あぁ、だけど。最終再臨という英霊にとっての一大事が最初で最後の機会だと思うほどに、蘭陵王はマスター・藤丸立香とうまく言葉を交わせずここまできた。 ノウム・カルデアにて初めて召喚されるサーヴァントも増える中、比較的遅い召喚だった蘭陵王はそれにも関わらず早々に再臨の機会を得て、また出陣にも絶え間なく同行を命じられた。前線に出る機会はとても少なかったけれども。 召喚の折、無礼と知りながら仮面をつけたままの自身に、マスターの瞳が揺れたことを覚えている。この目と近いようで異なる青は底の見えない深さを携えていた。もとより戦しか知らぬ身だ、どんなマスターに仕えることになろうと忠節を尽くすのみと心に決めていたものの、その瞳に、……そう、落胆の色を感じてしまった。自身の何がそうさせたのか、この仮面のせいなのか、外すことで何かが変わるのか……。確かめようと口を開くが、ほぼ同時にマスターは踵を返し召喚室を出てしまう。 「先輩? どこへ行くのですか?」 「ッ、追いかけます」 「あっ、蘭陵王さん!?」 のちにマシュ・キリエライトという名を知ることになる少女の制止を振り切って、後を追った。道も分からぬ中を僅かに感じる彼の魔力の名残を辿っていく。か細くてすぐにも消えてしまいそうな魔力の足跡は、道を閉ざした一角に立ち竦む彼へと導いた。 「あの、……マスター、」 向けられた背から感じる拒絶に拳を握り、意を決してマスターを呼ぶ。 「なんで来たの」 ぐさりと。氷の刃を心臓に一突き貫くような声音の冷酷さに、座への帰還を脳裏に浮かばせる。 「っ、申し訳、ありません……、あの、すみません……っ、無駄な、召喚をさせてしまい、本当にっ、……っぐす」 すでに仮面で覆われた顔を両手がさらに覆う。仮面の内側を雫が流れ落ちた。一歩下がり、二歩目を退き、三歩目はもうマスターのほうを向いていられないと座へと繋がる道筋を探しかけたそのとき、顔を隠していた右手首を強く引っ張られた。前のめりになった身体は反動で真後ろのマスターに向かって体勢を崩し、だが見た目よりも鍛えているのか彼は身じろぐことなく、腰に回された腕にがっしりと抱き留められた。 「無駄ってなんだよ。俺はなんで追いかけてきたのかって聞いたの。……蘭陵王が来たことを無駄だなんて言ってない」 背中に触れる温度が、纏う筋肉の感触とともに伝わってくる。ぞくぞくと腹の奥が震えたのは初めての感覚だった。 「それ、は、失礼いたし、ました……。マスターが、私を避けるようだったので、気になって……」 「あぁ……、うん」 「っ……!」 マスターの吐息が耳の裏を掠めていく。びくっ。尾骶骨から電気が背を駆け登った。膝が笑って力が入らない。私はどうかしてしまったのだろうか。マスターが魔力を使った? そんな形跡はない。 「ま、マスター……もう、手を、お離しくださいっ……」 鼓動が痛いほど強く叩く。戦場でどれだけ駆けてもこんなに胸が痛くなったことはなかったのに。 パタパタパタと通路を走る足音が近づく。軽やかな足取りはこちらへ向かってきているようだ。それに気付いたマスターの手が離れ、ふらつく脚を叱咤しながらなんとか壁にもたれて膝をつくことを回避する。 「あ! 先輩、蘭陵王さん、こちらにいらっしゃったのですか」 殺伐とした砂漠に一瞬で花が咲いたような華やかさを携えて薄桃色の髪がふわりと揺れた。 「編成の話をしてたんだ、明日から蘭陵王は控えで入ってもらうから」 「そうですか! よかったですね、蘭陵王さん。ご活躍を期待しています!」 微笑むマシュに曖昧に頷けば、特に怪しまれることもなく。 「よろしく、蘭陵王」 そう言いながら初めて交差した視線が、次に彼女へと向けられた青色の穏やかさとあまりに違いが過ぎて、ひとり置いて行かれた廊下の隅で今度こそ蹲った。 召喚の場を途中で退席したマスターから理由を聞くことが叶わないまま、蘭陵王は宣言通り編成に組み込まれることになった。 理由が分からないといえば、後ろからの抱擁も、である。引き留めるだけならああも接近する必要なんてなかっただろう。そもそも召喚室を出て行ったのはマスターのほうなのにどうしてあんな真似を。 控えとしてレイシフトした季節ごとに発生する特異点で、他のサーヴァントたちと談笑するマスターを遠目に見ながら答えの出ない疑問が脳に浮かんでまた沈む。答えを出してくれない、が正しいのかもしれない。