
古代小説(創作)、ファンタジーぽいものもあり。 全7編 62p 二段組 豊与は、海をこえて外つ国からやってきた。肌を日ざしに焼かれた屈強の船人たちに守られるように、彼女は立 っていた。肩までの黒髪が潮風にゆれ、あおざめた白い肌がきわだってみえた。 【さざなみの子守歌】 この晩は、満月だったのだ。 廊に出てひさしのむこうの月を見上げていると、白く輝く光の中に 吸い込まれてしまいそうになる。 「きれいね」 女鳥姫の姿は、月光の中で淡くにじんで見えた。肩にかけた襲が天 女の衣のようで、伊波姫はしばしみとれた。 「すぐに欠けてしまいます。満ちた月は悲しいですわね、大后さま」 月を見上げる横顔が、ひどく思い詰めているように見えるのは、気 のせいではなさそうだ。 「あなたはお美しくなられたわ、女鳥姫。さながら、欠けることを知 らぬ月のように」 年若い大王と、彼の美しい異母妹はさぞかし似合いの妹背になるこ とだろう。 「大王はあなたのことをたいそう大事になさるでしょう」 【真玉手、玉手さしまき】 周りの者たちは、斎王として私を敬いあがめる。 けれど、私自身が私を認めきることなど、一度だってできたためし がない。 たとえば、この衣を使い童に着せかけて、扇を持たせたらば。御簾 のうちに座らせたなら。誰が私の不在に気づくだろう。 たまらなく息苦しかった。 じっとしていたら、物狂おしく叫びだしそうだった。 重たい衣を脱ぎ落とし、白い小袖と袴一つになる。髪をくくって顔を上げると、私は御簾の外へしずかにすべり出た。【そなたの空】
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