汗かき製粉所
物販商品(pixivFACTORYから発送)¥ 3,200


マウスパッド - 長方形この商品はpixivFACTORYで作られた商品です。サンプル画像は完成イメージのため、実物と異なる場合があります。 ジム小麦粉物語 ――汗は小麦粉になる―― そのジムには、普通のランニングマシンがなかった。 正確には、あった。 ただし、走れば走るほど、ベルトの先に置かれた小さな製粉機がカラカラと音を立てる。 「……何ですか、これ?」 入会初日の客が尋ねると、受付の女性は笑顔で答えた。 「製粉機です」 「見れば分かります」 「こちらのジムでは、お客様の運動エネルギーを利用して小麦を挽いております」 「…………」 「健康になって、小麦粉もできます」 客は説明を聞きながら、ゆっくりランニングマシンに乗った。 スタート。 ベルトが動く。 製粉機が回る。 カラカラカラカラ。 「……本当に挽いてる」 「はい」 「私が?」 「はい」 三十分後。 受付の女性が透明な袋を差し出した。 「本日の成果です」 「え?」 袋の中には、真っ白な小麦粉が入っていた。 「三十二グラムです」 「……私の汗?」 「汗そのものではありません」 「ですよね」 その日の帰り、客はさらに驚いた。 「こちら、お持ち帰りください」 渡されたのは、一斤の食パンだった。 「え?」 「本日製粉された小麦を使ったパンです」 「私が走って?」 「はい」 客はパンを抱えた。 なんだか妙に誇らしい。 その夜、食パンをトーストしながら思った。 普通のジムなら、運動した記録は数字になる。 消費カロリー。 走行距離。 心拍数。 しかし、このジムでは違った。 運動すると、パンになる。 翌週、客は友人を連れてきた。 その友人は筋トレマニアだった。 「私は自転車やります」 ペダルを漕ぐ。 すると地下から、 ウィィィィン…… という音がした。 「何?」 「発電機です」 「私が?」 「はい」 「……このジム、何でも人間にやらせるな」 さらに隣では、別の客がローイングマシンを漕いでいる。 「そちらは?」 「油を搾っています」 「何の?」 「菜種です」 「もう工場じゃん」 ジムの壁には、大きな文字でこう書かれていた。 汗は小麦粉になる。 その言葉を見上げた友人が、ぽつりと言った。 「……なんか、いい言葉だな」 「そう?」 「うん。普通なら、汗をかいて終わりだろ」 彼は出来上がったパンを一口食べた。 「でもここでは、汗をかいたら何かが残る」 客は笑った。 「じゃあ、明日も走る?」 「うん」 二人はランニングマシンの前に並んだ。 製粉機が、静かに待っている。 カラカラカラカラ。 今日も誰かの汗が、 小麦粉になっていく。 ジム小麦粉物語 ――汗は小麦粉になる―― 「世界で一番、未来的なスポーツジムを作りたい」 そう言っていた男は、最新型のランニングマシンのカタログを眺めていた。 自動傾斜。 心拍数管理。 消費カロリー計測。 AIによる運動メニュー。 「うーん……」 設備を増やせば増やすほど、ジムは便利になった。 しかし、何かが足りない。 運動した。 汗をかいた。 心拍数も上がった。 カロリーも消費した。 そして帰る。 それだけだった。 ある休日、彼は郊外の古い製粉所を訪れた。 そこには、巨大な水車があった。 川の流れを受けて、水車が回る。 水車が回る。 その力が伝わって、石臼が回る。 石臼が回る。 小麦が挽かれる。 「……」 彼はしばらく動かなかった。 水車のそばには、古びた説明板があった。 昔の人々は、水の力や風の力を利用して、小麦を粉にしていた。 自然の力を無駄にしない。 動いた力を、別の仕事へ渡す。 彼はふと、自分のランニングマシンを思い出した。 「……人間も、動いてるじゃないか」 スポーツジムでは、人間が走る。 ペダルを漕ぐ。 腕を動かす。 汗を流す。 だったら。 「その力を、何かに使えないか?」 帰宅した彼は、ノートを開いた。 一行目に書いた。 運動エネルギーを、食べ物に変える。 その下に、さらに書いた。 ランニング → 製粉 自転車 → 発電 ローイング → 搾油 そして最後に、 運動した人に、できあがった食料を返す。 彼は笑った。 「これだ」 こうして、世界で初めての「生産するスポーツジム」の計画が始まった。 数か月後。 