純正源石ギミック(VRChat)
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ドクター。ひとつの都市が存在したことを、君は何によって確かめる。 地図に残された名称か。行政機関が保存する人口の推移か。それとも、荒野を渡ってきた人間が、ときおり故郷の方角へ向ける沈黙か。移動都市の航路は書き換えられ、国境は幾度も引き直される。そのたびに、かつて誰かが家と呼んだ場所と、記録上その都市が存在する座標との隔たりは大きくなっていく。やがて地図の上には、何の矛盾も残らなくなる。置き去りにされた者の記憶だけが、その正確さに異議を唱え続ける。 テラにおいて、形を保つということには、それだけの困難が伴う。 君の掌に収まるこの結晶は、その困難について何も語らない。琥珀色の外殻は光を受け、内部へ折り重なる反射は、中心に近づくほど強い輝きを帯びる。見る角度を変えれば、明るかった面が沈み、それまで闇に覆われていた奥行きが現れる。その奥に浮かぶひし形は、観察する君へ向きを合わせ、同じ輪郭を示し続ける。 人は、こうしたものに永続性を見いだす。昨日と同じ形をしているものが、明日もそこにあると期待することは、生活を営むうえで必要なのだろう。私も、その期待の有用性を否定するつもりはない。ただ、源石によって灯された明かりの下で、源石によって変わってしまった身体を診てきた者として、その美しさについて語る際には、少しばかり説明を付け加える必要がある。 この大地では、同じ結晶を動力として数える者と、病の進行として数える者がいる。前者の帳簿に記された数値が都市を動かし、後者の診療記録に記された数値が、ひとりの人間に残された選択を狭めていく。両者の記録は、それぞれの場所で正確に作成される。そして、その正確さだけでは、互いの間に横たわる距離を埋めることができない。 ロドスが進み続ける理由のひとつは、そこにある。 今回、君に渡す「純正源石ギミック」には、触れた者の身体を蝕む性質までは持たせていない。PC版VRChatの中で、その光と、形と、崩壊の過程を扱うために用意したものだ。掌に乗せ、角度を変え、内部の輝きを観察するといい。君が結晶に対して行える操作は、握り続けることと、手を開くこと。その程度に整理されている。 もっとも、選択肢の数と、その選択がもたらす結果の重さには、必ずしも相関があるわけではない。 標準設定では、およそ三秒。握り続けた結晶には亀裂が走り、その線は光を帯びながら表面へ広がっていく。やがて輪郭は支えを失い、ガラス状の破片となって周囲へ散る。破片の間から解き放たれた光粒は上方へ舞い、少しずつ薄れ、君の視界から消えていく。そこにあった形を思い出すために、ほんの短い時間だけ、その痕跡を残してある。 君は、それを美しいと感じるかもしれない。 その感覚は覚えておくといい。人間は、崩れ落ちるものからさえ美を見いだす。その能力によって耐えられる喪失もあれば、その能力ゆえに見過ごされる喪失もある。どちらであったかを知るには、光が消えた後に何が残っているかまで、目を向ける必要がある。 砕ける前に手を開けば、結晶を投げることもできる。ワールド版ではPickupとして掴み、物理挙動によって手放せる。アバター版では右手の動きを引き継ぐメッシュパーティクルが、その軌跡を表現する。後者を他者が拾うことはできない。誰かへ渡すつもりで手を伸ばすのなら、この違いは先に理解しておいてくれ。差し出す側の意図だけで、受け取る側に可能なことまで決まるわけではない。 投擲、あるいは破砕の後、およそ八秒で再び使用できる状態へ戻る。 八秒という時間を与えれば、同じ形をもう一度、君の前に用意できる。この小さな仕組みの中では、失敗した操作を繰り返し、気に入った光景を何度でも確かめられる。君が疲れるまで眺めていても、結晶はそのたびに応じるだろう。 私は、それをささやかな便宜だと考えている。 この大地で失われた都市にも、帰還を待たれた人間にも、そのような時間は設定されていなかった。だからこそ、繰り返せるものについては、安心して繰り返せばいい。美しいと思った光を、もう一度見たいと願うことまで、諦める必要はない。 アバター用とワールド用、二種類のパッケージと導入資料を同梱した。君の用途に合う方を選び、記された手順に従ってくれ。 ……ドクター。もう一度だけ、という顔をしているな。 構わない。次の八秒までは、ここで待とう。
「石を割りましょう、ドクター」
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