ソウホク村は今日も平和です。
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A6サイズ/104頁/35000字/健全/2024年6月30日発行 エクソシスト神父東堂さんと魔王巻ちゃんによるドタバタコメディ本です。 魔王の存在を知ったエクソシスト神父が魔王を退治すべくソウホク村を訪れます。けれどもその村は平和そのもので、魔王と人間が諍いを起こすことも無く生活しているといった話です。 短めのサンプル(8頁分)→ 「一体これはどういう事なのだ?」 東堂は呆然とした。右手に持っていた聖書を危うく落としそうになり、素早く持ち直す。無意識に左手はペクトラルクロスに触れる。その手で左頬をきつくつねる。平素の東堂なら、「美形の顔に傷がつく」と絶対しない仕草だ。赤くなった頬を撫でることもなく、東堂は目の前の光景に釘付けとなった。 「教皇さま! 魔王が存在すると言う噂を耳に致しました! それは本当なのですか!」 巻島教皇は口元に指を一本立てて静粛を促した。ノックもせずに入室した東堂は不作法だったことに顔を赤らめた。そっと静かにドアを閉めてその場に留まる。教皇が許可を出すまで待機した。 一通の手紙を書き終えた教皇は、教皇の証である指輪を使って、赤い蝋燭を垂らした手紙に押印する。 「何事だ東堂神父。お前というものが取り乱してどうする。それでは下のものに示しがつかないぞ」 「失礼致しました。つい気が急いてしまいました。ですが本当なのですか? 魔王がいるとは」 謝罪のために手本となるような綺麗なお辞儀をした東堂は前のめりになり机に両手をついた。 「うん、いるよ」 「『うん』ってあまりにも軽くないですか?」 爽やかな笑顔付きで肩を竦める教皇に東堂の気が削がれる。 「軽く言っても重く言っても魔王がいることに変わりないからね。それよりも魔王の存在を今まで知らなかったことが不思議だよ」 「私もそう思いますが、何故かその情報を耳にすることが無くて」 「珍しいこともあるものだ。お前友達いないのか?」 「友達は関係ありません。だが聞いたからには放っておけない。俺に退治させてください。魔王は悪だ。人間にあだなす存在です。そんな悪を生かしておくことはできない。俺が魔王を成敗してやります」 「良いよ」 明朗快活な回答に軽く眩暈を覚えた東堂は眉間のシワを揉みほぐした。教皇の前で不遜な態度を取ってしまい慌てて表情を引き締める。 「では決まりですね。早速魔王退治に出発しますので、後のことはよろしくお願いします」 「現在抱えている事案はないのか?」 「ええ、昨日片付けてきました。後始末は新米でもできる仕事です。ですから特別問題ありません」 「相分かった。けど一人で行ってくれないか。教会はいつでも人手不足なんだ。魔王退治に避ける人材は今のところいなくてね」 「俺一人で十分です。吉報を携えて戻ってきますので、その時は階級を上げてください」 「そうだな、次の階級は司教だったな。年齢的に少し足りないけど良いだろう。東堂神父、朗報を待っているよ」 「ええ、期待していてください」 教皇の部屋に直接入室することができるのは身分の高い大司教からだ。東堂の階級は神父だが、教皇に直に声を掛けることができるし、苦情を言うこともできる。それは東堂がエクソシスト神父なためだ。エクソシスト神父は数少ない貴重な存在であり、教会内でもある程度融通が利く。東堂は階級が神父でも実質大司教並みの待遇が与えられている。 しかしながら東堂はエクソシスト神父と言うだけで崇め奉られることは性に合わない。それならば階級を上げることで名実ともに名を馳せることを望んでいた。魔王を退治できたら出世は約束されたも同様だ。東堂は改めて気を引き締めた。 教皇区がある首都ハコガク市はヨワペダ国随一の海の玄関先だ。海から輸送される全ての物資がハコガク市に集まると言っても過言ではない。珍しいもの、目新しいもの、貴重なもの。文化の発信地であり、ハコガク市に無いものはないと言われている。「唯一無いものは魔物だけだ」と笑い話になるほど、活気に満ちた街だ。 「何? 港がないだと?」 魔王が巣くうソウホク村は山の奥深くの村なので、港がないのだと福富船長はすげなく答える。成程、港がなければ船で行くことは無理だ。これでは陸路でソウホク村に行くのはどれほどの時間がかかるか想像できない。 「神父さまはそんなにソウホク村に行きたいのか?」 頭を抱えて渋面を作る東堂に福富船長が尋ねる。 