街に新しいジムがオープンした。 入口には、奇妙な看板が掲げられている。 FITNESS MILL 運動する。作る。食べる。 最初の客がランニングマシンに乗った。 走る。 ベルトが回る。 その力が伝わる。 奥の製粉機が回る。 カラカラカラカラ。 客は振り返った。 「……何か作ってます?」 トレーナーが答えた。 「小麦粉です」 「私が走って?」 「はい」 「何グラムですか?」 「今のところ、十八グラムです」 客は笑った。 「じゃあ、もう少し走ります」 一時間後。 受付で、スタッフが小さな袋を渡した。 「本日の成果です」 袋の中には、小麦粉。 そしてもう一つ。 紙袋に入った焼きたての食パン。 「これは?」 「こちらは本日の運動への現物支給です」 客は目を丸くした。 「ジムなのに?」 「ジムだからこそ、です」 その日から口コミが広がった。 「走ったらパンがもらえるジムがある」 「自転車を漕ぐと電気が作れるらしい」 「ローイングすると油が搾れるらしい」 「何それ」 「知らない。でも面白い」 やがて、健康志向の人々が集まり始めた。 ある人は野菜を選び、 ある人は全粒粉を選び、 ある人は運動量を増やして、サンドイッチを作った。 施設の壁には、創業者が最初の日に書いた言葉が掲げられていた。 «汗は小麦粉になる。» 誰かが笑った。 誰かが写真を撮った。 誰かが、その言葉をSNSに投稿した。 そして、それがいつしか、このジムの合言葉になった。 汗は、ただ流れて消えるものではない。 動いた力は、どこかへ渡せる。 昔の人々が、水や風の力を使って小麦を挽いたように。 現代の人間も、自分の身体を動かして何かを生み出せる。 男は完成したジムを見渡した。 最新式のマシン。 最新式の管理システム。 最新式の設備。 その中心で、昔ながらの製粉機がカラカラと回っている。 彼は笑った。 「未来って、案外、昔の中にあるんだな」 今日もまた、一人の客が走り始めた。 カラカラカラカラ。 そして、明日のパンになる小麦粉が、少しずつ増えていった。 シュールな小麦粉物語 ジムに入会した。 理由は単純だった。 「健康のため」 「体力をつけるため」 「運動不足解消のため」 そういう、いかにも正しい理由を三つほど並べて申し込んだ。 受付のお姉さんは、にこやかに言った。 「では、本日のトレーニングはこちらです」 渡されたメニューには、 スクワット 30回 腹筋 30回 腕立て伏せ 20回 ランニング 5km そして最後に、見慣れない項目があった。 粉挽き 10kg 「……粉挽き?」 「はい」 「何を?」 「小麦です」 ジムの奥を見る。 そこには、巨大な石臼があった。 どうして。 私はただ、運動不足を解消したかっただけなのに。 しかしトレーナーは真顔だった。 「身体を動かせば、汗が出ます」 「はい」 「汗が出れば、小麦が育ちます」 「はい?」 「小麦が育てば、粉にできます」 「話が三段跳びなんですけど」 トレーナーは石臼を指差した。 「だから、最後はご自身で挽いてください」 意味が分からない。 だが、ジムとはそういう場所なのかもしれない。 私は走った。 スクワットをした。 腹筋をした。 腕立て伏せをした。 汗が出た。 そして、なぜかジムの裏にある畑から小麦が運ばれてきた。 黄金色の小麦だった。 「昨日のお客様の汗で育ちました」 「私の汗じゃないですよね?」 「みんなの汗です」 そう言われると、急に共同事業のような気がしてきた。 私は小麦を石臼に入れた。 回す。 回す。 ひたすら回す。 ごり、ごり、ごり。 やがて石臼の隙間から、白い粉がさらさらと落ちてきた。 トレーナーが満足そうにうなずいた。 「完成です」 私は粉を手に取った。 さらさらしている。 真っ白だった。 「これ、何に使うんですか?」 「パンです」 「……ジムで?」 「はい」 翌朝。 私はその小麦粉で作られたパンを食べた。 昨日のスクワット。 昨日の腹筋。 昨日のランニング。 昨日の汗。 昨日の粉挽き。 全部が、パンになっていた。 私はパンを一口かじった。 そして思った。 身を粉にして働くな。 身で粉を作れ。 今日もジムへ行こう。 石臼が待っている。
発送予定日
- マウスパッド - 長方形(長方形 - ポリエステル / ゴム)2026-08-31