戦闘への同行が増えれば増えるほど、魔術素養に欠けるというマスターにしてはスキルの使いどころや、宝具の繰り出すタイミングの適切な指示に驚き、そして感心と信頼が高まっていった。 いつも蘭陵王はマスターの背中越しに仲間たちの戦いの様子を見つめていた。カルデアにいる、優れた能力を持ちマスターの信頼も厚い立派な英霊たち。彼らこそがマスターのサーヴァントだ。自分もそのひとりのはずではないかと思うのはすでに自嘲に満ちている。 そんな数々の名のある英霊たちを率いる年若いマスターの、いくつもの危険を乗り越えてきたであろう決して大きくはない背中が、蘭陵王にはとても遠くて、手を伸ばしても声を張り上げても届かない。いつか他の英霊たちと同じようにマスターを守るひとりとして名を呼ばれる日がくるのだろうかと自問し、答えの遠さに顔を伏せた。 「蘭陵王、次に敵に隙ができたら宝具いくよ」 「っ、かしこまりました……! わが封印、今こそあなたのために!」 疲弊する前線のサーヴァントたちから一切目を逸らさず、だがはっきりとマスターは蘭陵王の名を呼んだ。 微小特異点の発生に従いレイシフトした先で遭遇した敵一軍は、高い攻撃力こそ持たないものの、相性が悪くこちらからの攻撃も通りにくい。さらに辺りを覆う魔力結界に保護されているらしく攻撃を回避されてしまうこともあった。 芳しくない戦況。長期戦を覚悟しても大技を決められては耐えきれないかもしれない。 蘭陵王はつい先日第二再臨を迎えた。レイシフトに同行するには未熟すぎると言えよう。これまでも今も、戦闘中におけるマスターの護衛を気持ちばかり任されているだけで、実際のところは敵と対峙しているサーヴァントたちが戦いながらマスターの無事を常に意識している状態だった。せめて目の前の敵に集中してもらえるくらいには早く力を得たいと思うものの、それもすべてマスターの采配次第。強くなりたいというサーヴァントであれば当然の願いも口にできず。多くのサーヴァントたちとマスターが交わす何気ない会話ですら蘭陵王はできたことがなかった。自分はいない者として思われているのではないかと憂いてしまうほどに。第二再臨の場も、素材を預けるために顔を出してすぐに去って行ったことは記憶に新しい。蘭陵王からの一方的な思いはひたすら膨れるばかりだというのに。 だから進言しようと聞き入れてもらえないだろうと思っていたのだ。この戦況に一手を投じられるとしたら、この未熟者の宝具しかないだろうと考えたことを。マスターが私を使ってくださる! 嬉しい、うれしい。 「今だっ、蘭陵王!」 この戦闘中に二度も目にした敵の大技、その直前の溜めの動き。その一瞬の隙を狙って、与えられた礼装と自身のスキルを駆使し魔力を最大まで高める。馬上から声高らかに味方を鼓舞する。 「道を開けよ、出陣である――!」 仮面に手を翳し、払う。それは目を隠しているわけでもないのに、外せば視界が広がるように思うのだ。此度の現界で初めて晒した貌をマスターはどう見るだろう。気になって振り返って、胸が熱くなった。私の姿があなたをそのように穏やかな表情にさせたのなら、今を優る幸せはないかもしれない。 蘭陵王の宝具は敵を怯ませ、味方の攻撃力を高める。機会を失った敵など恐れるに足りず。ここぞとばかりにマスターがアタッカーへ強化を付与した。これで終わらせてやると獅子奮迅の勢いで武器を構え、一掃する! 地鳴りのような咆哮に敗れていく悲鳴が混じった。ようやく終わったのだと安堵の溜息が零れる。 「蘭陵王」 ぽん、と肩に置かれた手には令呪の刻印痕。振り返ろうとして、うっかり仮面をし忘れていたことに気付く。 「すみません、私、仮面を……!」 「いいから」 「ぁっ……、」 マスターはこちらが想像しているよりも逞しい。強引に振り向かせて思わず手で顔を覆い隠すがそれも許されず、両腕を押さえつけられて、初めてまっすぐにマスターと目を合わせた。マスターの青の瞳に、素顔を晒した自身が映り込む。戦いの最中に窺い見た感情はすでになく、どことなく否定的な冷静な青。いつもなら隠れているはずの蘭陵王の目元を固くなった皮の親指がなぞった。ぎゅうっと瞑った目、瞼の上も辿っていく指に睫毛が当たる感触がした。 「目、開けて。顔見せて」 逃げることも逸らすことさえも。マスターは何も許してくれない。掬うように触れられた頬が熱くなる。逆らえずうっすらと開けた目に、満足したのか目を細めるマスターが見えた。 (続きは本で)


