【2026.3.20新刊】ファーストキス
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【新刊】「ファーストキス」 文庫版/48p/全年齢/500円 大さに既刊(※完売)「ラストデート」の続編です。誰かの面影を胸に抱く大包平に恋した審神者の、恋の行方の物語。クリスマスデートです。 「ラストデート」はイベント終了まで期間限定で全文をpixiv再録しております。よろしければぜひ。続けて読むとハッピーエンドになるはずです。 以下、冒頭サンプルです。 ─────────────────────── 「ねえ、大好きだよ」 大包平はじっと私を見た。鋼色の瞳の向こうにイルミネーションの金が揺れて、本当に、本当に美しかった。 「大好き。……大好き」 ありがとう、と言うと、大包平はただ頷いた。綺麗なひとだと思った。ああ、そのまっすぐな心が、姿勢が、私は大好きなのだった。 向かい合う。足を止めた私たちを人々が避けていく。全部忘れない、と思った。全部忘れない。この瞬間のすべてを、全部忘れない。あるかなしかの風に揺れる大包平のマフラーも、遠くで聞こえるクリスマスソングの鈴の音も。 「ずっと、ずっと、大好きだよ」 大包平は頷く。まっすぐな目で。私はくしゃくしゃと笑み崩れて、行って、とその手をそっと握った。 「行って。時間だよ」 「ああ」 その手は私の手を握り返した。私は泣きたくなって、でもそれをこらえてなんとか笑った。一番かわいい私だけを覚えていてほしい、そんなことを思いながら。 さあ、お別れだ。 繋いだ手を振り払う。私の心がぶつりと千切れる。それでも笑う。笑う。笑って、どうか、 「幸せでね」 「ああ。……感謝する」 お前のこの先の幸いを願っている。 最後にそう言って、大包平はさんざめく光の中へと歩き出した。 さあ、物語をはじめよう。 この物語は、私が失恋した瞬間からはじまる。長い、長い物語だ。願わくばこのまま、|永久《とわ》に続けと、私は祈ってやまない。 けれど、その前に少しだけ、私の話を聞いてほしい。大包平に叶わぬ恋をした、私の話を。 はじまりは、ある冬の日だった。 「大包平!」 息せき切って廊下を駆けてきた私に、大包平は振り返った。私は滑る廊下に急ブレーキをかけてどうにか立ち止まると、ずいぶん高いところにあるその顔を見上げる。 「海に行こうよ!」 「……この時期にか」 寒いぞ、と言いながら、大包平はなんだか優しい顔で苦笑する。 「大丈夫!」 握っていたデバイスをずいと掲げると、大包平はそれを覗き込んだ。私は画面をスワイプする。色とりどりのライトアップと、きらきらしたメリーゴーランドが大写しになった一枚の広告。 「てーまぱーく」 「そう!」 チケットが取れたの! と私は意気込んだ。 「海沿いのところなの。クリスマスシーズンは毎回チケットが争奪戦で、ほんとになかなか行けなんだから!」 だから、と、私は息を継いだ。祈るような気持ちで。 「だから、一緒に行こう?」 大包平は小さく息を飲んだ。 その肩で透明な陽が揺れている。赤い髪が透き通った風に震える。鋼色の瞳がすっと伏せられて、その唇が、何か言葉を紡いだ。 「ん? なに?」 「いや」 行こう、と大包平は笑った。 「現世だな? 手続きはわかるか」 「わかるよ!」 何回目だと思っているのだろう。大包平はいつだってこうやって私を子ども扱いする。まあ、私は二歳で母からこの本丸を継いで以来、皆に育てられたようなものだから、その感覚が抜けないのも無理はないのかもしれないけれど。 とにかく、一緒に行けるのだ! 私は小躍りしたい気持ちだった。今すぐ大包平に飛びついて大はしゃぎしたい。そんなことできっこないけれど、それでも、とてもとても嬉しかった。 「ありがとう!」 私はまた走り出す。胸の奥でボールが跳ね回っているような心地がする。 大包平に恋をして、もうずいぶんになる。 はじめての恋だった。好きで、好きでたまらなくて、誰彼構わず叫び出したいような気持ちになる。大包平がどんなにかっこいいか。どんなに優しい目で私を見るか。 私の大包平は、何代もの主の元で戦い続けてきた刀だ。 私の母の前も、何人もの審神者が彼を振るってきた。そのせいだろうか。大包平はどうしようもなく優しい刀だった。尖ったガラスが海を旅するうちにやわらかに曇って丸みを帯びるように、大包平は美しく摩耗して、シーグラスみたいなあたたかな目で私を見る。 その目に恋をした。そして大包平は、きっと、それをちゃんと知っている。 今だって、ともに行く相手が自身であることに疑問を持ってはいないようだった。その上で私を拒まずにいる。それは、ただ拒絶されるよりも、ずっと残酷なことだ。 終わりにしよう、と、思っている。この旅で。この恋を。 「ねえ」 大好きだよ、と私は口ずさむ。大好きだよ。あなたの胸の中に、誰がいようとも。

