Phantasmagoria
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- Phantasmagoria - 二階堂と六つの世界線のお話。 A5モノクロ 32P
有坂先生と二階堂助手編
「時に二階堂くん!キミは多世界解釈というものを信じるかね」 「突然なんの話ですか、有坂先生」 「量子力学の話だよ。至極簡単に言うとパラレルワールドのことなのだがね。つまるところキミは、こことは違った別の世界線を生きる自身について、考えたことがあるかね」 「本当に突拍子もないことを……まあそりゃ考えたこと無くはないですけど。でもだからと言って別に、真剣に考えたことも無いですよ。あまり現実的じゃないんで」 「また二階堂くんは浪漫のないことを言っているね!全くキミは私の助手になってから長いというのに、いつまで経っても私とは真逆で冷めた男だ!まあそこがキミの良いところで、私とは実に相性が良かったりするのだがね」 「はぁ」 「そのそっけなさも、実に面白いものだ!私の周りにいる他の部下たちは、やけに私を尊重したがるし丁寧に扱いたがる者ばかりだからね。それはとても有難いものだが、一人の意見が尊重されるというのは、同時に危険を孕んでいるということでもある。キミは私にとって非常に良いバランスの取れた、新しいタイプの人間だというわけだ。私の助手にキミを推薦した鶴見くんは、やはり目が良かった!私に足りないものを十分に理解しておる!」 「それで、別の世界線がどうかしたんですか」 「ははは!悪いね話が逸れてしまった!私が講義している大学の生徒が、前にそんな話をしていたから気になってね。専門外の分野だから本やネットなんかでも調べてみたのだが、大変興味深かったというわけだ。夢のある話だと思わないかね!」 「はぁ…夢ですか」 「現在において私は、日々開発に取り組み、時には若者へ教育を施し、そしてキミたちと研究成果を上げるといった生活で、充実した日々を送っているつもりだ。しかしまた別の世界線の別の時間軸において、私という存在が別の分野で成果を出し、偉業を成し、そしてその近くで別の世界におけるキミが、今とは違う立場で私に関与している可能性だって、あるということなのだよ!世界線が違えても関わりがあると考えるのは、夢があると思わんかね」 「そうですか。大変有意義なお話だと思います」 「二階堂くんのその、思ってないことを口に出すところも、思ってないのが相手に伝わってしまっているところも、大変面白くて私は好きだよ!」 「有坂先生が相手だから言ってるんです」 「ははは!私は随分とキミに心を許されているな!」 「先生は何言ってもポジティブに取るんで、俺からしたらそっちの方が面白いですけど。なんにせよ、どんな世界線が存在しようが、先生と俺の関係性はあんまり変わらない気がしますが」 「ほう!変わらないとは、いかに?」 「有坂先生は俺を振り回すし、俺は先生に振り回されます」 「あっはっはっは!そんな風に感じていたとは。キミは本当に歯に衣着せぬ物言いをする!」 「本当のことですよ。何度実験台にされたか、もう覚えてないです俺は。でもそれと同じくらい、先生は俺を助けてくれますから。どこの世界線だって、きっと助けてくれるんでしょう、先生は。まぁなのでつまり、振り回されてもそれでプラマイゼロってやつです」 「ほう、キミからそんなしおらしい言葉が聞けるとはね!キミを助手にして6年、初めて聞けた言葉な気がするよ。実に嬉しいものだ」 「恥ずかしいんでもう言いませんから。あと今年で助手になって7年です」 「ははは!そうだったかな!なんにせよ、二階堂くん。こんな唐突な話題にもぶっきらぼうながらにちゃんと付き合ってくれて、本当に良い部下を持ったもんだな私は。キミの中での私の評価がプラスになるよう、精進せねばならないようだね!はっはっは」 「そんなこと言って、次の実験でも俺のこと使う気じゃないですか。また勝手にスケジュール入れられてたの、見ましたよ」 「いやはやすっかりバレてるね!キミのことは誰よりも頼りにしているからね。はっはっは!」 「………善処しますよ」 多世界解釈。 並行世界。 パラレルワールド。 どこか別の世界線。 そんなものが存在するのかどうかなんて、分かりもしないし知りもしない。 けれど、先生とこんな関係性を築けている世界線は、もしかしたらここにしか無いのではないだろうか。 きっとどこか、ここではない世界では、自分はこの人に大切なものを与えられてばかりで、その恩も全く返せず、そのまま潰えてしまったのだろうと。何故かふと、そんな考えが頭をよぎった。いつもの自分ならば、非現実的で馬鹿馬鹿しいと、鼻で笑って一蹴している空想を、この時ばかりはあり得た事なのだろうと思ったのだ。 だってこの人は。底抜けに強くて賢くて、そして優しい人だから。弱っている自分に、笑顔で手を差し伸べるような人だから。 この人に何も返すことができなかった。そんな、どうにもならなかった痛ましい世界を想った。 けれどここでは、いつでもこの人の力になれるのだ。 ここにいる自分は、この人に仕えて正解だったのだと。先生のいつもの笑い声に居心地の良さを感じて、そんな風に思った。