「うむ、そうだ」 「あそこは陸の孤島だと言われているぞ」 「陸の孤島?」 福富船長の言葉に荒北副船長は、「そうだぜ」と頷く。 「ソウホク村には直に行けない。けど近くの港までなら行けるぜ」 「それは本当か?」 「ああ一番近い町はキョウフシ町だ。そこへは今出港するところだ。神父さまどうする? 乗るか?」 「乗せてくれ」 「決まったな。船長、一人くらい増えても平気だよな。担い手が増えるぜ」 「そうだな。了承した」 船賃の交渉──値切ることに成功した──が無事にすんで、東堂神父は福富船長の船に乗り込む。途中何度か補給のために寄港して最後はキョウフシ町に到着する予定だ。 東堂は船員や客員にソウホク村の情報収集してみても一向にはかどらない。ソウホク村自体を知らない者が殆どで、「何故そんなことを聞くのか」と逆に質問されて、「魔王がいるからだ」と人心を動揺させてはならないので言葉を濁すことも度々あった。 それでも根気よく情報を集めている東堂の前に二人組の男がやって来た。 「神父さまソウホク村のこと知りたいんか?」 「知っているのか?」 「知ってるよ」 あっさり返されて東堂は拍子抜けした。東堂が情報収集に奔走しているのを知りながらようやく声を掛けてきたのは、出港から7日経っていた。 「知ってるけど、ただではなあ」 「そうですね」 二人組は顔を見合わせた。御堂筋と小毬は商人だ。売れるものは何でも売るし、客が望めばどこにでも買いに行く。その中でも情報は命綱だ。その命綱を無償で他人に教えることはしない。例え交渉相手が神に仕える神父であっても同じだ。 東堂は舌打ちしたいのを必死に堪えて、御堂筋の言い値で情報を買った。幸い軍資金は潤沢にある。ただソウホク村までの旅程がどれほどかかるのか分からないので、少しでも節約したいのが本音だ。 どこにも逃げることができない船の中なら御堂筋の情報も信憑性はあるはずだ。多少高い金額を払っても、東堂は野草の知識があるし、狩りの腕は一級品だ。軍資金が底をついたらサバイバルをしようと楽観的に考えることで折り合いをつけた。 御堂筋が言うところでは、ソウホク村はキョウフシ町から南西の方角にあり、道に慣れた者ならば徒歩二カ月でたどり着ける。けれども道が整備されていないため馬車が入れないのだと言う。そのため歩いて行かなければならない。それに山あいの村なので一度や二度行っただけではたどり着けないほどの山々が道中を困難にするそうだ。 「それならばソウホク村はどうやって生計を立ているのだ?」 「ここだけの話、あそこは金が取れるんだわ。そのまま売っても儲かるけど、ソウホク村は金細工で生業を立ているんだわ。小毬、見せてやれ」 「はい」 小毬は背負箱の中から金細工を取り出す。シャリンと耳に優しい音を立てる髪飾りの精緻さに東堂は舌を巻いた。これほどの装飾品ならば首都ハコガク市でも高値で取引できるほど緻密で精巧な品物だった。何故この金細工が首都に出回らないのか不思議なほどだった。そんな東堂の疑問を察知したのか、御堂筋は目を三日月型にして意味深に笑う。 「行ってみれば分かるわ」 「お前は行ったことがあるのか?」 「ないよ」 「無ければ何故知っているのだ?」 「聞きたいなら追加料金払ってくれ」 「いや、いい。行けば分かるのだな?」 「そうや」 ずる賢い狐のようにぬらりくらりと態度を変える御堂筋は気に食わなかったが、一応礼を述べて、東堂は一人考えに没頭した。 「うむ、考えても仕方のないことは考えるな」 元来、東堂神父はポジティブな性格なので、それ以上考えることを止めた。情報は少ないが入手できたことで良しとする。それよりも後三週間も船に乗っていなければならない。東堂は船旅を満喫したと言いたかったが、そんな悠長なことは言っていられなかった。 『働かざるもの食うべからず』 乗船中の船員だけでなく乗客──女性や金満家を除く──は全員労働力だ。東堂に与えられた仕事はロープの点検だった。マストの綱が緩むと一大事になりかねない。手先が器用な東堂はもやい結びを習得して、自分の仕事をきっちりこなしただけでなく、どんな仕事でも人並み以上にできたので、福富船長から、「神父を止めて船乗りにならないか。賃金は相場の倍だぞ」と勧誘された。周囲の人達から羨望と嫉妬のまなこで見られて、東堂の自尊心をえらくくすぐった。 ちょっとだけ長めのサンプル→ https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22322550









