Miseria
- おまけ本(わんとおてがみ)つきShips within 7 daysOut of StockShips by Anshin-BOOTH-PackPhysical (direct)600 JPY
- 本のみShips within 7 daysOut of StockShips by Anshin-BOOTH-PackPhysical (direct)600 JPY

アコード姫パロ A5/40ページ ゆうさんに描いていただいたポメキララクしおり付き ラクスのいない世界で生きていたキラなので、治安悪いです。 苦手な方はご注意ください。 個人の解釈と設定でつくられております。 おまけ本 本編と関係ない短編 「わんとおてがみ」 ポメ話2本、貴族パロ1本 イベントでお付けしたコピー本はPrivatter+でもお読みいただけます。 「お姫様の話」アコード姫パロ2本 書きたかっただけの話1本 PDFは購入者限定特典です。転載は禁止・再配布禁止です。
サンプル
「ここには、誰も来ませんから」 あの時感じた、満開に咲く薔薇の香り、彼女の空気が夢のように思える。 彼女の薔薇が燃えている。爛れ、灰になっていく。 月明かりに照らされた彼女の顔、声ももう聞こえない。 敵陣の利用すべき存在。 短い逢瀬の中で、キラは彼女を深く知ってしまった。 まだ世界の悲しみも、醜さも知らない。残酷さも何も知らない。 純粋と片づければ済む話。 血に塗れたキラを知れば。 キラを蔑み、愛し、憎悪するだろう。 そして、戦えというだろう。 それだけの力を持ち、できるのだから。 彼女の庭は、薔薇の香りに、包まれ天国のように感じる。 色とりどりの品種も、香りも違う薔薇は、夜も眠らずその花びらを開き二人を迎える。 月明かりと星だけの庭は、しっとりと、冷たくキラの頬を撫でた。 小さな灯りを持った彼女をキラは見失わないように追いかける。 「目も耳もいいのですよ」と、彼女は楽しそうに薔薇のアーチを抜ける。 花以外は何もない。機械も電気もない。未だ蝋燭が揺れる光はキラを誘う。 宇宙に放り出されたように孤独な場所だと、キラは思った。 甘い薔薇の香りが肺に満ちた。 キラはその幻想を追うように、足を動かした。 彼女は唯一持っている美しい庭をキラに見せたいと言う。 現代の光に慣れたキラには、「いくらコーディネイターでも、暗く見えない」と冷たく言った。 「あなたには見えても、私には見えないものがあるのですよ。その逆も」 はっきりと事実を伝える声は、鋭さを隠していた。 ざわざわと木々のざわめきがキラの耳に響く。暗闇の中で、音に敏感になった。 優しく油断させなければいけないのに、彼女にはそれすらも忘れさせる。 関わりたくない。それでも離れられないでいる。 気が付けば、無意識に彼女を試す行動を繰り返していた。 「まあ、そうでしたか」と、彼女は何でもないことのように言う。 そして、「少し失礼します」とキラの手を取った。 キラの手袋越しに感じる体温が彼女を人間だと思わせる。 ちりっと何かが入り込んだ違和感に視界が一瞬歪んだ。 不快感はないが、何かが包み込まれた感触がある。 あたたかい毛布のようだ。 甘い香りも好ましく、ゆっくりと瞬きをキラはした。 次に目を開けると、自分の姿が見える。 低くなった視界に、色までも鮮明に見える。 「同じですわ」 彼女は言うと自分の瞳を指さした。 彼女の視界を共有しているのだと、その一瞬でわかった。 自分の姿が鏡のように見えた。 彼女の映す自分。 それはキラには、冷たく醜い化け物に思える。 「化け物」と自分に対して漏れた言葉に、ラクスは「ふふ」と小さく笑って手を引いた。 冷たい指先がキラの手首に触れ、手袋に包まれた手のひらを撫で離れる。 ほんの僅かの肌の触れ合いに、思わずキラが手首を引き寄せて確認した。 いつもある不快感がない。それどころか、触れたいとすら、一瞬思った。 力を見せても、彼女は無邪気に「こちらですわ。見頃のお花がありますの」と言った。 月明かりの中を二人で歩くと、彼女が歩いた道がぼんやりと光って見えた。 そんな筈はないと、すっと追い越すように彼女の隣を歩いた。 白に紫のスカートがふわふわと揺れている。 幼馴染と別れた日に咲いていた桜のように、ふわりと彼女の髪が広がって夢の中に連れていかれるようにも感じた。 ゆらゆらとまるで眠気のような空気に、ぼんやりと彼女を見つめていた。 白いフリルに包まれたままの指先が動いた。 彼女の手の先に、薄紫の薔薇が咲いていた。 彼女とリンクしているせいか、それは今まで見た花の中で、一番美しく思えた。 彼女が口づけるように顔を寄せると、キラにまでその香りが共有される。 「この薔薇は、あなたに似てますわね」と透き通った声は彼女のものか、キラのものか曖昧に感じた。 一番美しいと思った花が、一瞬にしてその座を奪われた。 一瞬だけ彼女の感情が見えた。彼女自身も驚いたように、すぐに月影に消えてしまった。微かな変化を恥じて、僅かな声色の変化を誤魔化すように、完璧な音楽のように彼女は話した。 「特別なお花」 キラにではなく、自分に話しかけていた。 屈託なく。 “ただ似ているだけで──” キラは自分の中で、小さく灯った気持ちを握り消した。 そう笑う彼女だけは偽りなく、そこに残る。 それでも手を伸ばす先に僕はいない。 手を伸ばす。 春風に少し触れた気がした。
