
I gotta jet beloved lily (さよならリリィ) 8/19開催 SUPER COMIC CITY 関西24 発行 全年齢/A5/20P 少部数通販になる為少々値段に変更ございます、申し訳ありません。 安全の為にBOOTHパックを利用いたします。
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それは夕日に馴染むことない、鮮明な赤だった。 普通に生きていれば見ることはない、微かに光る赤いポインターは小さな少年の頭を狙っていた。考えるより先に降谷の足が動く。これ以上僕の隣を歩く足音をなくしてたまるか、まだ足掻ける僕にやれる事がある。目指すのは君がいる場所、想いはそれだけだった。 「——っ、避けろ!」 只一発の銃声が、不思議とこの世界に響き渡る。 引き裂く様に叫んだ声が彼に聞こえていたのかは分からない、それでも降谷は小さな少年の元へ辿り着いていたのだ。 「あむ、ろ……さん?」 「駄目じゃないか、周囲の安全確認は真っ先にしないと危ないよ」 ……生きている、そんな当たり前にあってほしい現実に降谷は安堵し頬が緩むのが分かる。喜びを表す様に胸が温かさで満たされていく。 ずるり。力が抜けるがままに座り込み胸に手をあてた降谷の脳裏に、ふと昔に幼馴染が放った一言が思い浮かんだ。 『胸にできた傷は、全力で向き合い闘った証だ』 当時はくさいセリフだなと軽く笑い飛ばしたものだが、確かにその通りなのかもしれない。これが今の僕にできる最大限。後悔はない。そうして降谷は自身の赤く染まる手をそっと握りしめた。 バタバタとこちらに駆け寄る音が近付いてくる。 「う、そだろ。なぁ! 安室さん!」 降谷の隣にしゃがみ込んだ小さな彼の拳は、痛いほどに握りしめられ震えていた。 『大丈夫だ』そう伝えようと自身の手を開いた時、降谷は気付く……奪う行為と守る行為は紙一重の行動だと。過去に苦い思いを味わった己が、目の前の少年に同じ思いをさせようとしている現状に降谷は苦い笑みを浮かべた。 「どうやら気付くのが遅すぎたみたいだ」 手放したくない。その一心で守っていたはずの鮮やかに輝く青色が、じわりじわりと歪んでいくのが分かる。残念ながらそれを止める術を今の降谷は持ち合わせてなどいない。 ——あぁ、君の瞳には僕の行動はどんな風に見えていたのだろう? ごめんね。そう言って差し出した手は、誰にも届くことなく夕日と共に暗闇へと落ちていった。 *** 大切に抱え込んでいたものが、不意にこの手をすり抜けた気がした。振り向いた先に見えた赤く染まる夕暮れに、それは溶けてなくなっていく。 消えてしまいそうなそれを追いかける為に、降谷は暗闇へと一歩踏み出した。 どこに辿り着けばそれが見つかるのかは分からない。見果てないものだと知っていながらも、歩みを止めることだけは何故かできなかった。 『もう遅い』 『諦めろ』 頭に響き渡る誰かの声に降谷は耳を塞ぐ。言われずとも己が一番理解しているのだ。……それでも、求めずにはいられない。諦めきれなかった。 分かっているからこそ、降谷は届くかもわからない——その何かを追いかけている。 生き延びて、そして——を救うのだ。 胸にこびりついたその気持ちだけが、今の降谷にとっての唯一の道標だった。 「——ゼロ」 風と共に通り抜けたその声は、愛しい子どもに向けられる子守唄のような優しい音色に聞こえた。 一つ、また一つと降谷の隣から聞こえていたはずの足音が消えていく。共に走り抜けたあの青春も、守ろうとした正義も——カツンと鳴り響く自身の足音で消されてしまう。 ……音を奏でるのは、もう降谷一人だけだ。 === ——ドクン。 何かが伝わりそうな、そんな鼓動を感じる。それはどこか痛くて、苦しくて暖かい。 僕はその痛みをもどかしい位に感じていたはずなのに、胸に宿る痛みにつく名前を認めるわけにいかなかった。 降谷の光は、年端もいかぬ少年なのだ。 するりと掌からこぼれ出る光を、守らなければならないと思っていた。暗闇の中で生きる僕に光を与えてくれる君に、それ以上を求める訳にはいかない。 それはそう、意地を張っていたとも言うのだろう。 今まで降谷の隣に立っていた奴らは、自分より市民や友を救うためならばと……その光を次々と散らしていったのだ。 もう失いたくはない。 だからこそ、降谷自信が守り通すそれだけで十分だと思い込むようにしていた。 それに……この気持ちに名前があったとして、それを君に伝えてしまったら僕の前から消えてしまう。そんな気がするんだ。 ぽつり、と言葉を零した降谷は闇に浸る様に目を閉じた。 ——次に見る夢はきっと幸せな現実でありますように、そう願って。